![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/46/e7/989913eb0c9f08982fddcce06e53f191.jpg)
平田オリザ『幕が上がる』
講談社文庫 2014年
ある地方の高校演劇部を指導することになった女性教師が部員らに全国大会の出場を意識させる。高い目標を得た部員たちは恋や勉強よりも演劇ひとすじの日々に。演劇強豪校からの転入生に戸惑い、切磋琢磨して一つの台詞に葛藤する役者と演出家。彼女たちが到達した最終幕はどんな色模様になるのか。2015年2月に映画化する、爽快感を呼ぶ青春小説の決定版!
=例会レポ=
ゴールデンウィーク開幕を控えた4月30日、4月の例会の「幕が上が」りました。参加者は男性7名、女性16名の合計23名。1室しか確保できなかったため、テーブルいっぱいに並ぶことになりました。
さて、実は3月の例会でこの作品が課題本に選ばれた際、推薦者の頭のなかに、「こりゃ、ヤバイことになるかも」と、イヤな予感がよぎったのでございます。自他ともに本読み巧者と認め、一言主のごとき辛口意見が常時飛び交う例会にあって、この作品がやり玉にあげられることは必至と考えてしまったのです。
――ところが、いざ始まってみますと、何と、何と、絶賛の嵐! 中高生時代に自分、もしくは友人が演劇部だったという思い出を語り、そこからこの作品への思いを語ってくれた人、作者の平田オリザへの熱い思いを語ってくれた人など、大いに盛り上がりました。
・中学の時に演劇部だったことを思い起こして楽しめた。舞台という三次元の世界は、役者やスタッフがいっしょになって作っていく。
・清涼感。エピソードには臨場感があり、演劇の面白さが伝わってきた。
・すなおに読めて、すなおに楽しめた。読む前に思っていたほど、青臭さを感じなかった。
・恋愛がからんでいないところがいいと思った。後半の、主人公がいかに演出していくのかを考えながらお芝居を作っていくシーンは熱中して読んだ。作中で取り上げられた『銀河鉄道の夜』には涙、涙。
・いい人ばかりで、かたき役が出てこない。人間が舞台で演じている迫力が伝わってきて、高校演劇のリアリティがよく描かれている。
・青春群像劇として描くならば、恋愛とか勉強とかもっとディテールを描くのだろう。作者は、舞台を作ることとは何か、演技をすることとは何か、を描きたかったのだろう。
・演劇部に入りたいと思った。指導する人がいい人なら、それだけで生徒は伸びていくんだ。
・読みやすく、さわやかな風に吹かれた思い。印象的なのは国語の滝田先生。
・舞台の雰囲気がよく描かれていて、ワクワクした。青春小説の王道とも言える展開で、安心して読めた。
・すごく楽しくて深夜まで読んでしまった。主人公の人間力が高すぎて、自分自身の未熟さを感じてしまった。
・どのようにして舞台が作られていくのかがわかって興味が持てた。文化部小説はブームのようだが、試合のない文化部を扱った作品はあるのだろうか
・悲しい青春時代を送った反動から、「女子高校生もの」は無条件でOK。
・映画を先に見てしまったが、この映画が実に良かった。作者が物語の形を借りて、じつは演劇論を書きたかったことがわかった。
・小説の形を借りた平田オリザの演劇論。登場人物の言葉を借りて、作者の演劇理論を語っている。後半、『銀河鉄道の夜』を出してきたあたりから、物語が大きく変わっていくところがすごい。
・感動した。高校時代のいい思い出のみがフラッシュバックでよみがえってきた。現役の高校生が読んだらどう思うのだろう。
このように大好評のもと迎えられるとは推薦者も驚きの展開でした。
・こういう学生生活が送れればよかった。面白いのだけれど、それほどの思い入れはなかった。
・歳のせいだろうか、なかなか読み進められなかった。
・この歳だと高校生ものは無理だった。
などの感想もありましたが、これらも作品への意見というよりは、作品を合わせ鏡にして映る自分自身への感想ではないかと思ってしまいました。
最後に、満を持しての菊池先生をからのお話しは、
・いまブームになっている思春期系小説(と、自分は呼んでいる)は、作者が登場人物のトラウマを描くことばかりに集中してそれが鼻についてしまう。
・この作品の良いところは、登場する人物のいっさいのキャラクターが描かれず、掘り下げられれていないところ。作者の演劇理論がまず先にあり、そこに実際の高校生演劇を当てはめている(ただしこれは弱点にもなっている)。後半の主人公の演出シーンは、まさに作者の演劇理論を表わしているのだろう。
・平田オリザという劇作家の持っているものがよく表されている。得意分野を題材にして書いて成功した例だ。
皆さん、ありがとうございました。推薦者は見逃していたももクロ主演の映画を、この連休中に見に行こうと調べましたが、すでにほとんどの映画館で上映は終了しており、唯一の都内での上映が、深夜枠一回限りと知ってあきらめてしまいました。行きたいと思ったら、即実行――教訓ですね。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます