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1月の課題本『宗教が往く』松尾スズキ

2011-02-03 21:42:00 | ・例会レポ

松尾スズキ『宗教が往く・上』(文春文庫) 松尾スズキ『宗教が往く・上』(文春文庫)

松尾スズキ 『宗教が往く』

マガジンハウス 2004年
文春文庫(上・下) 2010年


マガジンハウス
文春文庫

<例会レポート>
初版刊行時に読んで松尾スズキの(演劇やエッセイ等を含む全活動の)集大成だ!最高傑作だ!と興奮した記憶があったので、文庫化のタイミングで推薦したんですが、再読してたらこりゃ大変、ここまで露骨に下品な描写だらけだったとは。これじゃあ内容以前に題材やネタで拒否される可能性があるよなあ、下手すれば推薦者の人格否定もあるだろう、今月限りで自分はおも本を去ることになるのかもしれない、などといった不安を心の奥に抱えながら過ごす新年。今年の初夢が松本清張「鬼畜」の東京タワー場面の再現だったことは今回の不安と無縁ではないでしょう。
が、ふたを開けてみると好評とは言わないまでも完全否定はほぼ見当たらずひと安心(挫折したという方も少なからずいましたが)。ふた部屋とれたのにひと部屋に納まる人数(会員22人+講師1人)だったところに何かしらの意味を感じるべきなのかもしれませんが、ぼくは鈍いのでそこんところはよくわかりません。
という長い前置きはさておき、みなさまのご意見から。

・荒削りながら作品をまとめあげる力があるが、ナンセンスなものをやるなら、そこに何らかの批判もほしい。

・頭からラストまできちんとつながり、不必要なものはないが、各エピソードが濃いためメインの流れが弱い。

・ほとんどエロ、バイオレンス、スカトロ描写だが、トーンダウンしないところに感心。フクスケの異形にあまり意味がないのが残念。

・小説としてはおもしろくないが、読んでいる間はおもしろかった。芥川賞候補になった『老人賭博』のようなまともな小説だとおもしろくない。

・24ページまで読んで口直しに別の本を手に取ったらもう戻れませんでした。

・カフカとカミュの間、「不条理と不条理の間」という描写に感動。しかしヒヒ熱が蔓延した世界の自暴自棄な空気が感じられない。

・『クワイエットルームにようこそ』は平気だったけどこれは別格に描写が強烈。100人のうち1人好きなら成功か。

・おもしろいけど小説としては破綻してる。キャラクターた人として描かれているというよりは記号化されていて全て作者の手のひらの上にある印象。小説というより、松尾スズキの一部として読むべきかも。

・小説というより講談。お話をおもしろおかしく語っていくのは演劇をやっている人だからか。

・エログロナンセンスは初期の筒井康隆作品を読んでいれば目新しくはない。フクスケの異形や痛覚がなくなることが活かされてなくて物足りない。ミツコの「あたしをわかれ!」の繰り返しに感動。ちなみに母(83歳)はおも本の課題本を毎月読んでいるのだが、これははじめて「読めなかった」とのこと。

・読み飛ばしながら筋を追ってラストまでどうにか。エログロを乗り越えて純愛を楽しみたかったが苦手。いかがわしい宗教団体について詳細に書かれているかと思ったらそうではなく残念。

・読みながら眉間にしわがよるが負けてたまるかと読み終えた。言い回しのくどさに挫折しそうになった。好きじゃないけどおもしろかったが、ラスト2章に入ってから理解できなくなった。

・性や暴力、死がグロすぎて受け入れがたく、上巻半ばで挫折。つまらなくはないがブラックユーモアがきつい。

・文章にリズム感があり、脱線してもつじつまがあう。ブラックな笑いは好きだがこれはくどく長すぎしつこすぎ。

・テレビドラマ『マンハッタン・ラブストーリー』に俳優として出ていた松尾スズキを見て正気を疑う作品を書きそうと思ったらそのとおり。ミツコの「あたしをわかれ!」や双子のラストはこの人なりの純愛か。フクスケの母の「試し欲」の気持ちはわかる。

・根本的にこれがなんで本という形式でなければならないのかがわからない。予告を打っているようにしか思えず消化できなかった。

・『クワイエットルームにようこそ』や雑誌のエッセイはおもしろかったがこれは……。読んでいて体の具合が悪くなり、読了後に会社を休んでしまった。ところどころはおもしろいが全体にネガティブオーラ満載でそれがダメだったのかも。

・前書きが言い訳じみていて、どう落とし前をつけるのかと怒りながら読んだらラスト2章からスピード感が出て気持ちよく読み終えた。汚い描写の後につづくピュアなラブストーリーはめんどくさいがかわいらしいと思えなくもない。

・以前の課題本、阿部和重『シンセミア』はおもしろくなく評価も低かったが、あれはいい人がひとりも出てこない作品。『宗教が往く』は登場人物がみなバカだけどイヤな人ではない。評価はできないけどおもしろく感じるのはそのためか。

・宗教にまつわる話と思ったらいい意味で裏切られた。確かな文章力に支えられた表現に魅了される。文章のリズムの力も大きい。

・前書きを読み終え本編に入ったあたりで挫折。(一人称が消えるはずの)本編に入ってからも作者の視点が残ってる感じ。『クワイエットルームにようこそ』はおもしろかったがこれは惨敗。

また、体調不良で欠席しながらもメールで感想を送っていただいた方も。感想は実に対照的。

・感情移入して読んでしまうので、ギャグ的描写だろうが女性をあのように書かれてしまうともう無理。上巻で挫折。

・激しいエログロ描写はひとつ間違えば下品になってしまうが、言葉の裏に愚かな人間への愛がちりばめられている。苦労しながらも楽しんで書いているのがうかがえ、乗ってしまえば読み手もこの世界を楽しめる。

講師からは下記の発言が。

・小説というものは予備知識なしに読めるものであるべき。この本の場合、作者や演劇に関心のない人が留意されてしまっている。前書きもエッセイであり小説とは言いがたい。しかし作者は優れた戯作者。文章のリズムは読ませるものになっていて、これが「小説」になったらすごいものになるだろう。

以上、作品評価は高くなくとも読書会にはかなり向いた課題本だったのではないでしょうか。といっても以後、私が推薦したものは物凄く選ばれにくくなりそうな予感がありますが。

レポート:田中

 

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