織田 作之助 『夫婦善哉』
新潮文庫:1974年(改版) / 講談社文芸文庫:1999年 / 雄松堂出版:2007年(完全版) / 各種全集など
芸者上がりと所帯を持った化粧品卸問屋の息子柳吉は、勘当され、家を出る。
剃刀屋、関東煮(かんとだき)屋、果物(あかもん)屋、カフェーと転々と商売を変えるがちっとも長続きしない。
こんな男になぜ蝶子は惚れるのか。
たくましい大阪人の、他人には窺い知れない男と女の仲を描く『夫婦善哉』ほか、人間の切ない感情を見事に謳い上げた『木の都』など6編。
早世が惜しまれる織田作之助の代表短編小説集。
新潮文庫
<例会レポート>
今この本を読む意味がわからない、という意見もありましたが、まあ、何かの本を読んでみたいと思う心の動きは人それぞれ。色々と沸き立った先月の課題本の余波で、読み巧者の評判も高い又吉さんの紹介文に
読書心を誘われて、ついでに推薦してみたら、通っちゃった、という次第でした。
和室のせいか、課題本のせいか、出席者は少なめでしたが、意外にも好評でした。
映画化もされ、はたまた嘗て「蝶々雄二の夫婦善哉」というテレビ番組もあったせいか、
名のみ高くて作品を読んだことがない人が多く、
私も夫婦が色々苦労を重ねてぜんざい屋を出して成功する話だと思い込んでいました。
全体として
*会話文と地の文が溶け合い、大阪弁の色気が感じられた。
*大阪の街の生活の様子が伝わる。
*大阪の食べ物がおいしそう。
というように、大阪のローカリティと結び付いた感想が多かったのですが、逆に
大阪の地名がピンと来なくて退屈だ、と言った人もいます。
蝶子柳吉をはじめとする登場人物については
*駄目おとこに対しての〈出来た妻〉にならないところがいい。
*柳吉は母性本能をくすぐる。
*男としては柳吉の生き方が理想。
*蝶子の頑張る様子はけなげ、お金がなくても何とか人生は回っていくものだ。
*蝶子は自立した女。
*二人で夫婦善哉を食べる様子が良かった。
*蝶子への親の情愛に、感動した。時代が変わっても親の愛は変わらない。
といった感想がある一方で、
*夫婦になれない男女の愛であり、女の意地、執着を感じる。
*柳吉を捨てられない女の性、それは又吉の言葉を借りればピュアな狂気で、読んでいて苦しい。
*結婚していないからこそ続いた仲である。
*二人をつないでいるのは実は性愛なのである、
等、さすが読み巧者のみなさま、鋭い指摘です。
また、
*文の短さの割に情報量が多い。
*大阪弁と地の文のバランスがいい。
語り口がうまい。
など、テクニックについて高い評価です。
これらを踏まえて菊地講師からは、
織田作之助は嘗て演劇を志したこともあり、それが作品の間(ま)の取り方の上手さに
表れている。
そこに描かれる庶民生活は西鶴のリアリズムにつながる戯作の伝統であり、
私小説への反発が感じられる。
当時の文学者は、ほとんどが左翼に傾倒して、転向を強いられるという経験を持つが、
織田作之助は左翼の洗礼を受けなかった数少ない作家であり、それが作品の長所となっている。
昭和21年にサルトルに言及するなど、文学的センスも抜群であったが、
早世したのは惜しまれる、という解説を頂きました。
織田作之助は、新戯作派として、太宰治や坂口安吾等と並び称される割にはその作品が読まれていない、
半ば忘れられた作家です。
しかし、私が読んだちくま文庫版の「織田作之助集」の中には、『木の都』『競馬』など
今読んでもちっとも古臭くない短編がありました。
織田作之助は、大阪と言う大都市の日常性を描いた故に、太宰の醸し出す(わざとらしい)ローカル性に負けたのか?
長生きしていたら、もっと評価が高かったのではないかと思います。
無事是名馬、なんですよ。
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