〈読書会〉おもしろ☆本棚

毎月都内で読書会を開いています。
お問い合わせは omohon.renraku@gmail.com まで

1月の課題本 三浦哲郎『白夜を旅する人々』

2015-12-05 01:36:31 | ・例会レポ

三浦哲郎『白夜を旅する人々』
新潮文庫 1989年 ほか

昭和の初めの東北、青森―。呉服屋〈山勢〉の長女と三女は、ある重い運命を負って生まれついた。自らの身体を流れる血の宿命に脅えたか、心労の果てに新たな再生を求めたか、やがて、次女は津軽海峡に身を投げ、長男は家を出て姿を消した。そして長女もまた…。必死に生きようとして叶わず、滅んでいった著者自身の兄姉たちの足跡を鎮魂の思いでたどる長編小説。大仏次郎賞受賞作。 (Amazon 内容紹介より) 

=例会レポート=

 例会のスタート直前に行くと、いつもより出席メンバー数がどことなく少ない。。。
 これは、やはりこの本がどうもだめ、うけつけないという人が多いのではないかと心配しつつはじまりました。

(多くの方々に共通した意見)
・テーマが重い
 テーマの重さ故に、読了後には重い気持ちで終わるのかと思いきや、多くの皆さんはそれほどは悲しさを感じることはないという感じでした。
 その理由としては、①羊吉の誕生 ②文章の美しさ ③命を絶った人に覚悟があった ④東北弁のやわらかさ 等々があがりました。
 もちろん、さわやかでない、辛かったというコメントもありました。

・文章が美しく、ぐいぐい読める。
 私自身は、小説の文章の美しさとかについて感じる・考えることってあまりないのですが、多くの方々がコメントされているというのは事実そういうことなのでしょう。
 確かに読み易いとは感じましたが。文章の美しさについての感性を磨かねば。
 これに併せて、文章から映像が眼に浮かぶようでしたという意見もありました。

・障害と時代について
 当時の障害者と障害者を取り巻く家族達の立場は、非常につらいものであったのではないかというものについて多くの方が述べられていました。死を選んだということ時代ゆえというのもあるのかもしれません。
 また、遺伝的障害という問題について光をあてたところには意味があるという方もいらっしゃいました。
 この小説のテーマのひとつは障害者問題であることですが、障害をもたない次女の孤独・つらさについての指摘もありました。なるほど、この場合は持たない辛さか。。。
 ご自身の身内の方に障害者がいらっしゃる方からは、それゆえの共感・辛さなどのコメントもありました。

・家族のつながりのなさ、
 兄弟のそれぞれが問題を感じて、重いものを背負っているが、個々人が苦しんでいる状況であり、家族の繋がりが欠如していることを感じられる方が多くおられました。
 その協力関係が無いことに悲しさを感じたり、それをやさしさの空回りとコメントされている方も。家族だからこそ言えないということもあるのでしょうか。
 家族間の関係が密でない一方、家というしがらみによる問題・悩みについても多くの方が感じていました。

(その他のいろいろな意見)
・最後まで読めていない・・・合宿でもないのにページ数は確かに多かったですね
・女性と時代について・・・障害者と時代だけではなく、当時の女性としての生きにくさについての指摘がありました。

・Dさんの分析・・・この小説の悲劇性、神話性、各章ごとの組み立て等々を論理的に分析されました。小説をロジカルに読み解く力に脱帽です。
 特に、この小説の中の登場人物間での物のコミュニケーションがある一方で言葉でのコミュニケーションの欠如を時代故の問題・悲しさという視点についてはなるほどと感嘆しました。

・白夜の詩がよかった・・・小説のタイトルにもなって、すばらしい

(菊池先生の講評)
・この小説を書いたのは、血の繋がりにおそれを作家自身が感じたからである。
 また、死んだ人の思いを伝えたいという気持ちも執筆の大きな動機となっている。
 そして、その文章は写実描写であり、それが秀逸である。

・日本は私小説が書かれることが多く、志賀直哉はその典型。
 三浦哲郎は、1989年の朝日新聞で私小説は「忍ぶ川」以外は書いていないと語っている。つまり、作者自身はこの小説を私小説と位置づけてはいない。
 文学は、血・家族・土地が大きなテーマであり、この小説ではそれらが語られている。

・三浦哲郎は、他にも「おろおろ草紙」、「はまなす物語」、「現代騎士道」、「少年賛歌」といった良い小説がたくさんある。純愛小説もあるので読んでみてほしい。

(さいごに)
 重いテーマで決して楽しい小説ではありませんが、スピード感を持って読め、気持ちに残る小説でありました。この気持ちは多くの皆さんと非常に共感できてよかったです。
 えっ、そんな風に感じるの?と違う意見を聞くのも読書会の醍醐味ですが、共感できるのもよいものですね。
 菊池先生が三浦哲郎の短編は素晴らしい、この小説は41編の短編小説だとおっしゃっており、短編小説に興味を持ちました。しかし、新潮文庫の広告に載っている短編集はもう絶版になっていました。残念です。新潮文庫はどんどんよい本を絶版にして、いまいち文庫をがんがん新規に入れているような気がしてなりません。がんばって古本探します。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 11月の課題本 山川方夫『夏... | トップ | 2月の課題本 辻村深月『朝が... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

・例会レポ」カテゴリの最新記事