福永武彦 『廃市』
新潮文庫 1971年 (新潮文庫は絶版です)
他に、『百年文庫69 水』(ポプラ社、2011年)等に収録されています。
「僕」は、新聞記事で十年前に滞在した運河の町が火事で焼失したと知る。下宿先の旧家のこと、美しい姉妹のこと…あの夏の記憶が動き出す。
=例会レポ=
推薦者が『海市』のつもりで『廃市』を推薦した、という裏事情はあったもののかなりの高評価を得た課題本でした。
ほぼ全員に共通した感想は、文章が確かで、美しいということ。
また、
*古臭くない、読めて良かった。
*水の音が聞こえてきそう、光が水に映る情景が目に見える。
*夏と言う生気あふれる世界なのに、全編を通して死の匂い、倦怠しか感じない。
*安子の衣装などの具体的な描写など無いのに、安子の姿が立ち上がってくる。
*声を出して読みたくなるような文章。
*相手を慮るが故に思いを直接口に出せずにどんどんすれちがっていくという日本の小説らしい小説であり、
*翻訳したらその魅力は伝わらないのではないか。
*戦後日本文学の正統としての良いところがすべて現れている
と、福永武彦の作家としての力量への賛辞が続きました。
一方で、
*『廃市』のモデルとされる柳川が、自分のイメージではない。
*文庫本(新潮文庫)の解説が作品の持ち味とは異なる。
*郁代のひたむきさが逆に人間関係をややこしくしている。
*恋愛は人を不幸にする。
というような感想もありましたが、作品自体のマイナスを語るものではなく、おおむね好評であったと思います。
講師からは、芥川、堀辰雄、そして戦後の福永武彦、中村真一郎へと続いていく日本文学の系譜についての指摘がありました。
ちなみに新潮文庫以外の、ポプラ社の「百年文庫」版が大変好評であったことも申し添えます。
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