カジノを解禁するための統合型リゾート(IR)実施法案が、延長国会の対決法案となっている。参院の審議が近く始まるが、衆院段階で新たに論点になったのが、カジノ事業者による金融業務だ。事業者が賭け金を貸す仕組みが許されるのか徹底的に詰めてほしい。
法案によると、カジノ施設内では、現金自動受払機(ATM)の設置や貸金業者による営業が禁止される。ところが、外国人と一定の預託金をカジノ事業者に預けた日本人に対し、事業者が賭け金を貸せる。
ギャンブルにのめり込んでいる人は、負けを取り返すためさらに賭ける。カジノで賭け金を貸すことは、胴元が利用者の勝ちたいとの心理につけ込むことにつながる。依存症を生み出す恐れがある危うい行為だ。
預託金の額は、法成立後にカジノ管理委員会規則で定めるという。政府は、富裕層を想定した制度で、日本の実情に合った金額にすると説明するが、額の設定次第では、借金ができる層が広がる懸念がある。
貸金業法は、返済能力を考慮し、利用者の借入金額を年収の3分の1に制限している。カジノの貸し付けが、こうした規制の対象にならないのも大きな問題だ。カジノ事業者は貸金業者ではないためだ。
事業者は信用機関を通じ利用者の資産などを調査し、返済可能とみられる額を個々に設定できる。しかも、貸付金の額は預託金の額とは無関係に決められる。
政府はカジノを外国人観光客の増加に結びつけたいと説明するが、日本人の利用が多くを占めるとみられている。ターゲットと目されているのが富裕高齢者の余剰資金だ。仮に年金収入しかない高齢者でも、退職金などのまとまった資産があれば、事業者が多額の賭け金を貸し付ける可能性はあるだろう。
当初1万5000平方メートル以下だったカジノ面積の数値制限がなくなり大規模カジノの設置が可能だ。こうした点を含め、法案が事業者の利益を優先している実態が読み取れる。
他国のカジノでも、条件付きで利用者に賭け金を貸す制度がある。ただし、日本は世界最高水準の規制をうたう。手持ち以上の資金で賭博を可能とする仕組みは、ギャンブル依存症対策に逆行する。
社説