松下啓一 自治・政策・まちづくり

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★信頼の地方自治(戸田市)

2013-01-12 | 2.講演会・研修会
 戸田市では自治基本条例をつくっているが、その前段で行政職員と市民による協働プロジェクトがあり、その報告会があった。
 自治基本条例は、自治の基本をもう一度組み立てなおすプロジェクトである。したがって、どこからか条文を集めて、そのよいところを寄せ集めて条文を作っても何にもならない。そこで、各自治体では、自治体ごとに試行錯誤を繰り返すことになる。
 戸田市の場合は、市民委員会を作る前に、市民と行政職員によるプロジェクトをつくり、一緒に現場にでて、市民にとって身近な課題を解決するにはどんな仕組みが必要なのかを探るところからはじめた。戸田市方式といえるものである。
 この日は、その成果がまとまったので、報告会があったが、私は次のようなコメントをした。
 戸田方式は、かなり難易度が高い方式であるが、正直、こんなにうまくいくとは思わなかったというのが率直な意見である。
 なぜ難しいのか。その第一は、市民と行政職員による共同作業であることである。実際に考えてみるとその難しさがよく分かる。まず行政職員はどう考えるか。市民と一緒にやるのはいいが、文句を言われるか、あるいは要望ばかりをされるのではないか。多くの職員は、そんな心配を持ちながら共同作業を始めたのだろう。市民も同じで、役所の職員は、えばりくさって、あるいは杓子定規なことばかりいって、話が進まないのではないか。そう思った市民もいたと思う。そうした疑心暗鬼から出発するから難しいのである。しかし、これは案ずるより産むが安しである。
 難しさの第二は、この共同作業では、テーマの解決策を考えるのではなく、解決するための活動を活発にするための理念、手法や仕組みを考えるからである。ごみの減量で言えば、どうすればごみが減るかを考えるのではなく、ごみを減らすための活動を活発化するための手法や仕組みを考えるからである。今回は、4事例を共同で調査検討したが、ここから共通事項が浮かび上がってくる。それを救い上げて、普遍性を持つ仕組みや手法になるように、さらにたたき上げるのが、自治基本条例である。特に、第2の点は難しいが、見事に乗り越えた報告書となった。
 次は、こうして浮かび上がってきたヒントを条文につなげていく作業であるが、これは次の市民委員会が引き継ぐことになる。幸い、この協働プロジェクトのメンバーが大半、市民委員会に入ってくれることになったので、うまくつなげることができるであろう。
 報告会では、市民の人たちが司会をやり、発表をやったが、どれもうまかった。若い人は、おそらくさまざまな仕事で鍛えられているのだろう。年配の人は、その持ち味を出していた。市役所職員も勉強になったのではないか。
 このなかでも、とりわけ年配の0さんはとてもいいことを言っていた。ご自身も三陸海岸へボランティアに行かれたそうであるが、「市民の多くが役所を信頼しなかった。それが被害を大きなものにした」との指摘は重要である。大きな津波が来るという情報に対しても、「どうせ今回もたいしたことがない」と考えて、逃げ遅れた市民も多いからである。
 なぜ、そういうことが起こるのか。情報提供のあり方という問題もあるが、地方自治制度そのものが、住民が役所を疑うところから成り立っているということがもともとの原因である。たしかに、疑うことで、市民のための役所を実現したという一面はあるかもしれないが、もっと大事なものを潰してしまったのではないかというのが私の問題意識である。少なくとも地方自治では、疑うことだけでは、私たちは幸せになれないというのが私の到達点である。まさに自治なのだから、疑いよりも信頼や励ましのほうが有効で、3.11という体験をした私たちは、改めて、信頼の地方自治を再構築するときがきているのだと思う。自治基本条例は、そのための仕組みのひとつである。
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