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地方選挙では、国のような政策競争ではなく、その政策をどのように実現できるのか、その人の力量や手法が問われてくる。地方は人を選ぶ選挙という側面が濃厚である。
その証左として、投票に行かない理由を見てみよう。国政選挙と地方選挙に関するアンケートである。
平成25年参議院議員選挙を対象に行った「選挙に関する世論調査」(東京都選挙管理委員会)では、選挙に行かない主な理由は以下の通りである。
- 「仕事が忙しく、時間がなかったから」(38.8%)
- 「政治や選挙には関心がないから」(16.4%)
- 「自分一人が投票しなくても選挙の結果に影響がないから」
- 「旅行やレジャーに出かけていたから」(13.9%)
他方、平成23年の横浜市議会議員選挙を対象に行った棄権の理由の調査では、以下の理由となっている。
1.「どの候補者がよいかわからなかったから」(30.2%)
2.「あまり関心がなかったから」(15.1%)
3.「病気(看護を含む)だったから」(13.1%)
4.「仕事や商売が忙しかったから」(12.0%)
「どの候補者がよいかわからなかったから」が、地方選挙ではトップになっている。国政選挙では、選挙は政権を取るためのものだから(議会で多数を取るための競争)、候補者個人というよりも、その人が自民党か立憲民主党かといった選択が重要になる。これに対して、地方は、二元代表制で、ともかく選ばれた議員たちが、テーマごとに集合離脱し、首長と政策競争をするシステムである(党議拘束はそもそもおかしい)。とりわけ首長は大統領であるから、その人の個性が選択の大きな要素となる。
だから、首長の場合、選挙で、その人が政策企画力があるか、本当に実行力があるか、職員をまとめる力があるか、市民に訴える力があるか等、リーダーとしての適性が判断できなければならない。
たとえば、相模原市長選挙では、相模原駅前に広がる米軍の返還地の活用が最大の争点だった。候補者4名の考え方は、次のとおりである(神奈川新聞アンケートから)
本村賢太郎氏
市民の大切な財産。今後の利活用については、市民が憩い、にぎわう空間として、スポーツ・市民文化などを中心に、市民参加型コンペなどの開かれた手法を検討し、市民の皆さんと熟慮した上で決めていく。
宮崎雄一郎氏
災害時の拠点空間に加え、駐車場付き駅前保育園・認定こども園、国際的な研究開発・起業タウン、スポーツのできる場として利用する。また、ドローンや空飛ぶ車など未来交通の開発拠点とする。
加山俊夫氏
相模原駅周辺全体の活性化の原動力としての役割が期待されており、首都圏南西部の広域交流拠点として周辺都市をけん引できるよう、多様な機能を備えたにぎわいと活力あるまちづくりを進めていく。
八木大二郎氏
プロスポーツの観戦やコンサート、市民が主役のイベントなどを開催できる「相模原アリーナ」を建設。大規模災害に対応する日本一の防災拠点としても活用し、災害時は大規模避難施設として利用する。
これを見ても、正直、違いがあまり分からない。一見すると違いがあるように見えても、条件が決まっているので、話を詰めていけば、結局、同じようになる。
条件の一つは、この土地は国有地で国から買い取らればいけない。相手もあり、交渉事である。タイミングもある。なによりも、相模原市民の税金をつぎ込むことになるので、購入時はできる限り安く、その後の維持管理費が安く、収益を生むものでなければならない。ここまで条件を決められれば、おのずと答えは同じようなものになる。
本当に知りたいのは、こうした交渉ができる企画力があるのか、交渉力があるかである。かつてならば、忖度もあった。安倍さんの奥さんに頼むという方法もあったかもしれない。しかし、森友事件後は、もう国はそんなことはできなくなった。真正面からの買い取り交渉となる。
できるだけ安く買い取るには、国も納得できる(価格をまけることができる)提案が必要である。これを考え、国の意向を探りつつ、道筋をつけるためのリーダーシップが必要である。買い取った後は、できるだけ相模原市民の税金を使わないような維持管理のシステムや、収益が上がるシステムを考えなければいけない。こうしたことが、果たしでできるのか、どのようにやろうとしているのかが分かって、初めてリーダーの力量や人柄を判断できる。
地方でこそ、こうしたリーダーの力量を知る機会を重層的に作っていかなければいけないが、それは今では、ポスターと名前の連呼にとどまっている。それを乗り越えようとする試みのひとつが公開政策討論会である。
地方選挙では、住民が投票行動を起こすのに十分な候補者情報が提供されていない。それが投票率の低迷の原因にもなっている。その提供システムを考えるときである。