松下啓一 自治・政策・まちづくり

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*初対面・はじめの10分

2012-07-20 | 4.政策現場の舞台裏
 講演や研修では、よく野球の話をする。テキストにも遠慮なく書いていて、「地方自治法と地方自治の違い」は、野球のルールと実際に野球の試合で勝つこととの違いであるなどと「図解地方自治早わかり」(学陽書房)に書いている。「9人で野球をやろう」のほうは、「市民協働の考え方・つくり方」(萌書房)に書いていて、あちこちで話もしている。
 今日では、ホームランのような自治体政策は望めない。社会全体の閉塞感を受けて、ホームランを期待する向きもあるが、打てるはずはない。橋下大阪市長が、期待のホームランバッターのようにも見えるが、あまりに外野の守備がいい加減だったために三塁打になってしまったようなものである。今後、一線級のピッチャーに立ち向かいようになると、大きなファールボールを打つのが精一杯になるだろう。良くも悪くも、それだけ日本の地域や社会はしっかりしている。
 だから、地方自治ではヒットを狙うしかないことになる。ヒットでは、対応できない課題も出てくるが、それに対しては、別のヒットで対応すればよいのである。私たちの社会は、重層的な社会なので、ヒットが重なることが大事なのだと思う。その社会の重層性も、時代や社会の変化で、層が薄くなっているところも出ているが、それを補強するのが、自治体政策である。
 横浜市で外郭団体にいたときに、経済界の人たちとお付き合いがあった。いくつかのことを学んだが、そのひとつが、初対面の人と会うときの話のはじめ方である。はじめの10分の使い方であるが、教わったのは、そこで野球の話をするというのである。
 「はじめまして」と言って名刺を交換し、いきなり用件に入るのでは、まとまる話もまとまらない。まず天気の話をして、次に野球の話である。「昨日の高橋は惜しかったですね」などというのである。そういったことを含めて、10分ほど話をして、「ところで」と本題を切り出すことになる。全員が野球を好きなわけではないが、これが大人なルールである。
 ただ、この手法も、最近では、通用しなくなっているのだろう。忙しすぎるので、いきなり用件から入るべきだという意見もあるかもしれない。たしかに、時候の挨拶が続くメールは、じれったい。それよりも何よりも、野球の話題が、社会人の共通項で亡くなってしまった。野球といえば巨人であったが、今ではアメリカ大リーグであったり、楽天があったりで、焦点が定まらない。私自身も野球は見なくなったし、今の子どもたちで、巨人の1番から8番まで、言える子どもは、そう多くはないであろう。
 はじめの10分は、今日でも導入部として意義があるとすると、では何が社会人の共通項なのか。サッカーには野球に代わる力はなく、やり投げでは「元気」と言っておわりである。
 さて、最近の私は、はじめの10分では何を話しているのだろうか。
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