「……」
夏の蒸し暑い風が流れる。木々の隙間からこぼれる光さえ、目を焼くような……そんな日差しを小頭はみつめてた。おばあちゃんの話……あの扉、小頭は地獄の門だと思ったそれと、鬼たちの姿を見てなかったら、おばあちゃんは何を言ってるんだろう? と思ったかもしれない。おばあちゃんは小頭とは違ってずっと地面を見てる。おばあちゃんはきっと悔いてるんだ。後悔してる。なにせ……
「私が……あの扉の向こうに行くべきだったの。それなのに……足軽は私を帰してくれた。足軽はきっとあの扉の向こうに行ってしまってるわ。ごめんなさい。もしかしたら……もう足軽には……」
ポタポタとおばあちゃんの瞳から涙が流れてる。きっと自分を追い詰めてたんだろう。小頭はそんなおばあちゃんの前に立つ。そしてハンカチを差し出した。
「おばあちゃん。まだ諦めるには早いよ」
「小頭ちゃん?」
おばあちゃんはびっくりしてる。まさか小頭がそんな事をいうとは思ってなかったんだろう。なにせおばあちゃんにとっては小頭は小さな子供で、可愛い孫娘だ。小頭はもう中学生だからとか思ってるが、おばあちゃんにとってはいつまで経っても小さな子供なのだ。だからそんな小頭が強く立ってるのを見て驚く。もっとうろたえると思ってた。それに、責められたりしてもおかしくないし、その覚悟だっておばあちゃんはしてた。でも小頭は優しい顔でおばあちゃんにハンカチを差し出してる。まるで後光がさしてるようにおばあちゃんには見えた。
「おばあちゃんがこっちにいるんだもん、お兄ちゃんだって戻ってこれるよ。それに……」
そういってどこかに合図するように小頭はうなづいた。すると二人の人物が現れた。それは額に角が生えた男女。男は浅黒く女は赤黒い。そんな二人が小頭を挟むように立ってる。そのうちの女のほう……それを見ておばあちゃんは声を荒げた。
「だめ! 小頭ちゃんこっちにきて!」
そういっておばあちゃんは小頭の差し出してたハンカチではなくその手をそのまま掴んで引き寄せる。そして二人の鬼から守るように小頭をその体で包んだ。困ったように二人で顔を見合わせる鬼たち。
「私ならどうしてもいいから! この子には何もしないで!」
それはおばあちゃんなりの決死の覚悟だったのかもしれない。足軽に助けられたから、何としても小頭だけはまもろうとする気概。自分はどうなってもいいとおばあちゃんは思ってるんだろう。けどそこに小頭が優しくいうよ。
「大丈夫だよおばあちゃん。二人は見た目ほど野蛮じゃないから」
「……」
「あはは。見た目ほどって傷ついちゃうよ」
鬼男はただ静かに目を閉じてる。鬼女は軽い感じでそういった。それに対しておばあちゃんは「え?」という。
「おばあちゃんは彼女に会ったことあるんだよね?」
「……ええ、目覚めたときに……でも彼女は何も言わなかった。そのまま去っていったわ」」
それにあの見た目だ。おばあちゃんが誤解するのも無理はない。小頭は鬼女を無言で見つめる。すると罰が悪そうに鬼女はこういった。
「だって、私もあの時は混乱してたし? とりあえず無事だったのならいいかなって……」
どうやら鬼女的にはちゃんと無事を見届けるまで傍にいた……という事らしい。そしておばあちゃんが目覚めてなんの問題もなさそうだったから、とりあえずその場を離れた……と。わからなくもない。彼女だっていきなりこっちの世界に来たんだから混乱してたのも納得だ。言葉が通じるんだから、二人で情報共有したらよかったじゃん……と小頭は思うがきっとそれは結果論なんだろうと思う事にした。
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