午後になり、やさしい風が吹きはじめる。 眼をつむり、耳を澄ます。 樹々が揺れ、枝と葉とが触れあい、さらさらとまるで囁きあっているよう。その音を意識して聞くのは、いったいどれくらいぶりだろう。 ぼくの心は、しだいに落ち着きを取りもどす。 そして、まぶたの裏には、子どものころに見た風景がよみがえっていた。
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旅先で知り合ったイタチさんが、「うちに来なよ」と誘ってくれる。 気が進まなかったけれども、イタチさんにお招きいただくことなんか滅多にあることではないので、ぼくは将門煎餅を手土産に、イタチさんちを訪ねる。 丘の上に建つその家は、とても豪奢で、ぼくは一瞬で気後れしてしまう。 そう云えば、以前、旅先で出会ったときの彼の立ち振る舞いに、どことなく生まれつき備わっているらしい気品のようなもの感じたこ . . . 本文を読む
堂々寝坊をした男、窓から外を眺めている。
そこに通りかかった近所のガソリンスタンドの店員が、
「調子はどうです?」
寝坊男は応えて云う。
「そんなことより、あなたのほうはどうなんです?」
「……!!」
店員、ただ呆然と立ち尽くす……。
完
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