つぶれた競艇場をぼくはさまよう。
場内は白く荒れ果て、壁や階段は崩れかかり、人けはまったくない。
場内にあったBARの跡地に入る。
やはりここも荒れ放題。割れた瓶やら壊れた椅子やらが転がっている。
ふいに店の奥から男が1人現れる。
それは、ぼくだ。
もうひとりのぼくだ。
もうひとりのぼくは云う、ぼくとまったく同じ声で。
「ぼくにはわかる」と。
「お前の悩みが、苦しみが」と。
ぼくはただ聞いている。
もうひとりのぼくはつづける。
「……そして、それを解決する方法も」
云い終えると、もうひとりのぼくはゆっくりとぼくの前まで歩いてきて、ぼくの喉を両手で掴む。
そして、その両手にだんだんと力が入ってゆき……ぼくはもう声を出すことができなくなり……
ぼくは心底ほっとした。
終
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