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◯
病院を抜け出したふたつの変死体は、住宅街の変死体が生前行きつけだったバーへ。
バーと云っても大人びた堅苦しさのない、居酒屋のように気楽な店で、店長こだわりのタレがかかった〔かつおのたたき〕が看板メニューだ。
店に入るや、女性店員が住宅街の変死体に気づき、
「あーっ‼︎」
と声をあげる。驚きと喜びが混ざった表情で。
「死んだって聞いたから、心配してたんだよ! 大丈夫なの?」
云いながら、駆け寄ってくる。
住宅街の変死体は隠しきれないニヤニヤを口の端に見せつつ、
「大丈夫、大丈夫。たいしたことないよ」
「よかったー」
彼女はほっと笑顔をつくって胸に手をあてて見せる。
横で事務所の変死体は、所在なげに店のなかを見回している。2人の会話を聞いていない風をよそおって。
ふたつの変死体は店の奥の個室に通される。
酒を呑み、例の他人が聞いたら面白くもなんともない中身のない会話で盛り上がる。
ときどきあの女性店員が酒や料理を運んで来たりすると、住宅街の変死体は適当な調子で彼女をからかう。やがて事務所の変死体もそれに乗じる。ここぞとばかりに2人でいじり倒す。
女性店員は楽しそうに笑う。彼らの言葉にいちいち大笑いする。
それでまた、ふたつの変死体はさらに調子づく。軽薄な冗談が矢継ぎ早に飛びだす。
2人とも心の底で〝自分は面白い人間だ〟と思っている。信じている。
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店に入って一時間ほど経ったころ……
ふいに事務所の変死体が切り出す。それまでと変わらないふざけた調子のまま。
「人工芝がね」
と。
つづく
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