日本の全年齢における“原因別”死亡統計によると、肺炎はここ10数年来
がん・心臓病・脳卒中に次いで第4位を占め続けています。
ただし、85歳以上では2位、90歳以上では第1位です。
近年、新しい抗菌剤が数多く開発され使用されているにも拘わらず
死亡原因としての肺炎は減少するというより徐々に増加傾向にさえあるのです。
さらに、肺炎で死亡した人の90%は65歳以上の高齢者なのですから
医療が発達した現在でも、高齢者とってはまだまだ非常に厳しく恐い病気と言えます。
多くの高齢者の命を脅かす肺炎の特徴として、以下の4点が挙げられます。
(1)老化による生理機能低下のため、咳・痰・発熱などの典型的な臨床症状を欠くことが多く
これが肺炎の発見の遅れにつながる可能性があるとされています。
(2)高齢者は様々な基礎疾患(成り立ちの大もとの病気)を持つことが多く
肺炎が重症化し易くなる傾向があります。
(3)老化による薬物代謝・排泄機能の低下のため、治療薬の副作用が生じ易くなります。
(4)誤嚥(ごえん。異物を誤って飲み込むこと)の関与が原因として大きい
つまり、口腔咽頭内に定着した菌を下気道に吸入することによって
肺炎を引き起こすので再発もしやすいのです。
このように、高齢者ほど死亡率が高くなる肺炎ですが
インフルエンザが流行する冬場は特に要注意で
「元気がない、食欲がない」程度の症状でもいきなり重症化する例があります。
ところで、肺炎には次のような種類があります。
①一般の社会生活を送っている人がかかる市中肺炎
(細菌性が多いがウイルス・マイコプラズマ・クラミジア・レジオネラなどの“非定型”もある)
②病院や老人ホームなどでかかる施設内肺炎(グラム陽性菌・陰性菌)
③食物や唾液が気道に入って起きる誤嚥性肺炎(口腔内常在菌)
④肺が縮む間質性肺炎(非感染性)など
重症化する肺炎は大半が細菌感染です。
インフルエンザから肺炎を併発して死亡する患者さんも、ウイルスだけで肺炎になる人は少なく
ほとんどが肺炎球菌やブドウ球菌などの細菌が二次感染したもので
現代は“新型”に注意が向けられがちですが、お年寄りは
従来の季節性のほうが死亡率もはるかに高いとされています。
肺炎はとにかく進行が早いので、迅速な診断が必要です。
発熱、せき、たんなどの症状、X線検査で肺が白く見える浸潤影
血液検査で白血球値や炎症値(CRP)の上昇があれば肺炎の疑いが強いのですが
病原菌の確定には時間がかかるため、まず重症化しやすい細菌性を念頭に治療を始めます。
細菌性で最も多い病原菌は肺炎球菌ですが
ほかにインフルエンザ菌(ウイルスとは異なる)、黄色ブドウ球菌などがあります。
治療にはペニシリン系、セフェム系、ニューキノロン系の抗生物質を投与します。
重症度を判定して、軽度なら外来で内服、中等度で脱水などがあれば
入院して点滴を行うことになります。
非定型肺炎の疑いが強い場合はマクロライド系、ニューキノロン系の抗生物質を使用しますが
高齢者の誤嚥性肺炎はペニシリンなどの内服薬が効き難いので入院して点滴で投与します。
いずれにしろ、肺炎治療は抗生物質の種類と量、投与法をどう決めるかがカギです。
判定は治療開始から3日で行い
熱、白血球、CRP値などが下がって来なければ、薬の種類や量を見直します。
X線は遅れて反応するので、影が残っていても熱が下がればひと安心です。
お年寄りは熱が上がりにくく、体の反応も鈍くなるので、治療が遅れて重症化し易く
また嚥下力も落ちてくるので誤嚥性も多く、家族や介護者が
細かに観察してあげることが早期発見には重要です。
昨今、予防策として肺炎球菌ワクチン接種が注目されています。
単独で有効という疫学データはまだないのですが、米国ではインフルエンザワクチンと
合わせて接種すれば、重症化や死亡率を下げるという報告もあります。
一度の接種で5年間は抗体があり、費用は6000~8000円程度
肺炎球菌ワクチンを打てばすべての肺炎にかからないというものではないのですが
かなりの予防効果が期待されていますので、季節性インフルエンザと肺炎球菌ワクチンを
合わせて接種することが奨められています。