The Load Of The Ring:The Two Towers & The Return Of The King
ゴンドールの準州ローハンは一面に草原の広がる丘陵地帯で、州都エドラスに王の宮殿が有りました。準州、つまりスペインの南のカタルーニャ地方、あるいは北のバスク地方みたいな、自治区のようなものだったのか、かつてゴンドール領土でしたが自治権をもつ設定。ローハンとゴンドールはその性質がかなり違う設定です。人種も違う訳です。ローハンは馬で有名で、旗も馬をデザインした物でした。馬、と言えば有名なのはアイルランドですね!(競馬好きやディック・フランシスの小説を読んでる人は分かりますよね。)ということなのかどうかは分かりませんが、映画ではローハンはことごとくケルトの設定となっています。イラストレーターのジョン・ハウが描いたコンセプト・アートを元にしていると思いますが、付け焼き刃的アートワークでは無く、きちんと基礎を踏まえたデザインを行っていることがこの映画の凄い所です。
←イラストレーター、ジョン・ハウによるエドラス。映画用ではないオリジナルではそんなにケルトしていません。
←ジョン・ハウ「Beowulf's Funeral」。指輪物語とは関係ないイラストです。
←TTTセオドレッドの葬式シーン。持ち騎士の兜、盾等、上記イラストに雰囲気そっくりです。
←イラストレーター、ジョン・ハウによるローハンの騎手。(映画用ではない)
まず建築。王宮は木造です。暖かみがあります。嫌と言う程ケルト紋様(渦巻きや、組み紐模様)が施され、色も濃色の上に力強い太い線で描かれていますね。王宮もエルムスディープも、安定感のある重厚な建築です。優雅というより実用的、繊細というより土着的。また、特に注目したいのは、旗に使われた馬の絵です。ケルト美術特有の、ひとふで描き風の線画で、かつてアイルランドで使用されていた5pコインの裏の獣みたい。ここからもアイルランドの雰囲気を目指したデザインコンセプトなのは明白です。
←イラストレーター、ジョン・ハウによるエドラス王宮柱。ケルト組み紐模様。(映画用コンセプト・スケッチ)
←セオドン王の剣。柄に馬プラスぐるぐる渦巻き。
さて、次は鎧、鎧に関しては、実際の鎧よりかなりファンシーなデザインになっています。こんな派手な鎧は実戦に着ないだろ!見たいな派手さですが、映画ですから良しとしましょう。特筆すべきは金と黒、濃赤を基調にしたセオドン王の鎧。彼の兜は見るからに鍛金でロウ付け。(実際に金属を職人が加工し、溶接する事です。冠も同じく手仕事だと思います。)アップで映るのは一瞬ですが、一目で細かい作業と、熟練した人がデザインしたことが分かります。エオメルの鎧も同じく、渦巻きや濃い赤色を多用した実戦の鎧としてはかなり豪華なつくりです。帷子プラススカート状のプロテクションで、本物の鎧であれば非常に重装備。中世の鎧のほとんどがそうであるように、屈強な戦士でも一人で馬に乗ることが出来ないほどの重さのはず。もちろんエクステンデッドTTTの最初のエオメル登場シーンで見られるような、軽い身のこなしなど人間には不可能ですよ!兜は王ほど手は込んでいませんが、馬の頭が顔の真中にくるようなデザインで、兜やパーツにに動物をあしらうのはケルト美術では珍しくありません。また、兜には原作に基づき頭頂に馬の毛が飾られています。LOTR出演者は何かひとつ、衣装や小道具を記念にPJから贈られたとのことですが、DVDの特典を見ているとカール・アーバンはこの兜を贈られているように見えます。(間違っていたらすみません)2人とも各パーツ、特に剣の持ち手に馬の頭がデザインされ、馬づくしです。
←兜に注目。細工が細かい!良く見ると胸の模様も馬。王の鎧はさすがに完璧。きちんとしてらっしゃいます。
←兜に注目。兜の飾りと鼻の穴が合っているのは偶然か?!
←イラストレーター、ジョン・ハウによるローハンの騎手。(映画用コンセプト・スケッチ)ちなみに先生の映画用ではないイラストのレゴラス鎧は気絶ものの美しさ。でもあんなの着ると顔見えませんから・・・もちろん映画じゃ鎧無し。
エオメルに関しては性格もケルトですねえ。良く言えば勇敢、悪く言えば野蛮に紙一重と言いましょうか。王宮で捕らえられて暴れる所など、髪の毛乱れてて恐いです。ケルト神話の勇者みたいな、人間的(感情的)でありながら人間ばなれした強さ。原作のエオメルは誰よりも背が高く、乗馬が得意で勇敢な男として書かれており、誰よりも背が高い、というほど大男ではありませんが、背が高く体格のいいカール・アーバンは適役でしょう。乗馬は、達人の域に近づくために集中特訓したそうですが。私は「王の帰還」エクスエンデッドバージョンでカールのファンになりましたが、「2つの塔」ですでに鎧が素晴らしいので気になっていました。丸顔で童顔のカール、この映画では始終眉間に皺のシリアス顔。この映画ではエオメルは一度も笑いません。エクステンデッド・バージョンでも笑いません。しかし感情に乏しい訳では無く、妹のエオウィンを見つけて泣く所が有りますが、今までの押さえた感情から一転感情的になる所、まさにイギリス人曰くところの「あいつらすぐ感情的になるから」などと表されるケルト人種っぽい。性格まで良く考えてあるのかも。
エオウィン役は最初に純アイリッシュの女優アリソン・ドゥーディが演じるはずだったのですが、ドゥーディさん出産のためオージーのミランダ・オットーになってしまいました・・・ドゥーディは硬質の美人で、本当はドゥーディの方がハウのイラストに近い雰囲気。結局俳優は全然ケルト系じゃないっていうのも不思議ですね。
←ジョン・ハウによるエオウィン。本の挿し絵用。面長美女のドゥーディさんだったらこんな感じだったでしょう。ミランダ・オットーのエオウィンは、よくも悪くも愛らしくあか抜けないエオウィン。決戦場面の兜の下から覗くおびえた大きな瞳に、けなげで必死の感じがでていましたね。剣の達人のはずがよたよたしてるし・・・
←Fantasy Planet様より借りて来たエオメル全身像。下半身うろこスカート状の部分が特徴ですね。普通はもっと大きなパーツを使い、帷子の上に鎧がきますが、このエオメルのデザインだと腰とももを保護するためには、このスカート部分にかなり強度が必要なのでは?腕や首も弱い気がするなぁ・・・特に急所の脇が甘いぞ!(鎧の甘い所はエオメルの技でカバーってことで。)ちなみにミナス・ティリスのボロミア隊長の鎧も、ももの所が甘いんです・・
ジョン・ハウのイラストは全て下記よりお借りしています。
http://www.john-howe.com/
ゴンドールの準州ローハンは一面に草原の広がる丘陵地帯で、州都エドラスに王の宮殿が有りました。準州、つまりスペインの南のカタルーニャ地方、あるいは北のバスク地方みたいな、自治区のようなものだったのか、かつてゴンドール領土でしたが自治権をもつ設定。ローハンとゴンドールはその性質がかなり違う設定です。人種も違う訳です。ローハンは馬で有名で、旗も馬をデザインした物でした。馬、と言えば有名なのはアイルランドですね!(競馬好きやディック・フランシスの小説を読んでる人は分かりますよね。)ということなのかどうかは分かりませんが、映画ではローハンはことごとくケルトの設定となっています。イラストレーターのジョン・ハウが描いたコンセプト・アートを元にしていると思いますが、付け焼き刃的アートワークでは無く、きちんと基礎を踏まえたデザインを行っていることがこの映画の凄い所です。
←イラストレーター、ジョン・ハウによるエドラス。映画用ではないオリジナルではそんなにケルトしていません。
←ジョン・ハウ「Beowulf's Funeral」。指輪物語とは関係ないイラストです。
←TTTセオドレッドの葬式シーン。持ち騎士の兜、盾等、上記イラストに雰囲気そっくりです。
←イラストレーター、ジョン・ハウによるローハンの騎手。(映画用ではない)
まず建築。王宮は木造です。暖かみがあります。嫌と言う程ケルト紋様(渦巻きや、組み紐模様)が施され、色も濃色の上に力強い太い線で描かれていますね。王宮もエルムスディープも、安定感のある重厚な建築です。優雅というより実用的、繊細というより土着的。また、特に注目したいのは、旗に使われた馬の絵です。ケルト美術特有の、ひとふで描き風の線画で、かつてアイルランドで使用されていた5pコインの裏の獣みたい。ここからもアイルランドの雰囲気を目指したデザインコンセプトなのは明白です。
←イラストレーター、ジョン・ハウによるエドラス王宮柱。ケルト組み紐模様。(映画用コンセプト・スケッチ)
←セオドン王の剣。柄に馬プラスぐるぐる渦巻き。
さて、次は鎧、鎧に関しては、実際の鎧よりかなりファンシーなデザインになっています。こんな派手な鎧は実戦に着ないだろ!見たいな派手さですが、映画ですから良しとしましょう。特筆すべきは金と黒、濃赤を基調にしたセオドン王の鎧。彼の兜は見るからに鍛金でロウ付け。(実際に金属を職人が加工し、溶接する事です。冠も同じく手仕事だと思います。)アップで映るのは一瞬ですが、一目で細かい作業と、熟練した人がデザインしたことが分かります。エオメルの鎧も同じく、渦巻きや濃い赤色を多用した実戦の鎧としてはかなり豪華なつくりです。帷子プラススカート状のプロテクションで、本物の鎧であれば非常に重装備。中世の鎧のほとんどがそうであるように、屈強な戦士でも一人で馬に乗ることが出来ないほどの重さのはず。もちろんエクステンデッドTTTの最初のエオメル登場シーンで見られるような、軽い身のこなしなど人間には不可能ですよ!兜は王ほど手は込んでいませんが、馬の頭が顔の真中にくるようなデザインで、兜やパーツにに動物をあしらうのはケルト美術では珍しくありません。また、兜には原作に基づき頭頂に馬の毛が飾られています。LOTR出演者は何かひとつ、衣装や小道具を記念にPJから贈られたとのことですが、DVDの特典を見ているとカール・アーバンはこの兜を贈られているように見えます。(間違っていたらすみません)2人とも各パーツ、特に剣の持ち手に馬の頭がデザインされ、馬づくしです。
←兜に注目。細工が細かい!良く見ると胸の模様も馬。王の鎧はさすがに完璧。きちんとしてらっしゃいます。
←兜に注目。兜の飾りと鼻の穴が合っているのは偶然か?!
←イラストレーター、ジョン・ハウによるローハンの騎手。(映画用コンセプト・スケッチ)ちなみに先生の映画用ではないイラストのレゴラス鎧は気絶ものの美しさ。でもあんなの着ると顔見えませんから・・・もちろん映画じゃ鎧無し。
エオメルに関しては性格もケルトですねえ。良く言えば勇敢、悪く言えば野蛮に紙一重と言いましょうか。王宮で捕らえられて暴れる所など、髪の毛乱れてて恐いです。ケルト神話の勇者みたいな、人間的(感情的)でありながら人間ばなれした強さ。原作のエオメルは誰よりも背が高く、乗馬が得意で勇敢な男として書かれており、誰よりも背が高い、というほど大男ではありませんが、背が高く体格のいいカール・アーバンは適役でしょう。乗馬は、達人の域に近づくために集中特訓したそうですが。私は「王の帰還」エクスエンデッドバージョンでカールのファンになりましたが、「2つの塔」ですでに鎧が素晴らしいので気になっていました。丸顔で童顔のカール、この映画では始終眉間に皺のシリアス顔。この映画ではエオメルは一度も笑いません。エクステンデッド・バージョンでも笑いません。しかし感情に乏しい訳では無く、妹のエオウィンを見つけて泣く所が有りますが、今までの押さえた感情から一転感情的になる所、まさにイギリス人曰くところの「あいつらすぐ感情的になるから」などと表されるケルト人種っぽい。性格まで良く考えてあるのかも。
エオウィン役は最初に純アイリッシュの女優アリソン・ドゥーディが演じるはずだったのですが、ドゥーディさん出産のためオージーのミランダ・オットーになってしまいました・・・ドゥーディは硬質の美人で、本当はドゥーディの方がハウのイラストに近い雰囲気。結局俳優は全然ケルト系じゃないっていうのも不思議ですね。
←ジョン・ハウによるエオウィン。本の挿し絵用。面長美女のドゥーディさんだったらこんな感じだったでしょう。ミランダ・オットーのエオウィンは、よくも悪くも愛らしくあか抜けないエオウィン。決戦場面の兜の下から覗くおびえた大きな瞳に、けなげで必死の感じがでていましたね。剣の達人のはずがよたよたしてるし・・・
←Fantasy Planet様より借りて来たエオメル全身像。下半身うろこスカート状の部分が特徴ですね。普通はもっと大きなパーツを使い、帷子の上に鎧がきますが、このエオメルのデザインだと腰とももを保護するためには、このスカート部分にかなり強度が必要なのでは?腕や首も弱い気がするなぁ・・・特に急所の脇が甘いぞ!(鎧の甘い所はエオメルの技でカバーってことで。)ちなみにミナス・ティリスのボロミア隊長の鎧も、ももの所が甘いんです・・
ジョン・ハウのイラストは全て下記よりお借りしています。
http://www.john-howe.com/
こんにちは。
“せいたか村”へのコメントありがとうございました。
“ロードオブザリング”の映画の細かいところまで、注意深く見られているのですね。
私は、映画を見るのが疲れるので、一作目の旅の仲間だけを鑑賞しました。
pointdpoさんの文章を読みましたら、二作目以降も興味を持ちました。
観てみたいと思います。
ロード・オブ・ザ・リングは、本当に細かいところまで手を抜かずに作ってあって、何度見ても飽きません。
手抜きでも面白い映画はありますけどね!(ドグマ、とか)
1作目と、2・3作目はテイストが違いますので、ぜひご覧になってください。エクステンデッドバージョンがお勧めですが、長いので・・・4時間とかですから。
先日は、コメントとTBありがとうございました。
pointdpoさんは、建築や鎧についてお詳しいんですね。
こうやって丁寧に説明して頂けると、とてもわかりやすいです。
それにしても、ジョン・ハウの描いたベオウルフの絵と、
TTT-SEEの葬列のシーンはそっくりですね~。
「指輪物語とは関係ないイラスト」の一言がなければ、
お髭の感じからして、結局映画では登場しなかった、
“ 幻の ” セオデン王の葬儀のコンセプト・アートかと
勘違いし、一人で興奮してしまうところでした (笑)
こちらの記事を拝見していたら、
久し振りに、PJ版のDVDを見たくなってきました。。
>建築や鎧についてお詳しいんですね。
いやいやそんなに詳しくないと思います(笑)・・片寄った知識なので・・ケルト美術と彫金はどちらかと言うと「詳しい」かも。あと中世もの大好きです。
>ジョン・ハウの描いたベオウルフの絵と、
TTT-SEEの葬列のシーンはそっくりですね~。
でしょでしょ!見つけた時はびっくりしましたっ!
確かにセオドン王にも見えますね。
とっても雰囲気の有るイラストだと思いませんか。
今度発売のPJ版指輪シリーズドキュメンタリー、どうしようか迷ってます・・・ドキュメンタリーだけだったら悩まないのですが・・