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スター・トレック ディスカバリー シーズン1:鏡の国のアリス Through the Mirror Universe, and What Alice Found There

2018-02-13 23:11:15 | 映画:SF&ファンタジー

スター・トレック ディスカバリー シーズン1:鏡の国のアリス Through the Mirror Universe, and What Alice Found There
STAR TREK DISCOVERY SEASON1(2017-2018)

【総評】(ネタバレなし)
SFTVシリーズ・スタートレックの12年ぶりとなるオフィシャルTVシリーズ。オリジナルシリーズの約10年前の「空白の期間」を埋める時代設定で、科学調査船USSディスカバリー号と科学仕官マイケル・バーナムの成長の物語。
まったく期待しないで視聴をはじめたのですが、最初の2話でそのビジュアルのクオリティに驚愕し、次の2話でストーリーの展開に心を奪われ、5話目で完全に嵌りました。そしてシーズン後半のミラーユニバースでのエピソード郡はそれまでの伏線を回収しつつ毎回予想のつかない展開にこれはもうSF版ウオーキングデッドじゃね?

今までのスタートレックTVシリーズは、テレビでの放映にふさわしくエンターテイメントとしてのSFをベースに、愛、勇気や艦隊(軍隊)としての規律・精神性と、ユーモアのコンビネーションのバランスの良い子供から大人まで見られる作品だったと思うのです。何よりも優先されるべきはヒューマニティ、艦隊としての理想的な行動。時代もあるけどゴールデンタイムのTVシリーズですから人間の心の闇や反倫理的・反人道的なシチュエーションはどちらかというと極力控えめで、そのため見方によっては時として少々エッジに欠ける嫌いもあったのではないでしょうか。スタートレックTVシリーズってああ、あれね、なんか家族で楽しめる宇宙船の話ね、知らんけど。って思ってる人いると思うんです。
さてこのシリーズ、それまでのロッテンベリーの世界観をベースにしつつも21世紀版スタートレックを作り出しているのです。勝れたSFとは現代の問題を内包しフィクションを装って問題提起する。この作品も同じく今の世界のマイナス面、人種間の衝突、科学と軍事における倫理的境界線、戦争におけるロジックとヒューマニティの優先順位など、有料動画配信だからこそ可能とも言えるシリアスな内容。内容が意欲的過ぎて今までのTVシリーズのファンには拒否反応を持つ人も存在するほどです。(別章参照)しかしこれだけの規模のフランチャイズのファンをすべて満足させることは不可能だろうし、SFシリーズとしてこのクオリティと世界感を実現したことは純粋にすばらしいと思います。

【ディスカバリーのユニークな点】

①主人公はアフリカ系の女性で、戦闘能力高い、知能高い、なにしろバルカン育ちなので意識も高い。しかし人間性とコミュニケーション能力にはちょっと難があり、優秀すぎて凡人にはついていけないタイプの孤高のエリート。旧シリーズでは主人公は一人ではなく、群像ドラマ風だったが、こちらは一貫して彼女の人間的成長がストーリーの中心。
②ダイバーシティが半端ない。女性・非白人、LGBT(この呼び方は好きではないが)、年齢、すべてに適切な配慮が行われている。男性が女性にレイプされるシーンまである。今までのシリーズもダイバーシティは配慮されていたが、このシリーズのそれは制作者やクルーも含めてのダイバーシティであり、昨今の他のSF作品と比べても相当なものである。(この作品のクィアフレンドリー面については別章)
③特殊メイク・ビジュアル、VFXのクオリティ。TVシリーズのレベルではなく映画レベル。映画のクオリティに慣れてしまった視聴者にも耐えうるクオリティ。クリンゴン船内のビジュアルは華麗でゴシックで作り込み半端ない。特撮シーンを現実的に見せることが番組として最低限必要なSF・ファンタジーの製作は、もう有料動画配信サービスじゃないと目の肥えた視聴者のニーズにかなうレベルのものは無理なんじゃないかと思ったりも。
④シリアスで人間の複雑な心の動きを追うドラマ中心のストーリー。死人が出ることウォーキングデッド並み。戦争中の設定とはいえユーモアもほぼ皆無、死体や拷問シーンはグロいし子供向きでは決してない。かろうじて6話のタイムループの回がユーモアがあって楽しくてホッとする。
⑤実在の研究から発想を得たユニークな設定。今までのシリーズでもその当時の最先端の技術をストーリーに取り入れていたが、このディスカバリー号の新ワープ工法は実在のポール・スタメッツ博士の菌類研究から発想を得たものであり、TEDにも登場している博士の菌類ネットワーク論理を知ることでディスカバリーと菌糸ネットワークをより深く理解することができる。オタクへのサービスも半端ない。

【この作品の評判】
評論家には絶賛を受けています。ロットントマトでは82%の評価。この作品の配信でCBS AllAcsessは1日あたりいままでの最大の契約数を獲得。しかしキャストが発表された時から往年のファンには賛否両論があったとのこと。主人公がアフリカ系女性だったり、暗くシリアスな内容に「お子様にも安心な宇宙艦隊」のお話を期待していたファンは落胆したようです。また、関係者のブラック・コミュニティへのサポート表明やトランプ政権批判も論議を呼んだようですが、ショーのコンセプトを考えれば政治的な意思表示も当然と思われるのです。批判は有名シリーズであることの弊害でしょう。

【Lt. スタメッツ&アンソニー・ラップについて】
宇宙菌胞子ドライブを生み出した科学技術官Lt.スタメッツは実在の菌類科学者ポール・スタメッツから名を拝借しています。USSディスカバリーは彼の研究のために作られた船であり、自分は優秀だと人を見下すような言動をするこの人。しかしエピソードが進むにつれ可愛い面が出てきます。スタメッツ役のアンソニー・ラップはブロードウェイ&映画版のRENT主役のマーク・コーエン役で有名な俳優。NYのブロードウェイで成功するっていうのは相当の実力者であり、インタビューを見ても頭の回転が速くスタートレックにもやたら詳しいため、出演者の中ではジェイソン・アイザックとともにリーダー的なポジションの俳優と想像できます。ドクター役のウィルソン・クルーズもミュージカル出演歴があるため、ディスカバリーのエピソードでも歌って踊ってほしいと願うファンは多いのですがまあ期待せずに待ちましょう。

彼は2017年の秋に雑誌で14歳の時ケビン・スペイシーに受けた性的被害を告発、その結果ケビン・スペイシーはほぼ映画界から追放状態になっています。以降映画界の男性版Me Tooムーブメントの勇気ある最初の一人としてラップの名は知られるようになりました。ケビン・スペイシーといえばNetflixの看板番組ハウス・オブ・カードの主人公です。ケビン・スペイシーに比べればラップの知名度は低く、雑誌の告発がディスカバリーのシーズン中だったこともあり売名行為と非難するスペイシーのファンも湧きましたが、他にも被害者が続々と声を上げたためラップの名誉は守られています。

【この作品のクィアフレンドリー面とドクター・コルバーについて】
このシリーズの大きな特徴としてダイバーシティへの配慮があると書きましたが、その中でもキャストにLGBTカップルを起用したクィア・フレンドリー設定が重要なポイント。そのカップルを演じるスタメッツ役のアンソニー・ラップとドクター役のウィルソン・クルーズはどちらもオープンリーゲイでゲイライツの活動も行うゲイコミュニティでは知られた存在でしょう。この2人を起用すること、そして優秀な科学者と人格者であるドクターを2人が演ずることで「ロールモデルとして番組を見るLGBTの若者に希望を与える」ことをミッションとしていると製作者・俳優は語っています。
StarTrek映画版ではスールーが同性パートナーを持っているという設定で物議を醸したのは記憶に新しいですね。元祖スールー役のジョージ・タケイはオリジナルの設定を変えるべきではないとその設定に反対を表明していましたが、こちらのディスカバリーでの同性カップル登場のエピソード後にタケイが賞賛のツイートを番組オフィシャルにツイートしたことは特記すべきでしょう。


====ここからネタバレ感想====
ドクターコルバー役のウィルソン・クルーズはプエルトリコ系アメリカ人。スタメッツ役のアンソニー・ラップとは10年来の友人で、RENTのカリフォルニア公演でアンジェロを演じました。リアルでも仲よさそうなこの2人はこのシリーズに精神的かつ感情的な奥行、そしてユーモアを与え、物語を豊かにする貴重な存在。にもかかわらずエピソード10でいきなりひねり殺されたwwドクターに視聴者皆驚愕しました。彼が死ぬならもう見ない!というファンがSNSに湧き上がりました。私も相当ショックを受けた一人です。このファンの混乱は単純な話ではなく、LGBT関連ニュースでも取り上げられるほど。ドクターは初の公式なゲイのキャラとして今回のシリーズの重要な要素、しかも人格者で優秀な人物、つまり性格に難ありの人の多いこのシリーズ中では尊いキャラ。「ゲイであり、かつラテン系の人物が出演することで似た境遇の若者に希望を与える役目がある」と本人も言っていたのにロールモデルがあっけなく死ぬんかい!オイ!と吹き上がった訳です。関係者およびクルーズ本人はドクターはこれで終わりではないので早合点するなとエピソード翌日すぐに発表しましたが、ゲイでラテン系は殺されるって展開は時代遅れでもう不愉快!有色人種ばかり死ぬでないの!いつ復活するの!と、いまだファンは辛い思いを抱えているってのが本音です。
製作者はこの先のより大きな2人の関係のため彼を殺すことが必要だった、この設定は計画的でスタメッツとドクターの物語の始まりであると語っています。シーズン1を通しキャストと視聴者の関係を育む想定で、彼を一旦殺すことは最初から予定していたが、この2人に関して想定以上に早く視聴者がファンになってしまったので反響に驚いているというのが実情のよう。そりゃそうだよな。
また、彼が殺されてからの胞子ネットワーク内でのエピソードは重要な伏線の一つ。ドクターはクルーの中でも最も聡明で勇気のある人物という設定とのこと。ストーリーの重要な要のような気がします。今は死んでるけど。そしてパートナーが死んだと言うのにいつもと変わらないようにみえるスタメッツですが、製作者は「彼は忙しく、パートナーを亡ったことを哀しむ余裕が無いのだ」と説明しています。しかし最終話の最後にドクターのメダルを持つスタメッツの姿に涙したファンも多かったのではないでしょうか。

最期に、下記にドクター役のウィルソン・クルーズがツイッターに固定しているファンへのメッセージを貼っておきます。彼はドクターの死を悲しむLGBTのファンをみつけると励ましのリプライを送り続けていて、全くほんとうに良い人なんだなあ。。と泣けてくる。
シーズン2は2019年初頭のスケジュール。2からはダークさは控えめになるとの情報です。

愛するファンへ、嘘を教えたことある?間違ったことをわざと案内したり?
スター・トレックディスカバリーは長いゲーム、アンソニーと自分の物語はまだ始まったばかり。
僕たちを信じない?アーロンとグレッチェンを信じて。

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