2007年4月6日金曜日 快晴。
旅に出た、という非日常に心なしか昂ぶっていた。
鉄道の寝台車には何度も乗ったが、フェリーの寝台はまた違った味わいだった。
定期的なガタンゴトンと、モーターが唸る音が眠りへ誘うのとは違って、
低く重いエンジン音と緩やかな前後左右の揺れとで勝手が違うのだ。
なかなか熟睡できず、何度か夜中に目が覚めた。
船中泊は何度も経験があり、漁船の船底での雑魚寝からフェリーでの雑魚寝まで様々だったが、今回は時間的に短い航海とあって寝たかと思ったらもう到着というスケジュールで気も立っていたのも影響したのかもしれない。
松山港へは5時に到着するが、急がない人は朝7時まで下船せずそのまま寝ていて良いらしいが、下船後一路徳島まで走らなくてはならない。
道が空いている早朝の時間帯に距離を稼ぎたかった。
船室の窓から見える海の色は鼠色で、空は白み始めていた。
4時を少し過ぎたあたりに布団から出て洗面を済ませ身支度を調える。
フェリーが着岸する頃にはスタンバイOKだった。
船員の案内に従い、駐車デッキに降り拘束が解かれたKLEに跨ってヘリーから港に下りてゆく。
フェリーに乗った時、ここが一番好きな場面の一つだ。
新たな旅の始まりを鮮烈に感じることができる。
既に明るくなった松山港へ滑るようにフェリーから出発したKLEの鼓動は軽やかだった。
パラレルツインの軽快で心地よいリズムのエンジン音が逸る気持ちを落ち着かせる。
早朝のヒヤリとした空気を感じながら国道11号を東へ向けて走る。
道は空いていてハイペースで進むことが出来たが、空腹を覚えても停まることができないくらい走り続けさせてくれた。
3時間近くノンストップで走り、ようやく路肩の駐車スペースに停め携帯していたカロリーメイトを2本お茶で流し込んだ。
国道11号から国道192号へ入り池田辺りであった。この国道192号を東へ進むと徳島市内へ入る。時間的には多く見積もって3時間掛からないくらいか。
この辺りで遍路用品の調達のことを考え始めていた。
ネット通販などの利用も一時は考えたが、現地入りするまでは使わないし荷物になるだけである。
調べると一番礼所である霊山寺やその前のお店などで一式揃えることができるようだった。
但し、ちょっと高めだとの評判が目に付き、懐に不安のある身としては現地調達といっても、出来る限り出費は抑えたかった。
そこで出発前に様々な人々のブログや情報を読み漁って、六番礼所安楽寺の用品店で遍路用品を揃えることにした。品揃えはそこそこで値段も適正だというのを信じることにしたのだ。
霊山寺へ向かう途中に近くを通るので寄ってみて、気に入った品が無ければ霊山寺で揃えれば良い。
吉野川沿いを走る田舎道を淡々と走った。
午前10時頃、六番礼所安楽寺へ到着し、遍路用品やお土産が揃っている店内へ入った。
遍路用品は色々あったが、初めてあるのでどれがどう適正価格なのかということすら分らない。これではどこで買い揃えても大差はないように思えた。
店内には中年男性が一人店番をしていた。
客は私一人で特に忙しいという様子ではなく、ライディングジャケットに丸坊主の男が迷い込んできたのを興味深げに目で追って「いらっしゃいませ」と一言口にした。
私は忙しそうにもないその店番をしている男性にバイク遍路をするために来た、用品を一式ここで揃えたいと伝えると、バイク遍路なら菅笠と金剛杖は邪魔になるだろうからいらないよとアドバイスしてくれた。白衣も袖無しの方がバイクには良いだろうとも。こうして、袖無しの白衣、頭陀袋、輪袈裟、数珠、経本、納札、ロウソク、線香、ライターを買った。これだけで9000円。お数珠が一番高かった。
◆ライディングジャケットの上に袖なしの白衣と輪袈裟と頭陀袋。
これから帰宅するまでこの姿でバイク遍路の旅をすることになる。
初めは少しでも安くと思っていたが、正直どこで買っても同じような品なら、相場は似たような価格になっている。お店の男性に礼を言って霊山寺へ向かったが、そこでは品揃えは豊富でその選択肢は増えるのだが、基本的に必要なものは同じなのでそこまでシビアになる必要もなかった。こういう事に思案を巡らせることが時間の無駄だと気付き、反省した。
こうして一番礼所霊山寺に辿り着いたのは午前11時半頃であった。