PSW研究室

専門職大学院の教員をしてる精神保健福祉士のブログ

自立支援法改正案の内容

2010年06月08日 09時30分20秒 | 精神保健福祉情報
内閣が移行し、今国会がどんな風になるか、先が見えません。
国会を延長して、郵政関連法案に合わせ、障害者自立支援法改正案も、強引に通すのか。
それとも、時間切れで、また廃案に追い込まれるのか…。
政治の流れに翻弄され続けている、この国の障害者施策です。

内容は、本当に昨年とほとんど変わってないので、どこかで皆さん見てるんでしょうけど。
案外、この内容って、周知されていないようなので。
今さらという感じはありますが、改正案の要綱の抜粋を以下に載せておきます。

法律の文章って、独特の言い回しがあり、ちょっとそのままでは分かりにくいです。
余計な解釈を入らないように、厳密に定義しようとするからですが、悪文の典型です。
ここでは、分かりやすくするために、これでもかなり、僕なりに要約しています。
やや厳密さを欠きますので、正確な法案文は、ネット上で確認して下さい。

なお、今回は、障害者自立支援法改正案のみ、掲載します。
関連して、児童福祉法・精神保健福祉法・精神保健福祉士法等も改正されますが。
結構な分量になるので、なかなかブログで一挙掲載という訳にもいかず…。
日を改めて、アップするようにします。

※画像は、僕の研究室からの風景。
 網戸がないので、窓際には虫コナーズ(^o^)。


★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★


【障害者自立支援法等の一部を改正する法律案要綱】

◆ 改正の趣旨
 障害児・者が、自立した日常生活や社会生活を営むことができるよう、支援の一層の充実を図るため、利用者負担の見直し、障害者・障害程度区分に関する定義の見直し、相談支援の充実、障害児支援の強化、地域における自立した生活のための支援の充実等、制度全般について必要な見直しを行う。

◆ 障害者自立支援法の一部改正

◇一 利用者負担の見直し
1 指定障害福祉サービス等を利用した場合の負担は、家計の負担能力に応じる。
指定障害福祉サービス等の費用について、定める基準額から、障害者等の家計の負担能力その他の事情により一定額を控除した額について、市町村は介護給付費・訓練等給付費を支給する。
また、自立支援医療費及び補装具費の給付について、同様の見直しを行う。

2 障害福祉サービス・介護給付等対象サービスの負担の合計額が著しく高額である場合には、市町村は高額障害福祉サービス等給付費を支給する。

◇二 障害者及び障害程度区分に関する定義規定の見直し
1 障害者の定義について、「発達障害者」を含める。

2 障害程度区分の定義について、「障害者等の障害の多様な特性その他の心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合を総合的に示すものとして厚生労働省令で定める区分」とし、名称を「障害支援区分」と改める。

◇三 相談支援の充実
1 基幹相談支援センターの設置
(1) 「基幹相談支援センター」は、地域における相談支援の中核的な役割を担う機関として、相談支援に関する業務を総合的に行うことを目的とする。
(2) 基幹相談支援センターは、市町村か業務の実施の委託を受けた者が設置できる。
センターの職員等は、正当な理由なしに、業務で知り得た秘密を漏らしてはならない。

2 自立支援協議会の設置に関する事項
(1) 地方公共団体は、関係機関、関係団体、障害者等の福祉・医療・教育・雇用の従事者、その他の関係者により構成される、「自立支援協議会」を置くことができる。
自立支援協議会は、これらの関係機関等が相互に連絡を図り、地域における障害者等への支援体制に関する課題について情報を共有し、連携の緊密化を図り、地域の実情に応じた体制の整備について協議を行う。
(2) 都道府県及び市町村は、自治体の障害福祉計画策定にあたり、自立支援協議会の意見を聴くよう努めなければならない。

3 支給決定手続の見直し等
(1) サービスの利用計画作成のための相談支援の定義
ア 「特定相談支援事業」とは、計画相談支援(サービス利用支援・継続サービス利用支援)と、通常の相談支援(地域の障害者等の福祉に関する様々な問題について相談に応じ、必要な情報の提供及び助言等を行う)のいずれも行う事業をいう。
イ 「サービス利用支援」は、障害者の心身の状況や置かれている環境等により、サービス等利用計画案を作成し、支給決定後に、支給決定内容を反映したサービス等利用計画の作成等を行う。
ウ 「継続サービス利用支援」は、サービス等利用計画が適切であるかどうかを一定期間ごとに検証し、その結果により見直しを行い、利用計画の変更等を行う。

(2) 計画相談支援給付費の支給等
ア 特定相談支援事業者から指定サービス利用支援を受けた障害者等が、支給決定を受けたときは、市町村は計画相談支援給付費を支給する。
イ 指定特定相談支援事業者の指定は、基準に該当する者の申請により、事業所ごとに市町村長が行う。

(3) 支給要否決定に関する事項
市町村は、支給要否決定に必要な場合には、障害児・者や保護者に対し、指定特定相談支援事業者等が作成するサービス等利用計画案の提出を求め、提出があった場合には、その計画案により支給要否決定を行う。

4 地域移行及び地域定着のための相談支援の実施等
(1) 地域移行及び地域定着のための相談支援の定義
ア 一般相談支援事業とは、地域相談支援(地域移行支援・地域定着支援)や通常の相談支援を行う事業をいう。
イ 「地域移行支援」とは、障害者支援施設等の施設に入所している障害者や、精神科病院に入院している精神障害者に対し、住居の確保その他の地域生活に移行するための活動・相談その他の便宜を供与する。
ウ 「地域定着支援」とは、居宅単身生活の障害者に対し、常時の連絡体制を確保し、障害の特性に起因して生じた緊急の事態に、相談その他の便宜を供与する。

(2) 地域相談支援給付費等の支給等
ア 地域相談支援給付費・特例地域相談支援給付費の支給を受けようとする障害者は、市町村の地域相談支援給付決定を受けなければならず、その手続等を定める。
イ 地域相談支援給付決定を受けた障害者が、指定一般相談支援事業者から指定地域相談支援を受けたとき、市町村は地域相談支援給付費を支給する。
ウ 都道府県知事は、一般相談支援事業者の申請により、指定一般相談支援事業者の指定を行う。

◇四 地域における自立した生活のための支援の充実
1 共同生活介護・共同生活援助を利用する支給決定障害者のうち、所得の状況その他の事情から必要な者に、特定障害者特別給付費を支給する。
2 障害福祉サービスについて、視覚障害により移動に著しい困難を有する障害者等の外出時に同行し、移動に必要な情報を提供するとともに、移動の援護等の便宜を供与する「同行援護」を創設する。

◇五 その他
1 目的規定等にある「その有する能力及び適性に応じ」の文言を削除する。
2 国・地方公共団体は、障害者等が自立した日常生活・社会生活を営むことができるよう、必要な障害福祉サービス、相談支援及び地域生活支援事業の提供体制の確保に努めなければならない。
3 児童福祉法により障害児入所給付費の支給を受けて、入所措置により児童福祉施設に入所していた障害者等が、継続して、障害者支援施設等の特定施設に入所した場合には、満18歳となる前日に、保護者の居住する市町村が支給決定を行う。
4 成年後見制度利用支援事業を、市町村の地域生活支援事業の必須事業に格上げする。
5 市町村が支給する地域相談支援給付費、計画相談支援給付費・高額障害福祉サービス等給付費の費用のうち、国・都道府県が負担すべきものとして、障害者等の人数その他の事情を勘案して算定した額のうち、都道府県は1/4を負担し、国は1/2を負担する。
6 市町村から委託を受けて行う介護給付費、訓練等給付費、地域相談支援給付費、計画相談支援給付費・特定障害者特別給付費の支払に関する業務は、国民健康保険団体連合会が行う。
7 指定事業者等の指定の欠格事由の見直し、業務管理体制の整備、その他の規定の整備を行う。

自立支援法改正案、衆院可決

2010年06月01日 10時47分14秒 | 精神保健福祉情報

5月28日、衆議院厚生労働委員会で、障害者自立支援法改正案が可決されました。
障害者自立支援法の廃止に伴う新法制定(2013年8月)までの、暫定改正法案です。

改正案は、昨年、自公の前政権が国会に提出した内容と、ほぼ同じです。
昨年の衆議院解散で廃案になっていたものです。

今年4月に、自公両党が改めて議員立法で法案を提出しました。
与党も改正案を出しましたが、与野党協議の上、双方取り下げ、委員長提案という形になりました。

共産党と社民党は、政府内で同法廃止に向けた検討が進んでいるとして反対に回りました。
障害者団体の一部から「当事者抜きで決めるな」と反対する声が上がっていることを踏まえてのことのようです。
民主党は「新たな法制が作られるまで、少しでも負担を軽減できる」と意義をアピールしています。

結局、民主・自民・公明党などの賛成多数で可決しました。
法案は参議院に送られましたが、今国会での成立が間違いなくなってきました。
国会で成立すれば、2012年4月に完全施行されます。

今回の改正案の、大きな柱を10個あげるとすると…

1.発達障害を法の対象に加えたこと
2.1割の自己負担は、サービス量に応じた「応益負担」ではなく支払い能力に応じた「応能負担」としたこと。
3.判断能力の不十分な方への成年後見の利用支援を、市町村の必須事業にしたこと。
4.福祉サービス支給決定前に、当事者の意向を反映する仕組みを拡充したこと。
5.グループホーム利用への助成制度「特定障害者特別給付金」を盛り込んだこと。
6.精神科病院入院者等の「地域移行支援」「地域定着支援」が、法に位置づけられたこと。
7.地域に「基幹相談支援センター」を設けるとしたこと。
8.地域自立支援協議会を、法に位置づけたこと。
9.視覚障害者への「同行援護」を新設したこと。
10.(手前味噌ですが…)精神保健福祉法と精神保健福祉士法の一部を改正したこと。

ちなみに、普天間問題で、社民党の福島瑞穂特命担当相が罷免されましたね。
内閣府の「障がい者制度改革推進会議」については、平野博文官房長官が担当を兼任するそうです。
他にいないのか、新しい内閣に向けての暫定期間だからなのか、知りませんが。

推進会議の初日、福島瑞穂さん、張り切っていたんですけどね…。
「推進会議の開始は歴史的な日になります!歴史を一緒につくっていると感激しています!」
「総合福祉法、差別禁止法を制定し、障害者基本法を改正して、障害者条約を批准したい」
「自立支援法は「わたしたちのことを抜きに私たちのことを決めないで」ではなかった」
「障害者総合福祉法を、多くの人たちと一緒につくっていきましょう!」
…志半ばで、ちょっと可哀想な気が、しないでもないような…。


※画像は、暖かな木漏れ日の下、昼寝する「社大猫」。
 鳩ぽっぽ内閣がどうなろうとも、我関せず…(笑)

自立支援法「つなぎ法案」の行方

2010年05月27日 13時04分18秒 | 精神保健福祉情報

のんきに日々の身辺雑記を記していられなくなってきました。
色んな事が、急速に動いていて、何からどう書いたら良いのか…。
(ーー;)

昨年来、政権交代して、障害者施策全般にわたっての見直しが進んでいます。
内閣府の「障がい者制度改革推進会議」のもと、「総合福祉部会」が開かれています。
「障害者総合福祉法」制定に向けて、障害当事者を含めて議論が展開されている最中です。
今の障害者自立支援法は、2013年8月までに廃止することが、宣言されています。

でも、一方、現行の障害者自立支援法は、それまで3年半残っています。
「その間はどうするのか?」という懸念の声が、福祉現場や障害者団体から、ずっと上がっていました。
現行法の下での緊急対策と、新法を含めた将来像を、分けて議論をしていく。
きちんと当事者の意見を反映させて…、という話しでした。
少なくとも、1週間前までは…。
ところが、だいぶ雲行きが怪しくなってきました。
(ーー;)

ちょっと、この間の流れを、一度おさらいをしておきますと…。

5月18日、「総合福祉部会」の第2回会合が開催されました。
障害者自立支援法に代わる新法「障がい者総合福祉法」のあり方が、議論の中心です。
会合では、新法の制定までに必要な緊急対策案を、次回6月1日の会合で示す方針が確認されました。

「緊急対策案」は、新法制定までの当面の措置として行うものです。
総合福祉部会で指摘のあった「応益負担の廃止」などの意見が盛り込まれる予定です。
55人の委員が、当面の措置として必要とする意見は、すべて列記するという約束です。
6月7日に、障がい者制度改革推進会議がまとめる予定の中間報告書の別添資料として提出される予定でした。

総合福祉部会は、この緊急対策案の提出を終えてから、
6月22日開催の第4回会合以降、新法制定に向けた本格的な議論を開始する予定でした。
そして、来年夏までをめどに、内容を詰め、2012年の通常国会への法案提出を目指すというスケジュールでした。

5月24日「障がい者制度改革推進会議」は、制度改革の基本方針素案をまとめました。
2011年の通常国会で、障害者基本法の抜本改正を目指すそうです。
障害者差別禁止法(仮称)の制定も検討し、2012年度末までに結論を出すといいます。
関係省庁と調整した後、6月中にも基本方針を閣議決定する予定だと報じられていました。

内容として、盛り込まれているのは、以下のようなことです。
1.障害の有無にかかわらず、すべての子どもが地域の小中学校の通常学級に通うことを原則とし、親子が希望すれば特別支援学校にも就学できるようにする。
2.障害者雇用の義務対象に精神障害を加える。
3.バリアフリーの整備の遅れなどを改善するため、2011年に国土交通省が提出を検討している交通基本法案(仮称)に、移動の権利を明文化する。
4.政府が検討中の新年金制度で障害者の所得保障を検討する。
5.医師や看護師の配置が一般より少ない、精神医療政策を見直す。
6.障害の原因となる疾患や症状など、現在は主に「医学モデル」で決められているが、これを日常生活で行動が制限されている状況などを踏まえて、社会的側面からも判断するよう、障害者の定義の範囲を広げる。

この基本的な方向は、正しいと思います。
それは、それで、良いのですが…。
一方で、呆気にとられるような動きも急に進んでいます。

なんと、上の経緯を無視して(?)、国会内の与野党の駆け引きもあって、
急に、「障害者自立支援法改正案」と「つなぎ法案」が、議員立法で国会に提出されました。
(ーー;)

A.「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律案」
(第174回国会衆議院第6号法案)
B.「国等による障害者就労施設からの物品等の調達の推進等に関する法律案」
(第174回国会衆議院第12号法案)
C.「障害者自立支援法等の一部を改正する法律案」
(第174回国会衆議院第17号法案)
D.「障害者自立支援法の廃止を含め障害保健福祉施策を見直すまでの間において障害者等の地域生活を支援するための関係法律の整備に関する法律案」
(第174回国会衆議院第23号法案)
※ 衆議院の議案一覧に載ってます→ http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htm

A.とB.については、この際良いのですが、問題はC.とD.ですよね?
主な内容としては、
1.福祉サービス利用の原則1割を自己負担する「応益負担」から、支払い能力に応じた「応能負担」に転換する。
2.発達障害を同法の対象として明記する。
3.障害程度区分によるサービス内容の決定前に、本人の希望を反映させる「セルフケアマネジメント」(仮称)の仕組みを導入する。
4.仕事などをしながら少人数で暮らすグループホームの障害者に対する、一定額の家賃補助するを助成を創設する。
5.重度の視覚障害者が外出する際に利用できる、新たな移動支援サービスを追加する。

法案提出の理由としては、
「障害者及び障害児が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるようにするための支援の一層の充実を図るため、利用者負担の見直し、相談支援の充実、障害児支援の強化等制度全般について所要の見直しを行う必要がある。
これが、この法律案を提出する理由である。」

昨年の通常国会で、麻生内閣(自公政権)が提出した内容と、ほとんど変わりません。
現在の鳩山内閣(民社国政権)側も、大筋で合意していて、与野党超党派での提出です。
厚生労働委員長が提案し、早ければ5月28日には衆議院を通過し、今国会で成立する見通しだそうです。

はて…(ーー;)?
そうすると、福祉部会で喧々囂々議論しているのは、何なんでしょうか?
夏の来年度予算概算要求編成に向けての、緊急対策の論議だけなのでしょうか?
障害者自立支援法改正案に、部会や推進会議の意見は反映されないのでしょうか?
当事者の意見を聞くのは、ポーズだけだったということになりかねません。

昨年、日比谷の野音に1万人を集めた「10・30全国大フォーラム」実行委員会が「緊急アピール」を出し、抗議しています。

法案作成・提出までの、当事者参画など手続きが、まったくなされていないこと。
この件に関して、与党と障害当事者・関係者の話し合いが全くされていないこと。
これまでにも与党からの提案は示さておらず、新聞報道等を通して採択の動きがあることを知ったこと。
内容も、昨年3月、旧政権下で政府提案として提出した法案とほぼ同じ内容であること。
谷間の障害者の問題の解決が先送りされていること、
移動支援や手話通訳・コミュニケーション支援事業など、市町村地域生活支援事業の問題も何も解決されていないこと。
また、障害者の自己決定を尊重しないサービス利用計画拡大の問題があること。
自立支援医療の応益負担の廃止が盛り込まれていないこと。

したがって、
「こうした当事者抜きの拙速な決定は決して許されない。
障がい者推進会議および総合福祉部会の議論を優先させるべきである。
私たち10.30フォーラムは、粘り強く同法案廃止を求め、運動を展開する。
『私たち抜きに私たちのことを決めてはならない』」と宣言しています。

障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現をめざす会と
障害者自立支援法違憲訴訟弁護団も、緊急抗議声明を出しています。

障害当事者たちの主張の方が、正論であると感じるのは、僕だけでしょうか?
普天間基地移転問題と同様に、鳩山政権の甘さと脆さを露呈したような感じです。
このままでは、ダブルスタンダードどころか、二枚舌になってしまっています。
いったい、どうなっているんでしょう?

なんだか、訳のわからないまま、自分の頭を整理したくて、記事にしました。
永田町や霞ヶ関の政治状況等、詳しい方がいたら、補足解説お願いします。
だらだら、まとまらない冗長な文章を、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

※直接、上記の会議に出席している訳ではないので、事実誤認があったら、すみません。
 朝日新聞と毎日新聞ほか、5月21日付けと25日付け報道を参考にしてます。

目標7万2千人の退院は?

2010年05月07日 18時35分39秒 | 精神保健福祉情報

精神障害者の退院促進・地域移行支援を語る時に、必ず出てくる数字があります。
7万2千人という社会的入院者の数です。
「何人と覚えておけば良いんでしょうか?」という国家試験の受験生がいます。
「なんか、ころころ公表される数字が変わるよね?」と困惑した表情の人もいます。
「あの7万2千って数字は、どこに行っちゃったの?」と揶揄する声も聞かれます。

最初に7万2千人という数字が表に出たのは、2002年でした。
厚生労働省障害者施策推進本部による「受け入れ条件が整えば退院可能な入院患者(いわゆる「社会的入院者」)」の推計値です。
以後、「7万2千人」は、多くの場で繰り返し語られてきました。

この時、厚生労働省は「10年間で退院・社会復帰をめざす」と、高らかに宣言したのですが…。
もう、2010年度に入っていますが、どうでしょう?
2008年度末時点までの統計で、たしかに全国で2029人は退院しましたが…。
あと、7万人は、どうなるんでしょう?

2004年に出された「精神保健医療福祉の改革ビジョン」。
ここでは、約7万人を今後10年間で地域移行させると明言しました。
精神科病床の機能分化を進める、
精神障害者の地域生活支援策を強化する、等々により、
社会的入院者の退院促進を図るとした「改革ビジョン」は、関係者の注目を集めました。
そして、大きな議論を呼び起こしました。

そもそも「社会的入院者」とは、どのような方でしょう?
病状としては退院が可能な状態であるにもかかわらず、受け入れ条件が整わない等の社会的な理由により、入院継続を余儀なくされている患者のことをさします。
当初の約7万2千人という推計値は、1999年の患者調査をもとに公表されたものです。
その後2002年調査により、入院患者数32万9千人のうち6万9千人(21.5%)と下方修正されています。

一方、2006年の障害者自立支援法に基づいて、都道府県および市町村に障害福祉計画策定が義務づけられました。
この過程で、2011年度までの削減目標設定が課されました。
でも、自治体によっては、この数字を提示していないところもあります。
入院1年未満の者を省いたために、社会的入院は更に絞り込まれました。
全国累計4万9千人が「受入条件が整えば退院可能な患者数」(推計値)とされました。
これにより、国全体としては2011年度末までに、そのうち3万7千人を地域移行させることを目標に掲げるに至りました。
最初に謳われた「7万2千人の退院目標」は、半分になってしまいました。
それにしても、来年度末までに、3万人退院できるのでしょうか…?

一方、2003年の日本精神科病院協会の調査では、同様の患者数は3万8600人と推計されていました。
協会の会員病院を対象とした調査で「そんなには社会的入院者はいない」という結論でした。
当初両者の数字には大きな開きがありましたが、国の数値がどんどんトーンダウンしてきたせいか、帳尻が合ってきています。

かたや、7万人という推計は低すぎる、という意見もあります。
入院患者の3分の1(約11万人)は本来退院可能でありながら施設症化した長期在院患者群であるという報告もあるくらいです。
僕自身も、どんなに低く見積もっても、最低限それぐらいはいると思います。
少なくとも、僕が見てきたあちこちの精神科病棟にいる方を拝見する限りでは…。
広田和子さんは、先日の総合福祉部会で「20万人は社会的入院」と言ってました。

もっとも、退院ができる、できないという判断は主治医の裁量にゆだねられています。
残念ながら、何か、客観的な基準や指標がある訳ではありません。
主治医が「退院可能」と言えば退院可能ですし、「退院不可」といえば退院不可です。
もちろん、医学的に患者の病状を評価してのことですが、あくまでも病状評価によるものです。
社会的入院と言われる、「社会的」な側面での視点は乏しいように思えます。
退院して地域生活に移行できるかどうかは、環境要因によるところが大きいのが事実です。
やはりソーシャルワーカーによる評価や、環境調整の視点が必要でしょう。

巣立ち会の田尾有樹子さんによれば、「退院した患者さんに聞けば一番確実」だと。
主治医が難色を示しても、退院患者が「あの人は退院できる」と言う人は、退院して、地域でやっていけるそうです。
「病気が良くなったら退院じゃなくて、退院すると病気がよくなるね」
べてるの家の発言は示唆に富んでいます。
(『退院支援、べてる式。』医学書院、2008年)

現在の入院患者の在院期間別の構成割合を見ると(2005年患者調査)、1年未満は35%に過ぎません。
10年以上が23%に達しており、全入院患者の65%が1年以上の長期入院者です。
長期在院者がイコール「社会的入院者」では、決してありません。
病状の不安定さや、環境要因だけではない、多くの問題があるのは事実でしょう。
でも、長期にわたる入院生活による施設症化により、社会生活能力の著しい低下をきたした多数の入院患者が存在するのも事実です。
少なくとも、日本以外の国では、地域で当たり前に暮らしている人たちが、この国では入院したまま歳をとっていきます。

2009年9月に公表された、あり方検討会の最終報告書「精神保健医療福祉の更なる改革に向けて」では、社会的入院者は増えています。
2005年患者調査をもとに、約7万6千人(23%)となっています。
今後も、こうした推計値は、色々な数字が取り沙汰されることでしょう。

でも、どんな数字が掲げられようとも、入院患者が大きく変わっている訳ではありません。
棺桶に入っての死亡退院でなく、仲間と支援者に迎えられての精神医療サバイバー(生還者)を、どのように増やして行けるのか…。

目標とされている2011年度末まで、あと1年と10ヶ月です。
退院・地域移行支援事業の真価が問われてきています。

総合福祉部会、暗雲の船出

2010年04月30日 15時08分50秒 | 精神保健福祉情報

国民の過剰な期待と幻想の中、昨年政権交代が果たされました。
「政治とカネ」でケチがついて以来、腰砕けと迷走を続けている民主党政権ですが、ひとつ大きな変革を果たしたことがあります。
障害者領域にかかわる、抜本的な制度改革に着手したことです。

12月に開設された「障がい者制度改革推進会議」では、毎回厳しい討論が展開されています。
そして、4月27日(火)には同会議のもと「総合福祉部会」がスタートしました。
メンバーは、関係有識者・障害当事者ら55名に及ぶ、とんでもない大きな会議です。
障害者自立支援法に替わる「障害者総合福祉法」の制定、障害者基本法の改正、障害者差別禁止法の制定、障害者権利条約の批准、という大きな課題を背負っています。

初めに推進会議担当大臣である福島瑞穂大臣と、山井和則政務官が挨拶しました。
(精神医療についても明るい山井さんのブログは結構面白くて、本にもなっています)
東推進室長からのメンバー紹介のあと、佐藤久夫委員(日本社会事業大学教授)が部会長に選任されました。
副部会長には尾上委員(DPI事務局長)と茨木尚子委員(明治学院大学教授)を指名。
推進会議とこの総合福祉部会との関係や、今後のスケジュール、会議の進め方について、冒頭から異論も出て、まさに嵐の船出の予感…。

結局、55人という大所帯なので、今回は当事者・家族委員を中心に5分間ずつの意見表明がされるに止まりました。
精神保健福祉関係の委員の発言を中心に、いくつかピックアップして紹介させて頂くと…


○氏田照子委員(日本発達障害ネットワーク副代表)
「発達障害者支援法ができて、発達障害は認められてきたが、まだ不十分。福祉法の障害概念の中に発達障害をきちんと入れてほしい」

○大久保常明委員(社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会常務理事)
「制度改革のロードマップや、総合福祉法への道筋を明らかにし、今できることは法改正してでもやるべき」

○小田島栄一委員(ピープルファースト東久留米代表)
「地域生活を実現していくには、見守り介助がぜひとも必要」

○尾上浩二委員(NPO法人障害者インターナショナル日本会議事務局長)
「権利条約や民主党のプロジェクトチームの文書についても、資料とすべき。脱施設の目標に向けた立法化を」

○川崎洋子委員(NPO法人全国精神保健福祉会連合会理事長)
「精神保健福祉法を改正して、医療と福祉を分離し、精神医療法は医療法に統合、精神障害者福祉法は障害者総合福祉法に統合して、保護者制度を撤廃する必要がある」

○北浦雅子委員(社会福祉法人全国重症心身障害児(者)を守る会会長)
「重度障害者の親たちは施設がなくなるのではないかととても心配しており、署名活動をしている」

○中西正司委員(全国自立生活センター協議会常任委員)
「国庫負担の上限を廃止し、介護保険優先の原則を見直すべき」

○野原正平委員(日本難病・疾病団体協議会副代表)
「諸外国と比べ、日本は長期慢性疾患を福祉の中で位置付けていない」

○東川悦子委員(NPO法人日本脳外傷友の会理事長)
「高次脳機能障害の人たちはいまだに制度の谷間におかれているので、発達障害・難病とともに法の定義に明記し、障害としてきちんと認めてほしい」

○福井典子委員(社団法人日本てんかん協会常任理事)
「てんかんに対するきちんとした法的位置付けと、教育現場での理解を深めるという取り組みが求められている」

○藤井克徳委員(日本障害フォーラム幹事会議長)
「当面の緊急課題と今後の政策については分けて論議すべき。自立支援法訴訟の基本合意などをベースに、きちんとデータを集めて行うことが必要」

○山本真理委員(全国精神「病」者集団)
「精神障害者が治安の対象とならないようにすることが重要。心神喪失者医療観察法は即時廃止されるべき。精神保健福祉法を廃止し、強制入院廃止に向けた地域での支援体制を整備していくべき」

○広田和子委員(精神医療サバイバー)
「精神障害者社会的入院の解消がまったく進んでいない。社会的入院者は7万人どころか20万人くらいいるのでは。なによりも住居と所得保障が必要」

○三田優子委員(大阪府立大学准教授)
「入所施設や精神科病院での社会的入院・入所者の、地域移行のための具体的な政策が必要であり、その実態を調査することが重要。地域生活支援におけるマンパワー確保が急務」


意見発表後、厚生労働省から「平成23年度に実態調査を行いたい。総合福祉部会長と副部会長、行政担当者らによるワーキンググループを作り、議論を進めていきたい」との提起がありました。
これに対して「当事者が少ない」「もう少し方向が決まってからの方が良い」などの疑問の意見も。
終了時間も80分超過しており、次回までワーキンググループは行わない、ということで全体の合意を得て散会となりました。

当日、僕がその場にいた訳ではないので、上の発言記録は不正確かも知れません。
当日の出席者のメモ、配付資料、配信動画等から、上のようにまとめられると思います。
(ご本人の意図に反する要約をしてしまっていたとしたら、ごめんなさい)

次回は5月18日(火)に開催されるそうです。
5月末までに緊急対策案をまとめ6月の会合で検討、7月から来年度予算案に盛り込む案件として詳細を詰める方針とのことです。

55人の部会とあって、配布された意見表明等の資料だけで、69本あります。
当日配布の資料(PDF)や当日の模様の動画も、ネットで配信されています。
下記のアドレスから、ぜひご覧になって下さい。

精神保健福祉領域に止まらず、障害者施策がドラスティックに変わるかどうかの大舞台になります。
これで何も変わらなければ、あと半世紀、日本は何も変わらないかも知れません。
なんとか新しい時代の扉を、今度こそ開けて欲しい…、そう願います。


★部会委員名簿:http://www.nginet.or.jp/jdict/100412_7th/sougoufukushibukai010412.pdf

★会議配布資料:http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/sougoufukusi/2010/04/0427-1.html

★インターネット中継録画(YouTube):http://www.youtube.com/watch?v=wHc86fqLg0U



※画像は、今朝の青葉繁れるキャンパス風景。雑木林に囲まれた校舎です。

和歌山からの発信

2010年03月21日 11時15分30秒 | 精神保健福祉情報
和歌山に来ています。

今週、和歌山県は地域移行推進週間だそうで。
兵庫県の柳さん、北海道の門屋さんを呼んでのフォーラムも県内各地であったそうです。
第3弾の田辺市で行われたフォーラムに、大学の退院促進研究班の仲間とともに招いて頂きました。

実施主体は県ですが、運営は社会福祉法人やおき福祉会。
かねてより、就労支援活動で実績を上げて有名なところですね。
土曜日の午後、地域や病院や行政の関係者、精神保健ボランティアなど、約70人が集まってくれました。

和歌山県と言えば、お世辞にも精神医療が活発な地域とは言えません。
平均在院日数も、ようやく400日を切ったところで、常に全国のワースト5に入っています。
2004年度から始まった退院促進事業も、5年間で退院に結びついた患者は25名に止まります。

でも、今年度は1年間で既に22名。
これまで培ってきたノウハウや、病院と地域の連携がようやく実を結びつつあるのかも知れません。

今回のプログラムは、こんな感じでした。

○講演会「地域移行支援の現在・過去・未来」
「退院阻害要因と取り組み課題」
日本社会事業大学専門職大学院 古屋龍太

○講座「地域移行支援のプログラムを考えよう」
「『効果のあがる退院促進支援プログラムのあり方研究会』研究のご紹介」
日本社会事業大学大学院 道明章乃
「都道府県/政令指定都市調査」
日本社会事業大学社会福祉学部 瀧本里香
「静岡県における地域移行支援事業の実施状況から考える」
日本社会事業大学専門職大学院 大石信弘

○指定発言
「紀南における地域移行支援の実践報告」
社会福祉法人やおき福祉会 北山雅史


後半は僕自身がマイクを持ってウロウロしながら、フロアからコメントを求めました。
限られた時間でしたが、7人の方が体験を踏まえて発言してくれました。
僕たちの研究会が取り組んできたことをベースに、現場の実務面での課題がテーマになりました。


資源の乏しい広大なエリアを擁する地域での、交通アクセスの課題。
病院内での看護の視点と、支援上のストレングス視点の相剋。
精神障害へのスティグマの強い地域での、不動産業者を通じてのアパート物件確保の困難。
この事業を展開しようとすればするほど、色々な課題や困難が立ち現れてくるのが現実です。


でも、取り組みを通して少しずつ変わり、色んな成果が出てきているのも実感できました。
11人もの病棟の看護師たちが、プライベートな時間を使って参加してくれたのは驚きでした。
自分たちの課題として、この地域移行支援にどう取り組むか、病棟現場でどう展開していくか、真剣に語ってくれました。
地域の支援機関のスタッフが病棟の中に入って、一緒に取り組んでいくことも普通になって来ています。
当事者を交えて、本人の気持ちを確かめながら、支援方針を考えていくケア会議も当たり前になりつつあります。

病院と地域の連携の素地は、できてきているのでしょう。
色々試行錯誤しながら取り組んできたからこそ、現実的な課題にぶつかっているのでしょう。
これから大きく変わる力強い胎動を、僕は感じました。


夜、やおき福祉会の方たちと楽しいひとときを過ごさせてもらいました。
柳瀬さんや、北山さん、谷さん、山本さん、柿本さん。
みんな、穏やかな熱意と柔らかな人柄を感じさせる、とても魅力的な人たちです。
そして、個々のキャラを大事にして、阿吽の呼吸で動いている、素晴らしいチームです。


ヤフーランキングで田辺一の人気の「さかな」というお店で、おいしい海のものやおつまみを頂きました。
関西独自の文化や風土に触れ、大笑いしながら夜更けまで呑んでしまいました。

ホテルまで送ってもらって、部屋で熊野古道麦酒を飲みました。
和歌山の人たちのように、まろやかでしっかりした味わいのビールでした。
3日間で計5時間半しか寝てなかったので、爆睡してしまいました。


やおき福祉会の皆さん、紀南こころの医療センターの皆さん、どうもお世話になりました!
また、いずれ、ゆっくり語り合いましょう!

\(^ー^)/

地域移行の全国事業所調査

2010年02月10日 11時29分40秒 | 精神保健福祉情報
今、退院・地域移行支援事業の全国調査を行っています。
全国でこの事業を受託している全事業所の方々に、調査票をお届けし、協力をお願いしています。

調査は、文部科学省の基盤研究費助成を受けて行われているものです。
「効果のあがる退院促進支援プログラム研究班」という学内共同研究を組織しています。
昨年の春と秋、全国あちこちの事業所に出かけて、聴き取り調査したものをベースにしています。

調査の趣旨は、大雑把にいうと三つあります。

一つは、長期在院患者の退院・地域移行に向けて、どのような取り組みが為されているか、明らかにすること。

同じ事業名でも、自治体によって位置づけも要綱も様々です。
圏域や事業所によっても、取り組まれている内容は実に様々です。
その取り組み内容を例示して、どのような実践が展開されているか、回答してもらうことです。

二つ目目は、この事業に取り組んでいる事業所の皆さんの、実情を集約すること。

各事業所で懸命の努力が重ねられていますが、なかなか実績数は上がっていません。
少ないスタッフで、四苦八苦、試行錯誤を重ねている現場の意見と課題を、明らかにする必要があります。
現場の生の声を集めて、少しでも今後に向けて政策提言していければというものです。

三つ目に、長期在院患者の退院・地域移行が促進される要因を、明らかにすること。

それぞれの事業所での取り組みと、地域移行の実績を、プログラム評価という観点から検討します。
今後、誰が、何を、どうすれば、退院し地域に移行し、定着して安定した生活をする方が増えるのか。
有効な支援プログラムのエビデンスを得ようとするものです。

折悪しく、厚生労働省による事業対象者の全数調査に重なってしまったようで…。
調査用紙の届いた事業所の方は、度重なる調査要請に、うんざりしていることと思います。

でも、この事業は、日本の精神医療の経過を考えると、歴史的意義を持つものです。
PSWにとっても、国家資格化された意味が問われている事業とも言えます。
なんとか成果を上げていくためにも、現場の声を集約して、世に訴えて行く必要があります。

1月末での第1次集約が終わり、予想以上の反応を得られて感謝しています。
多くの事業所の方の、この事業にかける想いが伝わってくるようです。
昨日、第2次集約に向けて、改めて調査協力依頼の葉書を発送したところです。
各事業所の方には、趣旨を理解して頂いた上で、協力をお願いしたいと切に願っているところです。

どうか、よろしくお願い致します!

改革推進会議の論点

2010年01月17日 12時43分18秒 | 精神保健福祉情報
いよいよ、障がい者制度改革推進会議が、動き始めましたね。

第1回障がい者制度改革推進会議が2010年1月12日、開かれました。
挨拶に立った、福島みずほ内閣府特命担当大臣や山井和則厚生労働省政務官は、
「歴史的な一歩を踏み出すことになる」ということを強調しています。

今後、5年間の改革期間で、3年を目処に改革を進めていく方針です。
改革の骨格を、急ピッチで夏頃までにまとめると。
月2回、1回4時間の会議を積み重ねていくそうです。

その会議の論点が示されました。
「制度改革推進会議の進め方(大枠の議論のための論点表)たたき台」です。
東俊裕内閣府参与が、取り上げるべきテーマをまとめたものだそうです。
これをもとに、今後議論が展開されていくことになります。

自立支援法や、差別禁止法、虐待防止法といった法律の制定や見直しに関する分野。
教育、雇用、交通と情報アクセス、精神医療、所得保障、福祉経済予算、障害の表記といったテーマが並んでいます。

これまで、誰もが必要性を感じながら、一向に進む気配のなかった事柄ばかりです。
今度こそ、大きく動き始める…という期待感が膨らみます。

「歴史的な一歩を踏み出すことになる」のかどうか…。
この推進会議での、議論の行方によるところが、もちろん大きいのでしょうけど…。
それ以前に、今「政治と金」で揺れる新政権が、保つのかどうかが分かれ道のような気がします…。


参考までに、最初に掲げられている「障害者基本法」の項目を、以下に引用しておきます。
性格・定義・人権・基本的施策・モニタリングといった項目が並びます。
その項目ごとに、論点等が示されています。
内閣府のホームページ(障害者施策)等で、配布資料は公開されています。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇  

障害者基本法

1.基本的性格
基本法の性格をどう考えるか
「施策の客体」から「権利の主体」への転換という観点から、その性格をどう位置づ けるのか。
従来の福祉関連施策一般に関する福祉立法という位置づけから、より積極的に、人権の実効的保障とそのために必要なより広い分野における諸施策を包括する権利法といったものに転換する必要があるのではないか

2.障害の定義
①条約における障害の概念をどう反映させるのか
 (障害が態度及び環境の障壁との相互作用から生じるという観点)
②基本法の基本的性格との関連性についてどう考えるか
③個別立法との関係(手帳制度)についてどう考えるか

3.差別の定義
①差別の定義を規定するか
②規定する場合の差別の類型(3類型)についてどう考えるか
③積極的差別是正措置への言及についてどう考えるか

4.基本的人権の確認
①現行規定の他に明文で置くべき総則的人権規定はあるか
②自己決定の権利と差違や多様性の尊重についてはどうか
③地域社会で生活を営む権利についてはどうか
④手話言語及びコミュニケーションに関する権利についてはどうか

5.障害者に関する基本的施策
①現行規定と改革17項目との関係についてどう考えるか
②現行規定を権利の確認という観点から見直しする必要性の有無
③政治参加の施策を加えるべきかどうか
④司法参加の施策を加えるべきかどうか
⑤差別禁止の法制度の確立と施策を加えるべきかどうか
⑥虐待防止の法制度の確立と施策を加えるべきかどうか
⑦障害児の施策を加えるべきかどうか
⑧難病についての施策を加えるべきかどうか

6.モニタリング
①条約第33条「促進(実施)」と「保護(救済)」と「監視」の3機関の棲み分けに ついてどう考えるか
②スクラップ・アンド・ビルドの観点から現中障協を見直し、「促進(実施)」および 「監視」機関に抜本改正するのか。それとも、「促進(実施)」のための機関に留め、 「監視」機関は別個にすべきか
③「監視」機関に抜本改正するとした場合の権限についてどう考えるか
④独立性をどう担保するか

7.その他

障がい者制度改革推進本部の設置

2009年12月16日 09時00分40秒 | 精神保健福祉情報
12月15日、「障がい者制度改革推進本部」の第1回会合が開かれました。
民主党政権がマニフェストに掲げていた、障害者自立支援法廃案に向けた改革が始まります。
応益負担の見直しに止まらず、この国の障害者政策全般が見直されることになります。
目指されている「障害者総合福祉法」(仮称?)は、どのような内容になっていくのでしょうか?

「障がい者制度改革推進本部」は、全閣僚で構成されます。
鳩山由紀夫首相を本部長とし、平野博文官房長官と福島瑞穂特命担当相が副本部長だそうです。
これにより、従来の「障害者施策推進本部」は廃止されました。

政権交代に伴う、衣替えだけでは意味がありません。
今回は、この本部の下部組織に「障がい者制度改革推進会議」を設置するとしています。
委員の半数以上を、障害者や障害者団体幹部とするそうです。
関係専門職団体や学識経験者がほとんどを占めていた従来と、大きな差異です。
当事者が自身の政策作りに直接発言し、新たな障害者福祉サービスの体系を検討することになります。

国連の障害者権利条約(2008年発効)への批准が、大きな目標となります。
「推進会議」を担当する内閣府参与には、車椅子を使用する東俊裕弁護士が今後就任するそうです。
障害者権利条約を検討した国連特別委員会で、日本の政府代表団顧問を務めた人ですね。
世界では、当事者の、当事者による、当事者のための障害者施策決定が当たり前です。

"Nothing about us without us ! "(私たち抜きに私たちのことを決めるな)
条約交渉過程で、何回となく繰り返された当事者たちの言葉が、ようやくこの国でも、当たり前になる予感がします。
我が身に置き換えて考えてみれば、当然の要求でしょう。
日本人は「お上が決めたこと」に、あまりにも従順すぎると言えるでしょう。

ちなみに、鳩山総理は「推進本部の『障がい』の害はひらがなで、このこと自体意味がある。」と述べたそうです。
国の法律に準拠して、未だ「障害者」という表記が一般的ですが、今後変わっていくのでしょう。
もう既にかなりの自治体が、個々の条例で「障がい者」の表記を採用しています。
僕自身は「障がい者」と表記することで免罪符を得たかのような風潮には、違和感を感じてしまいますが…。

言葉は、時代と共に変化し、今は当たり前の言葉が死語になっていきます。
「精神分裂病」が「統合失調症」に変わったように、呼称変更は大きな変化を及ぼします。
当事者の置かれた状況は何も変わってない、という評価も当然ありますが。
少なくとも病名告知は格段に進み、心理教育も確実に進みました。
言葉を通じて思考し、イメージが形成される以上、やはり言葉は大事にせねばなりません。
「推進会議」を通じての、当事者自身による新しい言葉の創出を、期待したいと思います。

後期改革ビジョンの行方

2009年11月26日 13時12分02秒 | 精神保健福祉情報

昨年から24回にわたって開催されてきた「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」。
この前、9月24日に、その最終報告書が出て、厚労省から公表されました。
タイトルも勇ましく「精神保健医療福祉の更なる改革に向けて」!
ここで掲げられていることが、本当に実現していけば良いのですが…。

冒頭に「今後の精神保健医療福祉改革に関する基本的考え方」が掲げられています。
基本理念として、「地域を拠点とする共生社会の実現」を掲げています。

ようやく、ここへ来て、精神障害領域でもノーマライゼーションの具現化を図る方向が打ち出されたということでしょうか。
でも、そのための具体的な手立てには乏しく、このままでは空文化しそうです。



★基本的考え方の第1点目。
「現在の長期入院患者の問題は、入院医療中心であった我が国の精神障害者施策の結果であり、行政、精神保健医療福祉の専門職等の関係者は、その反省に立つべき」。

決して自らの過ちを認めようとしない、この国の官僚組織の中で「反省」という言葉が盛り込まれたのは、とても意義深いと思います。
でも、「反省」だけなら、猿でもできる(笑)。
いや、笑い事じゃない…(-_-;)。

1950年の精神衛生法以来、この国は国策として「入院促進」を図ってきたのは、周知の事実です。
必要なのは「反省」に基づいた、国の「謝罪」じゃないでしょうか?
かつて悪いことを他者にしてしまった時、ふつうは相手に謝罪しますよね。
ハンセン病の強制隔離収容政策を、国が謝罪し、大きく事態が変わったように。
諸外国の「脱施設化」のような抜本的な政策転換を図るには、「反省」では余りにも弱々しい。

専門職等の関係者の努力が足りなかった、という反省も必要でしょう。
でも、多くの専門職団体が隔離収容政策の転換をずっと求めてきたのに、国は動きませんでした。
この間の政治や行政の不作為の罪は、やはり大きいと思います。
10年、20年、30年、40年と、精神科病院での生活を強いられてきた社会的入院患者さんたち。
重すぎる負の遺産を返済して行くには、相当な改革が必要です。
残念ながら、それだけの意気込みは、この報告書からは伝わってきません。
(T_T)


★基本的考え方の2点目。
「精神保健医療福祉に関しては、今後、障害者権利条約等の国際的な動向も踏まえつつ、「地域を拠点とする共生社会の実現」に向けて、「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本理念に基づく施策の立案・実施を更に加速すべき」。

これに対応するのが、「地域生活支援体制の強化」で掲げられた各事項でしょう。
障害福祉サービス等の拡充を示しています。
総合的相談を行う拠点機関の設置、24時間支援・ケアマネジメント機能の充実等です。
また、グループホーム・ケアホームの整備促進を図るとしています。
ピアサポートの普及や、当事者の行政プロセスへの参加を促進する、等も謳っています。

街中に小さなステーションを設けて、担当エリア内の支援を展開する。
各地で取り組まれているACT等を、全国展開する。
絵に描いた餅になっている、精神障害者のケアマネジメントを実効あるものにする。
海外で先行している「Housing First !」という脱施設化施策に基づいて、居住福祉資源をまず拡充する。
退院・地域移行だけでなく、ピアサポートを積極的に展開する。
国・地方行政の施策決定に関わる審議会・協議会に、必ず当事者に参加してもらう。

「Nothing about us without us !」(私たち抜きに私たちのことを決めるな)という言葉は、やはり重いと思います。
上記の項目も、どれも、PSWをはじめ関係者が前々から主張してきたことです。

なぜ、この国では当たり前の施策が具体化しないのでしょう?
やるべきこと、やらねばいけないことは、誰の目にもハッキリしているのに…。
「入院医療中心から地域生活中心へ」に向けて「施策の立案・実施を更に加速させる」とありますが、失速しないことを望みます。
(-_-)


★基本的考え方の3点目。
「長期入院患者等の地域移行の取組を更に強力に推し進めるとともに、今後新たな長期入院を生み出さないという基本的な姿勢に立って、施策を推進すべき」。

「精神保健医療体系の再構築」として、いくつもの項目が列記されています。

統合失調症の入院患者の減少を一層加速させる。
高齢精神障害者の適切な生活の場を確保するため、介護保険サービスの活用等を検討する。
認知症患者のBPSD(行動・心理面の周辺症状)等に対応する専門医療機関の確保する。
気分障害、依存症、児童・思春期精神医療の機能強化と医療提供体制の拡充する。
早期支援体制の整備を図る。
地域精神保健医療提供体制の再編と、精神科医療機関の機能の強化を図る。
精神科医療機関における従事者の確保、資質の向上を図る。
精神科救急医療体制を確保し、制度的位置づけを整理する。
未受診者・治療中断者への、訪問診療・危機介入等の支援の強化を図る。

いずれも検討はして欲しいし、整備も、拡充も、強化も、向上もして欲しいです。
貧しく劣悪な精神科医療の状況が変わるのであれば、何から手をつけても前進にはなると思います。
ただ、ここで触れられている事柄は、相応の予算がないと実現が難しいものばかりです。
かの事業仕分けでも、厚労省の予算はばっさばっさと切られているご時世に、どうでしょう?
新政権は、福祉等の社会保障分野については、むしろ拡充推進を打ち出してはいますが…。
検討会で為された丁々発止の議論が、無に帰すことなく、本当に具体化されていくのか…。
今後の推移を見守りたいと思います。
(@_@)



この検討会最終報告書は、後期「改革ビジョン」の基本方針になるものです。
今後の5年間(2009年10月~2014年9月)、どのように日本の精神保健医療福祉が変わるのか…。
楽しみでもあり、不安でもあります。
(-_-;)




※画像は、一橋大学の兼松講堂。
 去年、精神障害者リハビリテーション学会に参加した時のもの。
 今年の福島大会は、残念ながら行けませんでした。


第9回北海道精神科リハビリテーション研究会

2009年10月25日 01時55分39秒 | 精神保健福祉情報
今日は、北海道に行っていました。

札幌で、第9回北海道精神科リハビリテーション研究会に参加させてもらいました♪

同研究会の主催ですが、日本精神神経科診療所協会や北海道精神科病院協会等が共催しています。
医師や看護、PSWやOT、心理、当事者、家族、行政と色々な人々が参加していました。

でも、北海道で精神障害者の地域支援の事業所を結構長くやっている人に話したら、この会の存在を知りませんでした。
北海道が広いこともあるでしょうけど、やはり病院と地域の間には壁があって、情報の流通を阻害しているのでしょうか?
医療と福祉は、認識や方法において、かけ離れていて、なかなか一緒にはやれないのでしょうか?
フロアから「地域からの病院の孤立」について質問がありましたが、顔がわかる関係がどれだけ組めるかが鍵になります。

とりわけ、長期在院患者の地域移行の問題は、病院と地域の連携なしには成り立ちません。
「地域移行」のゴールは「退院」ではなく「地域定着」ですし、更にその先のより豊かな生活ですし。
「出して終わり」の退院促進や、「出されて丸投げ」の地域支援では、うまくいくはずもありません。
事業要綱で「退院後1ヶ月で支援打ち切り」という県は、やはり出すことしか考えていないのではと思ってしまいます。

シンポジストの尾形多佳士さん(平松病院PSW)の報告「退院促進の取り組みとこれからの課題について」は、とてもよくまとまった実践報告でした。
札幌市で7月から始まったばかりの事業の概要、取り組み事例、経過、キーポイントから、課題、展望まで、実に見事な整理がなされていました。
こういう地に足の着いたクリアで若いPSWの話しを聞くと、この国の精神保健福祉に希望が持てますね。

同じくシンポジストの能登正勝さん(NPO全国精神障がい者地域精神障がい者生活支援センター理事長)にお会いできたのも、今回の成果です。
DPIでも活躍されていますが、当事者として地域住民や商店街とコミュニティを形成し、道行政に働きかけて障がい者条例を策定していく組織力には感服しました。
もう繰り返したくないご自身の入院体験が、その原動力になっていることを穏やかに語り、とても説得力がありました。

僕は「退院促進・地域移行・定着支援のリハビリテーション」と題して、お話しさせて頂きました。
あり方検討会の報告書、退院促進モデル病棟の実践、地域移行支援のプログラム評価、ピアサポーターの機能、リカバリー概念…等のことです。
ちょっと盛りだくさん過ぎて、散漫になってしまった感もあります。
パワポ資料を行きの飛行機の中でも作っていたのですが、やっぱり余裕をもって整理しないと、ダメですね。
事前に送ったはずの抄録も着いてなかったり、印刷した配布資料もないままで、事務局や皆さんに迷惑をかけてしまいました。
それでも、フロアから色々な質問や意見も出て、僕が伝えたいことはきちんと受け止めてもらえたと思います。



昨日は、北海道で話すパワポ資料をまとめていて徹夜明けのまま、大阪に行っていました。
こちらは、地域移行に関わる事業所の訪問調査です。
今、全国各地で取り組まれている退院促進事業(地域移行支援特別対策事業)は、大阪からスタートしました。

安田会系の大和川病院の中で行われていた、日常的な入院患者への虐待暴行、弁護士の面会も認めない密室空間。
1993年、その内実が明らかとなり、著しい人権蹂躙問題が発覚した時、大阪の人たちは自分たちの問題として受け止めました。
長期にわたって精神病院に収容され、放置されているのは、重大な人権侵害にあたると考えたのです。
それが2000年に社会的入院解消研究事業として結実し「地域から迎えに行く」大阪府方式を生み出し、その成果を踏まえて国の退院促進事業が2003年にスタートしました。
そういった意味では、大阪は、今日に至る地域移行支援のパイオニアと言えます。

大阪独自の復帰協(精神障害者社会復帰協会)と、保健所の精神保健福祉相談員と、この事業を受けた地域事業所と、三位一体?の取り組みがなされています。
それでもやはり、ここでも病院と地域の連携が大きなネックになっているようです。
すでに9年目を迎えている大阪ですら、未だにこの事業との連携が全くない病院も多くあるようですし。
自分の病院で退院させられない、複雑困難事例をこの事業に丸投げしてくる病院もあるようです。

各県ごとの取り組み方や成果を詳細に調べられれば、プログラム評価研究につながるのでしょうが、残念ながらそこまでのデータはありません。
やはりコツコツと地域の事業所を回って、それぞれの取り組みや課題をお聞きしてデータを集めるしかなさそうです。
各現場の営為と声を、きちんと拾い集めることからしか、現場に立脚した調査研究はできませんしね。



この記事は携帯からの投稿です。
もうすぐ自宅に着きます。
羽田空港が一時滑走路閉鎖になっていたので、えらい遅くなってしまいました。
日帰り出張が続くと、やはり疲労が蓄積してきて、昨日の新幹線も、今日の飛行機も、帰りは前後不覚の爆睡状態でした。
北海道の皆さんと、懇親会にも参加して、ゆっくり話したかったのに果たせなかったのが残念です。

それでは、おやすみなさい。

地域移行支援事業の要項

2009年10月16日 19時21分42秒 | 精神保健福祉情報
今、福岡県に来ています。

地域移行支援のフィールド調査です。

現在、全国337圏域の事業所で「精神障害者地域移行特別対策事業」が取り組まれています。

この事業に取り組む各地の事業所へ、訪問調査を行う共同研究班の一環です。

北は北海道から、南は沖縄まで、全国19事業所を、春と秋に手分けして回っています。



同じ事業名でも、その取り組み方や成果は実に様々です。

事業所の個性や地域の特性ももちろんありますが、事業を委託している各都道府県や政令市の要項がまちまちです。

例えば、対象者は「家族の同意が獲られている者」と限定している県があったり。

自立支援員(地域移行推進員)は、無償のボランティアが前提となっていたり。

コーディネーターと称される人が、他県では支援員のことであったり。

ピアサポーターが中核的な役割を担っているところもあれば、全く要項に位置づけられてないところもあったり。

退院してからのサポート期間も、実にまちまちです。

退院をゴールとして、その後のフォローを全く考えていないところから、地域への定着まで視野に入れているところ。

各事業所は、病院の厚い壁との格闘以前に、現場の実情と乖離した行政の要項に縛られて、思うような支援が組めないでいるようです。



そもそも国の要項が、とんでもなくラフで、この事業の内実を危ういものにしています。

各自治体の自由な裁量に委ねたということかも知れませんが、その結果骨抜き状態を招いてしまっているとも言えます。

各事業所は四苦八苦、奮闘しています。

地域移行に向けたスキルやノウハウも蓄積されてきています。

せめて自治体行政には、この事業の意義を理解して頂き、現場のピアサポーターやスタッフがミッションを果たせるように強力にバックアップして欲しいものです。

退院支援に向けての胎動

2009年09月05日 03時10分19秒 | 精神保健福祉情報
今日は午後、多摩小平保健所に行って来ました。
「退院支援セミナー'09」に参加してきました。

テーマは「医療が支え地域がむすぶ~その人らしく地域で安心して暮らしていくために」。
主催は、北多摩北部退院支援事業委員会です。

この委員会は、東京都北多摩北部の5市にある、地域生活支援センターが協働して行っているものです。
小平市・あさやけ、東村山市・ふれあいの郷、清瀬市・どんぐり、東久留米市・めるくまーる、西東京市・ハーモニーの5カ所です。
東京都から退院促進支援事業の打診があった際に、1カ所で受託するのではなく、「事業委員会」として受ける事にしたそうです。
エリア内に10カ所の精神科病院がありますが、隣接する5市の機関で、連携しながら退院支援を行っていこうとするものです。
こういう形態も、全国的には珍しいのではないでしょうか?

立ち上げた初年度は、病院との連携の形成を模索する中で、わずか1例の退院で終わったそうですが、
2年目の今年度は、協力病院から順次事例も挙がってきて、少しずつ成果を上げてきています。



今回のセミナーでは、ふたつのレポートがありました。

ひとつは、「病院からの卒業~松見病院での退院支援事例を通して」。
ひとりの男性の事例(50歳)について、関わってきた4人の報告がありました。
小平市にある松見病院から、副看護部長の實籐さんとPSWの古川さん、あさやけの花形さんと、ふれあいの郷の矢野さんです。
パワポの資料も良くまとめられており、4人の女性が一体化して自然に話していたのが、とても印象的でした。

事例の男性は、21年間幻聴に従い、この8年間、病棟内でいつも日中布団をかぶっていて、人との接触がまったく無かったそうです。
当初は、退院支援を病棟で進めても、逆に病状悪化を来たし、支援は4ヶ月で中断されたとのこと。
スタッフが調整を先行してしまい、本人の気持ちの変化、不安を受け止め切れていなかったという反省が残ったそうです。
仕切り直しの退院支援が、地道に粘り強く開始されました。
病棟内カンファレンスに地域のスタッフが参加したり、病棟スタッフが積極的に話しかけて関係を構築したり、医師は新薬の調整をしたり。
「退院」を禁句にして、「ひとり暮らし」のイメージ作りを、繰り返し外出したり、色々なツールを使いながら行ったり。
病院と地域が、進捗情報とスケジュール、見立てを共有するために密にコミュニケーションを図ったり。
ひとりの男性の8年ぶりの退院に向けて、スタッフたちが本当に手を携えて支援を組んできた様子が、よく伝わる報告でした。

最後に、退院日に撮ったという、ご本人とスタッフたちの記念写真が写されました。
ご本人のメッセージが読み上げられました。
「支援センターの方たちの手助けで、退院することができました。
今は、夜更かししてしまったり、何もすることなかったり、寂しいこともあります。
でも、今、誰にも拘束されることのない自由な生活は、とても楽しいです。
今後は、昼間どう過ごすか、考えたいと思います」と。

質疑応答では、
病院側と地域生活支援センターの連携の工夫や、病院からだけでなく地域から歩み寄ってくれることで、本人も安心感を得られること。
病院看護師からすると、外部の人が入ってきて初めてのカンファレンス体験の新鮮さや、地域スタッフとの関わりで看護スタッフの関わりが展開しだしたこと。
見立ての統一がとても重要で、病棟スタッフと地域スタッフが共同歩調を取り、外出の実体験を通して本人が変わっていったこと、
などが話されました。

参加していたある患者さんは、
「自分が退院してから10年たって、今はこんなに違うのかとビックリした。
自分が退院する時には、病院スタッフも誰も助けてくれなかった。
こんなに様々なスタッフが、細やかに関わってくれるのかと感動した。
今後、できることがあれば、この事業に協力していきたい」
と話していました。



もうひとつの報告は、「清瀬富士見病院における院内プログラム「座談会」の紹介」でした。
清瀬富士見病院のPSW長谷川さん、清瀬市生活支援センターどんぐりの湊さんの報告です。

清瀬富士見病院は、精神科単科全閉鎖病棟120床の病院です。
平均年齢は66歳、60歳以上が75%、平均在院期間2697日の病院です。
認知症症状のある方が7割を占め、病棟看護スタッフは日々その対応に追われているそうです。
この病院で、地域生活支援センターの利用者を招いて、入院患者との「座談会」を開催するまでの準備や、開催してからの変化が報告されました。

第1回「地域で暮らして良かったこと」
第2回「薬を飲みながらアパートやGHで暮らすこと」
第3回「地域で暮らしている人の日中の過ごし方」
第4回「退院するまでの準備について」…。

当初「退院」という言葉がタブーであったそうですが、自然に退院も話題になるようになったこと。
直接参加しなかった看護スタッフ全体にも、座談会の内容や様子がすぐに伝わり、意識が共有されていったこと。
全然退院機運のなかった病院で、「退院できるんだ」という刺激になって、大きく雰囲気が変わってきたこと。
PSWは、この1年間60名の家族と連絡をとり、コミュニケーションに努めていること。
地域生活支援センターの状態の安定している利用者が、ピアスタッフという形で、通院同行などの支援を始めていること、などが語られました。

フロアからは、
「7万2千人の退院を国は打ち出したが、まだ緒に就いたばかり。
地域の支援事業所に、病院からの情報は、まったく入ってこない。
ひとつの地域で、お互いが連携をとっていくのは、これからなんだと思う」
という率直な意見もありました。



この記事で、その場での雰囲気が、どれだけ伝わったか心許ないですが。
でも、とても暖かな、ハートフルなセミナーでした。
退院支援事業に関わっている人たちの気持ちが、よく伝わる、いい報告でしたし。
特に、看護職の人たちや当事者の人たちの心に、ヒットする言葉がたくさんありました。
参加した100名弱の人たちも、「変わりつつある」ことを実感したと思います。

もちろん、このエリアの取り組みは、まだまだ始まったばかりで、とても未熟かも知れません。
7万2千人の「退院可能精神障害者」の地域移行に至るには、余りにも遠い現実があるのは確かです。
この事業に対しては、「病院と地域に対する啓発事業の域を出ない」という批判もあります。

それでも、今ここで蓄積されつつある経験は、これから大きな力になるはずです。
退院を果たし、地域で元気になっている人がいるという成功体験は、病院と地域、双方のスタッフの、モチベーションとノウハウとスキルを確実に上げていきます。
問題点をあげつらうのではなく、やれたこと、できたことを確実に積み上げ、伝えていくことが、希望を生んでいくのだと思います。
そういう意味では、精神病院の地域社会参加に向けたリハビリテーションが、ようやく始まったと言えるかも知れません。




※画像は、ご存じ東京都庁ですが、記事本文とは関係ありません。

医療保護入院の位置

2009年08月04日 09時34分51秒 | 精神保健福祉情報
7月30日、「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」の第21回会合が開かれました。
現行の精神保健福祉法について、意見交換が行われました。
精神障害者本人が入院を拒否しても、保護者が同意すれば入院させることができる「医療保護入院」について、改善や撤廃を求める声が委員から続出しました。

保護者の同意に基づく「同意入院」が、「医療保護入院」に改められたのは、報徳会宇都宮病院事件を契機として制定された、精神保健法(1987年)でです。
この時に、初めて精神障害者本人の同意にもとづく「任意入院」制度が設けられました。
それまで、精神障害者の入院制度は、すべてが本人の意思によらない強制入院でした。
わが国の精神保健法規は、それまで大前提として、精神障害者が自分自身の意志で精神病院に入退院をするなどということは、考えられていなかった訳です。

この入院形態の変更が、精神病院の医療環境に及ぼした影響は、極めて大きいものでした。
それまで、精神科医療関係者のおおかたのイメージとしては、患者本人の意思にもとづいて入退院の決定がなされたら、現場に大混乱が生じると考えられていました。
でも、精神保健法が施行されてからの実際の統計をみると、全然違います。
法改正直後の1988年には医療保護入院が63.0%、任意入院が28.5%でした。
その9年後の1997年には医療保護入院が29.0%、任意入院が67.3%でした。
両者が約3分の1、3分の2と逆転しています。
本人の意志に基づいて入院する形態が、当たり前の第一選択肢になった訳です。

でも、実は医療保護入院は、一時期全体の4分の1くらいまで減りましたが、2000年を境に増加に転じています。
現在では、むしろ全体の4割近くが医療保護入院になってしまいました。
医療保護入院者の内訳を見ると、65歳以上の占める割合が増えてきています。
認知症高齢者の精神科病院入院が、どんどん増加しているという事実もあります。
明確に入院の拒否はしていない(できない)患者が、手続き上面倒でない任意入院とされていたという問題も、一方でありますが…。
非自発的な入院が、なおもどんどん増え続けるとしたら、どこかいびつな精神医療が再び台頭してきそうな不安が生じます。

年々増加を続けてきた入院患者数は、1991年の34万9190人をピークに減少に転じました。
自傷他害のおそれがあるとして措置入院とされた患者の割合(措置率)は、1970年の30.2%から次第に減少し、法改正前の1985年には9.0%、1997年には1.4%と激減しています。
もちろん、自傷他害のおそれのある患者が、急激に減ったということでは、決してありません。
本来は本人の意思で入院継続できる患者が、強制入院形態である措置入院・医療保護入院でずっと処遇されていたということです。
また、措置率や人口当たりの措置入院患者数は、都道府県によって著しく異なります。
自傷他害のおそれのある患者の発生率が、県によって大きく差があるなんてことはありません。
判断する基準がバラバラで、制度が恣意的に運用されているということです。
厚生労働省も、今回の検討会で、判断基準の一層の明確化や事例集の提示などを行うべき、と提示しています。

医療保護入院制度については、本人が入院を拒否しているのに保護者が入院に同意した場合、本人と家族の間に葛藤が生じることや、家族の負担感が強いなどの問題点が、これまでにも繰り返し指摘されてきました。
検討会でも、田尾有樹子さんが「各国の入院形態と比較して、強制入院の同意者が家族である欧米先進諸国はないと思う。医療保護入院は即刻改善し、強制入院の同意は行政で行う仕組みにするべき」と述べています。
伊澤雄一さんは、「保護者がいなければ何もできない人という社会の目が、偏見と差別をあおっている。保護者制度は撤廃すべき」と述べました。
さらに、中島豊爾さんは「保護者」について、患者の権利擁護に限って規定するか、自治体の第三者機関が患者の権利を擁護する仕組みをつくることを提案しています。
また、精神保健福祉法での認知症に係る対応の是非、適否を検討することが必要ではないのか、との指摘も出されています。

現在ある精神保健福祉法は、強制入院手続き法としての精神衛生法を一部改正する形で、今日に至っています。
保護者制度は、精神障害者を保護監督する義務を家族に負わせるという、精神病者監護法(1900年)以来の流れを踏襲しているだけではありません。
公権力によらない強制入院を、家族の同意により正当化するシステムとして機能しています。
医療保護入院の存立要件として、保護者制度はあり、両者は切り離せません。
国際的に見ても、これは随分ゆがんだシステムです。
医療保護入院制度をどう変えるのかによって、この国の精神科医療の将来の姿が決まってくるのでしょう。

精神医療のあり方の方向性

2009年07月28日 00時52分41秒 | 精神保健福祉情報
「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」が、佳境を迎えています。
少なくとも、今後5年間の方向を決める内容が、今議論されています。

7万人余の「退院可能精神障害者」の退院促進を高らかに宣言されたのが、2004年9月でした。
厚生労働省の発表した「精神保健医療福祉の改革ビジョン」でです。

このビジョンは、それまでの入院中心から、住み慣れた地域で暮らせるように目標を設定しました。
受け入れ条件が整えば退院できる社会的入院の患者を約7万人と推計。
受け皿整備を進めて社会的入院を解消すると掲げました。

しかし、具体的な手立てや目標値は示されませんでした。
病床数の減少は、これまでに5年間で、わずか3700床程度にとどまっています。
退院促進支援事業(地域移行支援特別対策事業)の成果も実は1000人に達していません。
厚生労働省がまとめた統計では、実際に退院に結びついたのは800人程度です。

この数字を、どう評価するか…。
今までの、この国の有り様を考えれば、画期的なことかも知れません。
でも、ほとんど何も変わっていないと言って良いと思います。

「改革ビジョン」から5年を経た現在、この評価と今後の具体策が問題となります。
精神科病院や福祉施設の関係者らが集まる「今後の精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」が、その場となっています。
これまでの反省的総括に立って、これからの後半5カ年の方策が検討されています。
その内容(資料と議事録)は、厚労省のホームページで閲覧可能ですし、きちんと申込みさえすれば傍聴可能です。

この会議の席上で、厚生労働省は7月9日、新たな方向を示しました。
2005年に19.6万人だった統合失調症の入院患者数を、2014年までに23%減らして約15万人にするという、数値目標の原案を明らかにしました。
地域の受け入れ態勢が不十分で退院できない「社会的入院」患者を10年間で解消するとした「改革ビジョン」を見直すというものです。
 
現在の精神病床の入院患者は約32万人です。
入院患者の6割以上を占める統合失調症患者は、1999年から2005年にかけて約1割減っています。
その一方で、認知症患者は高齢化に伴い、4割程度増えています。
同じ精神疾患でも、両者は患者の状態も受け皿対策がまったく異なります。
このため、目標値や対策を分けることにしたというのです。

実は、精神科医療として、認知症患者をどうするかというのは、今回の検討会の大きなテーマでした。
認知症の周辺精神症状が激しくなると、老人科や家庭ではなかなか対応できず、どうしても精神科へ入院という流れがあります。
でも、認知症患者を、精神科でどんどん受け入れていくことが、良いことなのかどうか…。
本来、高齢者医療の枠の中でケアしていくべきで、精神科医療とは違うのではないか?
逆に、激しい精神症状が出た時をはじめ、精神疾患であるのは確かだから、精神科病院が担うべきでは?…と。

この論議は、単なる医学上の線引きの問題ではありません。
入院患者がどんどん減少する中で、空いたベッドを埋めているのが、認知症患者であるという実態があります。
精神科病院経営サイドからすれば、生き残りを賭けた経営戦略の起死回生策として、認知症患者を取り込む必要があるのです。

2004年の「改革ビジョン」は、「退院可能」とされる患者数データが主治医らの主観に基づくなど、客観性にも問題があったとしています。
確かに「社会的入院」は、病状で退院できない患者ではありません。
ヘンな話しですが、入院させている医者には判断できない事柄なのです。
医療スタッフのパターナリズムでは、推し量れない生活力を秘めている長期入院患者は、たくさんいます。

新目標でも、社会的入院をなくしていく方針は維持するそうです。
でも、「退院可能な患者」という指標をやめ、入院患者数のみに着目するとしています。
認知症については、現在正確な有病率データがないため、調査の上、2011年度までに目標値を設けることとしています。

この背景には、退院促進と精神病床削減に反対している日本精神科病院協会のプレッシャーがあります。
このまとめ方には、厚生労働省による、病院経営サイドへの配慮が見え隠れします。
その一方で、世界に類を見ない精神科ベッドの多さを改善し、まがりなりにも「脱施設化」を推し進めなければならない、苦労の後が見られます。

ビジョンは今年9月に折り返し点を迎えます。
検討会が今秋までに報告書をまとめ、後期5年の「改革ビジョン」をつくることとしていますが、どうなるでしょうか?

検討会では非常に厳しい議論が展開されています。
精神障害の当事者と、精神科病院の経営者と、関係専門職種の力関係が、今後の方向を決定します。
非常に先行き不透明であると言わざるを得ません。

それに、この国の政局如何によって、大きく情勢が変わることも考えられます。
政権交代と言うことになると、これまでの精神保健福祉施策の根本から、転換を図られるかも知れません。

ちょっとしばらく、関係者にとっては目が離せない「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」です。
ネットで議事録や資料も、すべて公開されています。
どの立場の誰が何を発言し、誰が何も発言していないか、注目していきたいと思います。