精神医療国家賠償請求訴訟研究会事務局長の古屋龍太です。
諸々の仕事に追われ、5か月間もブログ記事更新がストップしていました。
今回、精神医療政策をめぐって、霞が関の動きが加速していますので、コメントしておきます。
ご存じの方が多いと思いますが、厚生労働省では昨年10月より、以下の検討会が開かれています。
(以下をクリックすると、厚労省のホームページに飛びます)
検討会⇒地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
去る3月16日(水)には、第7回会合が開かれました。
精神科入院時の身体拘束やアドボケイト(意思決定支援)、退院後支援とともに、「医療保護入院の廃止・縮小」が議論されました。
約4時間にわたって、各関係団体を代表する構成員による熱い議論が交わされました。
以下で、その録画内容が限定公開されていますので、誰でも視聴することが可能です。
【第7回 地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会】
ユーチューブ⇒https://youtu.be/-HOlBQJTDQc
資料1で、検討会の今後の日程が示されいます。
かなり結論を急いで、急ピッチで検討会が進むことが示されています。
資料1⇒Microsoft PowerPoint - (資料1)本検討会の今後のスケジュールについて (mhlw.go.jp)
結論が急がれる背景には、障害者権利条約に係る国連の対日審査が6月22日に迫っていることがあります。
日本政府の報告書では、「基本的な人権は憲法の下で保障されている」と述べていましたが。
障害者権利条約に係るDPI日本会議等のパラレルレポートは、国連に日本の精神障害者の置かれた状況を伝え、相当に説得力がありました。
国連からすれば、世界に例のない「精神科病院大国」である日本政府の政策には、懐疑的・批判的にならざるを得なかったのでしょう。
今回の審査で、国連からは「医療保護入院の廃止・縮小に向けた具体策とスケジュールの提示」が求められています。
ご存じのように、医療保護入院者は、日本の精神科入院患者の半数を占めています。
しかし、精神保健指定医1名の診察と「家族等」の同意だけで、患者を強制入院できる制度は、日本にしかありません。
医療保護入院の廃止・縮小に向けた論点整理の資料は、以下の資料2をご覧ください。
(お忙しい方は、この資料の10~16ページだけでも、ご覧ください)
資料2⇒000913259.pdf (mhlw.go.jp)
なお、全国「精神病」者集団の桐原尚之さんからも、今回の会議に合わせて「医療保護入院の論点整理」と題する資料が提出されています。
参考資料1⇒000913260.pdf (mhlw.go.jp)
上の資料2の12ページ「基本的考え方」で出てくる文言が、先日の精神国賠裁判(第6回口頭弁論)で被告国側が出した反論書とダブり、個人的には可笑しくなりました。
厚労省は「基本的には将来的な廃止も視野に」と記していますが、国連の対日審査では「撤廃」を前提とした実効的な方策が求められています。
そのための方策の方向性で掲げられている内容(12ページの視点①②③)は、目的と方法にギャップがあり、論点がズレている感じがします。
視点①:入院医療を必要最小限にするための予防的取組の充実
視点②:医療保護入院から任意入院への移行、退院促進に向けた制度・支援の充実
視点③:より一層の権利擁護策の充実
この視点では、医療保護入院の「縮小」は図られても「撤廃」には至りません。
厚労省が、背水の陣で落としどころを探った、苦肉の策なのでしょう。
担当官僚の皆さんのご苦労がうかがわれ、気の毒にすら思われます。
しかし、厚労省の方々には「この方策で、国連の対日審査に堪え得る回答となっていますか?」と尋ねたいところです。
厚労省はこれまで「大人の事情」により、常に業界団体の日本精神科病院協会に忖度しながら政策を進めてきました。
その結果、日本は世界の精神病床の18%のシェアを占める(WHOのレポート)世界一の「精神科病院大国」になりました。
そして、何十万人という長期社会的入院患者と死亡転帰患者を生み、「収容所列島」として人権後進国ニッポンの象徴となってきました。
その厚労省も、国際的に拘束力のある「条約」には抗しきれないようで、対日審査に堪え得る準備を迫られているのでしょう。
国内の当事者の発言には耳を傾けないのに、外圧には相変わらず弱いんだなと思います。
世界の常識に沿って、日本の「非常識」を変える好機ともなる、この検討会の指し示す方針は、とても重要なものになります。
個人的には、医療保護入院を廃止するためにも、ベッドがある限りは患者も減らないと考えています。
この機会に、実効性のある病床削減戦略をセットする必要があると考えています。
日精協は認めないでしょうし、厚労省もそこには手を突っ込みたくないのが本音でしょう。
しかし、きっと精神医療ユーザーである当事者たちは大いに支持してくれるはずです。
そして、ようやく「脱施設化」に取り組み始める日本国を、国連も評価してくれるはずです。
この障害者権利条約の対日審査をめぐる動向が、精神医療国賠の裁判にも、追い風となることを祈っているところです。
参考
・障害者権利条約に係るパラレルレポートに関する記事は、ネット検索をすると結構ヒットします。
⇒日弁連・DPI日本会議・日本障害フォーラム・全国精神病者集団等
・パラレルレポートについての、分かりやすい解説は以下の文献をご覧ください。
⇒佐藤久夫(2020)障害者権利条約パラレルレポート.精神医療(第4次)第99号;99-106
・医療保護入院の問題点等については、以下の書籍が結構まとまっていると自負しています。
⇒古屋龍太・太田順一郎編(2020)特集:医療保護入院―制度の廃止に向けて.精神医療(第4次)第97号;3-93
・アドボケイトについては、以下の書籍が分かりやすくまとまっています。
⇒太田順一郎・大塚淳子編(2021)特集:精神科医療における権利擁護(アドボケイト).精神医療(第5次)第2号;3-74
※今回の記事は、精神国賠研究会会員メーリングリストに3月19日に配信した内容と、一部重複することをお断りします。