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平成元年の秋。早川葵は、やっと研修医が終わり、父親が持つ赤坂の「早川メンタルクリニック」で常勤医師として働き始めていた。
父、哲也は医師として病院経営者として一代で小さな医院を早川総合病院にまで育てた。そして系列の精神科、内科、整形外科、皮膚科などの数多くのクリニックを持っていた。
その日は、日曜日で大学の同期と夕方から飲み会だった。パシリ地獄の研修医をやっと卒業して、みんな浮かれていた。
今、10時くらいか。ふと、隣を見ると女友達の佐々木瑠美が、酔っ払っている。
瑠美は、およそ女っぽくない。口の利き方も態度も。でも、学生時代から一番仲のいい友達だった。彼女は内科医として大学病院で働いている。
こいつを女として見たことはなかったな。。。と葵は思った。
その瑠美が「一次会の後、2人で呑まない?」と言ったのにも、今いるバーで「付き合おうよ」と言ったのにも正直驚いた。
酔っ払って半分眠っている瑠美を見て葵は、もう4年以上女と寝てないと気がついた。最後は、あかりに捨てられた日だ。未練があるんだろうな。。。断ち切らなくちゃな。このまま、瑠美と。。。と考えていた時、バーカウンターに居た葵たちの瑠美の反対側に1人の女が黙って座った。
長い黒髪、露出度の高い服装、濃いめの化粧。ムスクの香りがした。
彼女は、いきなり葵の方を見ると「オススメのカクテルありますか?」と聞いて来た。その顔は、一言で言うと美人だった。胸の谷間に目が行った。
「ムスクだね」と葵が言ったら「好きな匂いの香水なんだ。隣のお姉さん、彼女?」と彼女が訊ねるので葵は反射的に「友達」と答えた。
「じゃあさ、アタシと今晩付き合ってよ」彼女は葵の目を覗き込んだ。ますます胸の谷間に目が行き、ムスクの香りが強くなる。
その後、瑠美に「お前、酔っ払いすぎ。タクシー呼ぶから帰れ。」と言って、タクシー呼んで瑠美を放り込んだ。
その後は、知らない女の子と店を出て腕を組んでラブホに直行した。
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彼女は二十代前半。なのに、男に慣れていた。ヤバいかもと葵は少し思ったが肌を合わせた瞬間に別のことに驚いた。
別人なのに、抱いた感じも彼女の反応も、声もあかりと同じだった。目を瞑れば、あかりとセックスしていると勘違いするくらいに。
葵は「あかり、あかり」と名を呼びながら、何度も彼女を抱いて離さなかった。明け方近くなって彼女に葵は「また、逢える?」と訊いた。
「逢えるよ。あなたが私を待っててくれるなら。待っていてね。」
「名前はなんていうの?」
「あかりよ」
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彼女が右手を上げて葵の額を軽く突いた。
その瞬間に彼は眠りに落ちた。
彼が目覚めた時には、彼女は居なかった。
あかりは、夜明けの道を歩いていた。
取り敢えずキッカケは潰した。それでも安心はできない。瑠美と葵の接点は、まだある。
私と葵の再会は3年後。
私がボロボロになって早川メンタルクリニックに葵に会いにいく。
色んなことに介入すると危険だ。でも、瑠美との付き合いは潰す。
どうして、こんな過去の下界に来てしまったのか。葵は、完全に人間になっていた時代。葵が65才の時、私が召し上げた。
私達が一番辛く切ない想いをしたこの時代。
理由を聞ける可能性のある人物は一人。
あそこへ行く。
2に続く。。。