「お前が自由になれたことを祝福する。
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我も奴隷の王族なのは同じなのだ。
羨ましいことだ。
お前の行く道に幸多かれと祈っている。
亜遊」
王である兄の正妃、亜遊からの手紙。。。母以外に自分のことを考えてくれる方がいたのだと思うとワタリは有難くて涙が出た。
ワタリが亜遊を見たのは2度だけだった。最初は「兄と亜遊の結婚式」。2度目は「赤国から使者が来た時」。。。この2度だけ。
1度目は花嫁が自分と同じ歳の7歳と聞いてビックリした。子供だった兄嫁は顔を真っ赤にしてふくれっ面をしていた。
2度目で最後は王である兄の隣で大人になった亜遊を見た。一言も話さず無表情で人形みたいだった。。。
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ワタリは、その日生国から持ってきた荷物を全部捨てた。
「赤国の王の補佐官ワタリ」としてあり続けることに決めた。
王の寒いジョークに反射的に笑うことができるようになった頃、15年のお役目下がりをしていたロウが戻ってきた。王とロウは大きな声で話していた。聞こえていても自分の仕事をするのが私達の役目だとワタリも他の2人も思っていたので無視していた。その後、2人は部屋から出ていった。
その翌日から、セキの様子がおかしくなった。
王様らしい格好をして、ロウと同じような西洋の服を着ている。そして、椅子にきちんと座っている。いつもなら、くだらないことを言ってくるのに殆ど黙っている。
次の日も。そのまた次の日も。。。4日目、今度は、顔を手で覆って「うふふ。。」と時々笑う。足をドタバタしたり顔を赤くして。。。ワタリ達は気持ちが悪くて仕方なかった。
そこに怒り狂ったロウが執務室に入ってきた。「セキ様!話が違うじゃないですか!私の娘はお客様として王宮に住まわせるとおっしゃったはずでは?!」
「だって仕方ない。。。両想いになっちゃったら、そうなっちゃうでしょ?ロウもそうだったでしょ?」とセキが子供の言い訳のように目線を逸らして言ったものだからロウの怒りに油を注いでしまった。
「西の神界では、結婚式を挙げるまでベッドをともにしたりは致しません!娘も娘だ。なんでこんなジジイと!娘をここに呼んでください!」
「ロウの愛娘を横取りしたことは悪いと思ってる。でも、エリは私の運命の1人なのだ。今まで女に心を動かされることがなかったのは、エリが生まれてくるのを待っていたのだと思っている。」セキは神妙な態度に変わった。
そこにロウの娘、エリが部屋に入ってきた。まだ少女だった。金色が混じってる少し変わった赤毛だった。
ロウは娘に尋ねた。「エリは、まだ14歳。こんなジジイのお嫁さんでいいの?」
エリは、父親の方を見て答えた。「王様の中身はお子様ですから私と釣り合います。」
「そうだよね。見た目は大して離れてないから。」とセキも言った。
ロウも渋々「仕方ない」と諦めた。玉の輿であるのには変わりなかったからである。
エリが18歳の時に正式な式をあげた。それまで、王妃としてふさわしい女性になるため勉強したいと言ったのはエリだった。
ワタリ達3人は「自分の運命のお相手」を探していた。その女性は、ずっと先にいるのかもしれないとセキを見て思った。
その頃、亜遊は生国で政変があったことを知った。
亜遊の兄が父である王を玉座から引き摺り下ろして自分が王になった。
父は酷い浪費家で見栄っ張りだった。そして、兄はケチンボだったが亜遊を可愛がってくれた。
亜遊は「お人形」のように只黙って座っている毎日が嫌で嫌でたまらなかった。そこで兄に「帰りたい」と手紙を書いた。子供の頃から亜遊の世話をしてくれている自分のたった1人の女官に手紙を生国に届けてもらうように送り出した。
兄王からの返事を届けにきたのは見知らぬ女官だった。そして、その者は兄からの手紙を亜遊に渡すと国に帰ってしまった。
亜遊は、1人ぼっちになってしまったのだ。
兄からの手紙には「亜遊は其処のものになって何年経つ?私は私の国を立て直す。自分のなすべきことは何か考えよ」とだけ書いてあった。
「なすべき何か」そんなもの亜遊には分からなかった。
女官が1人もいなくなったので夫は、綺麗な着物を亜遊に着せるだけが役目の女を毎朝亜遊の部屋に寄越した。
綺麗な着物を着て「王妃のふりをした人形」「座っているのがお仕事」。
相変わらず、王は仕事もせず大笑いして酔っ払って美女達をそばに置いていた。
4に続く。。。