戻ってきた馬車には、高天原の約40組の母子が乗っていた。
ワタリは面食らってしまった。セキは独断で決めていたからである。
馬車から4人の大人が出てきた。赤い髪の男が1人、髪色が違う女が3人。
ワタリに赤い髪の男が言った。「セキ様のお勧めで赤子を持つ女達を赤界で疎開させていただくことになリました。有り難く思います。私は高天原のアマテラスの甥に当たる者で名をアズサと申します。後ろにいるのが私の母、母子の手助けをする女官を2人連れて参りました。」
ワタリは面食らってしまった。セキは独断で決めていたからである。
ワタリは「アズサ皇子は、王宮が見えますか?」とアズサに尋ねた。
するとアズサは「はい。私は見えます。赤族の血を引いているので。。。でも、恐らく私だけです。母は召し上げ者の高天原の者。2人の女官もそうです。私はセキ様の曾孫なのです。それで父から『疎開するもの達の面倒を見るように。』と言われて此処に参りました。今の高天原では赤子を持つ女は安心して暮らすことなどできません。」
そこにセキが来て「アズサ、初めてじゃの。我が大ジィジじゃ。でも、セキ様って呼んでね。」とニコニコ挨拶をした。そして「ワタリ、このもの達が住む建物を至急造れ。」とまた無茶なことを言い出した。
でもワタリもロウと同じようにセキの無茶振りには、既に慣れていた。
「中央ガーデンの半分を頂いてよろしいでしょうか?」と答えた。「赤族の宮仕の通行の妨げにならないように造ります。残り半分は子供の公園にします。いかがでしょうか?」
セキは「良きにはからえじゃ。」
ワタリは部下達を集合させた。20名の部下達は赤色珠を腕にしていた。ワタリも赤色珠を腕に通すと「私が大枠を造るので、みんなは部屋を造れ。壁は厚くしてくれ!」
ワタリはアズサの方を向くと「この区画だけは赤族以外の者でも見えるようにします。」と言い、腕を上に上げた。
何もない所から巨大な集合住宅の枠組みが出現した。
パブリックスペースは1階に。室内の遊び場、食堂。女官達とアズサと母ミホの部屋は1階。これは、母子が困った時にアズサ達の場所がわかるように敢えて1階にした。「高天原の第一皇子とその御子息は人間の医術を習得していることは知っています。」とワタリはアズサに言った。
ワタリの部下達は部屋の補強を始めた。そこで、ワタリは「全部違うインテリアの部屋にしよう。みんな二つずつ造ってごらん。」と部下達に任せた。「赤ちゃんとお母さんの部屋。そこは踏み外さないで。安全、安心ね。後で私が見るからね。」と仕事を任せるとアズサに「アズサ様と母君は、ご一緒でいいですか?」「御二方いらっしゃる女官は?」と要望を聞いた。アズサと母で一部屋、女官は1人一部屋。
みるみるうちに一棟の集合住宅が出来上がった。
アズサもミホも女官達も、馬車の中から見ていた母子達もポカンと見ていた。
全体は淡い暖かい色で外観は逆に幾何学的な雰囲気の建物が半日でできた。最後に全部の部屋をワタリがチェックして多少の手を加えた。
ワタリは部下に「赤ちゃんとお母さんの公園は、みんなで相談して造ってみて。」と仕事を任せた。その間に全部の部屋のデザインが違うので、母親達にくじ引きをしてもらって部屋割りをした。アズサに「部屋がえの要望が出たら、相談に乗ってあげてください。」と頼んだ。
ワタリは「国が違うと服装も違うのだな。。。」と思った。袴姿。肩までの黒髪の女官は緋袴で、ずっと俯いている。驚きすぎてキョロキョロしている女官は紫袴。
1回執務室に戻ったセキが、またやってきて建物を見上げると「ほらね。やればできるじゃない」と宣った。
ワタリは「セキ様にお借りした赤色珠のおかげです。高天原から献上された玉でしょう?知ってますよ。後で全部お返しします。」
「アマテラスの親父が山ほどくれた宝玉が役に立ったわ。」とセキはニヤリとした。
母子達が部屋に入るとワタリはアズサ達を部屋に案内し、アズサだけ外に連れていって赤界で暮らす注意点を幾つか授けた。
この場所は庭でありながら宮仕が行き交う場所なので結界が張れない。
この区画から出るとアズサ以外の者は何も見えなくなる。
女官達や母上は、あまり外に出ないように。
最後にワタリは「赤男は美女が大好き。好かれると厄介なことになります。」と付け加えた。
改めて自己紹介もした。
「私は王の部下。名前はワタリ。毎日空いた時間に必ずこの『母子の家』の様子を見にきますので、ご要望がありますればお申し付けください。」と礼をした。
ワタリが部下達と引き上げようとした時、後ろから声をかけられた。
「弥川の皇の尊」
12に続く。。。