どシリアスなマヌケの日常

毎日毎日、ストーリー漫画を描き、残りは妄想.,いや構想の日々の日記。

「亜遊の手紙」8

2023-03-25 09:35:00 | 日記
朝の出勤前にワタリは自分の部屋に置いた製図台の前で「幸せです。」と呟く。

60余あった神界の国々が半分になったあの日から、移民を受け入れた国は混乱を極めた。ワタリ達も長い間、その後始末に追われた。もちろんロウは、他国に行きっぱなしで元3皇子も他国に派遣された。ワタリは出張まですることになるとは。。。と自分の運命が赤国にきた日から大きく変わったのをしみじみ感じた。

最も多くの移民を受け入れた「高天原」は相変わらずセキに何も言ってこなかった。
事前にセキは移民を受け入れるよう文書を送っていたが、返事がなかったのは「了承」だと解釈した。

その頃、高天原の総女官長、穂月は突然現れた「大人数の他国の者達」に慌てていた。それがキッカケとなり、女王アマテラスがセキからの書簡を未開封のまま隠していたことを知った。一部屋が未開封の赤い手紙で一杯になっていた。
穂月は、アマテラスの父イザナギに「姫が赤王に大変な御無礼をなさってしまった。」と手紙で知らせた。

イザナギは人間が住む下界の国土を造った神「国産みの神」だ。彼は心に大きな傷を負い事実上の引退をしていた。だが、娘がした無礼極まりない行いを放っておくこともできず、献上物を携え赤国に出向きセキに詫びて「娘の秘密」を明かした。

そして、廃国の後始末が終わると神界全体に新しい常識が生まれた。「王の器を持つ者が王になる」ということだ。生まれた順番も性別も生母も関係なく一番優秀な働き者が王になるようになった。

それから、長い長い平穏な時が始まり流れていった。

赤国は「赤界」と呼ばれるようになった。他国の者からは「赤い気の渦」にしか見えず、王は「赤い鬼」だと恐れられた。
赤い鬼は毎日「王妃とのブランチ」が楽しみで、寒いギャグを飛ばすのが大好きなジジイ。王の補佐官とロウだけがセキの本性を知っていた。

「ハネムーンに行く」とセキとエリが言い出した。
「ハネムーン?今更?結婚してどんだけ時間が経ったと思ってるんですか?それに、他国には行かないって言ってたじゃないですか?赤界の王は神秘的なイメージで姿は晒さないとか仰っていたではありませんか?」と元3皇子が言うとセキは「下界に行くの。下界は世界が違うからいいんだよ。50年くらい行ってくるね。その間はロウが王様。」と言い返し、さっさとエリと居なくなってしまった。

ロウが王の代理を務めた50年は、寒いギャグもなく執務室は更に硬い職場になってしまった。

50年は「在る者」にとって長い時間ではない。セキとエリは直ぐ帰ってきた。

日常が帰ってきた。朝、10時半になるとエリが女官に付き添われて執務室に入ってくる。執務室の裏手にプライベートガーデンがあった。セキとエリのブランチの時間が始まる。「王妃の女官」は2年ごとに替わる。その女官の顔を見るのが3皇子の細やかな楽しみだった。

ところが、王妃が突然に女官長職を設け、同じ女官が毎日付き添うようになってしまった。
女官長が、また地味な容姿で愛想ない赤女で会釈もしない。名前はリラ。西の神界の者と聞いていたから期待していた3皇子はガッカリな毎日になってしまった。

それとは別に黙って執務室に乱入してくる赤男が現れた。信じられない長い髪で色が王妃とそっくりだった。
その男はセキの前でいつも泣いている。小さな声で話すので内容は分からない。ずっと泣いているのでセキが手を引いて他の部屋に連れて行く。

「あのぅ、あの長い髪の赤男は、どなたですか?官服も着用しておりませんし髪も縛らず、黙って執務室に入ってくるなど理解できません。」とワタリが言うとセキは、うんざりした顔をして言った。
「我とエリの一人息子!」
「え〜っ!」3皇子は驚いて大声を出してしまった。
「ハネムーンは、あの子を人間として産むための仕事?だった。高天原の親父が赤男が欲しいって言うから。。。我らも子供に興味があったからね。途中で育児放棄もいいところで、あんな泣き虫になっちゃった。女房が消えたって言って泣いてるのよ。」

「赤男の愛の定員は1人」
この重さに3皇子は初めて気がついた。