メンバーは5人で、高知県内に住む58~80歳までの男性5人で構成されているらしいです。
今の時代を象徴しているとも言えるが、なぜこのような新グループが結成されたのだろう? プロデューサーである澤田智洋さんに話を伺ってみました。
「以前より高知県の仕事をお手伝いしており、『高知がいくつか抱えている課題を解決したい』という発注を受けていました。実は高知県の高齢化率は全国で2位になっており、この課題に対応する流れで『爺-POP from 高知家 ALL STARS』を結成したんです」(澤田さん)
日本全体に高齢化の波が押し寄せている、この昨今。お年寄りが増えることで医療費が増えたり、「老害」なる言葉が生まれたり、高齢化に良くないイメージが付いているのは事実です。
「そんな風潮の中、『高齢化も逆に良くない?』と誰かが言ってもいいんじゃないかと考えました。お年寄りに対してポジティブなイメージを持ってもらうためのアイドルグループです」(澤田さん)
ここ数年、日本にポジティブな力を与えているのは「アイドル」という音楽文化。
この要素と「お年寄り」を融合させた……というのが同グループ結成までの流れだそう。
「ハズすかもしれないという不安もありますが、あえて『アイドル』という大きな市場で勝負したいと決意しました」(澤田さん)
次第に"アイドルの顔"になっていく5人のおじいちゃん
2月26日、高知県庁にてデビュー曲「高齢バンザイ!」の発表イベントを開催した彼らですが、なんと早くも3月29日に「UNIVERSAL MUSIC」からのメジャーデビューに漕ぎ着けています。およそ一カ月でメジャー化だなんて!
この楽曲をリリースしたことにより彼らの人気は高まり、メンバーを取り巻く状況も激変しているとのこと。
「基本的に皆さん漁師などの本業を持っているのですが、わざわざファンが会いに来てサインを求められる事態が起こっているそうです。当然、サインなんてしたことのない人ばかりだったのですが、今ではすっかり慣れたみたいです。あと、リーダーの谷岡憲泰さん(67歳)は、7年音信不通だった知り合いから連絡が来たそうです」(澤田さん)
ところでメンバー5人は、どのように招集されたのだろう?
「以前より高知では"高知県民はみんなスターである"というコンセプトに則り、自己申告制で登録する『高知家 ALL STARS』という試みを実施していました。その中から、スター性のあるおじいちゃんを県庁が厳選しています」(澤田さん)
例えば、メンバーである山田英忠さん(80歳)はマラソンランナーとして有名で、なんと2週連続でフルマラソンに参加することもあるらしい。
スター性のあるおじいちゃんだ!
というわけで年末年始にかけて現在のメンバー5人が選抜され、事は動き始めました。
「各メンバーにグループについてご説明させていただきまして、ご了承いただき、コスチューム採寸のために集まっていただいたのですが、まだ事情を理解しきれていなかったようです。みんな、一様に『何事ですか?』という反応で。その数日後にPV撮影の日を迎えたのですが、まだ完全に状況は把握できていないようでした」(澤田さん)
「でも撮影会場のライブハウスにはたくさんのお客さんが集まり、大歓声が巻き起こっている。後には引けない状況で、みなさん頑張ってくれました」(澤田さん)
撮影後は、不思議と全員が"アイドルの顔"になっていたというから驚き。
「谷岡さんは足を痛めていて、我々もお休みいただくよう制止したのですが『いや、アイドルだから』と撮影参加を強行したんです。スターの顔になってました」(澤田さん)
「ジョージ・クルーニーっぽい!」とおじいちゃんに惚れ込む若き女性が出現!
そんな「『爺-POP from 高知家 ALL STARS』のファン層は、なんと10~20代の女性だそう。
「若い女性の中には、本当に"枯れ専"が多いんだと実感しました。『私の"推し爺"は◯◯さん!』って騒いでくれているんです」(澤田さん)
現時点における一番人気は、ランナーの山田さん。イタリア人寄りのジゴロっぽさがウケているようです。
「鼻筋が通ってますし、中には『ジョージ・クルーニーっぽい』という声まで上がっています」(澤田さん)
現在、同グループのホームページでは"踊ってみた動画"も募集されています。
すでにいくつかの作品が寄せられているようですが、注目は運営が用意したサンプル動画。西原理恵子さんや三代目パークマンサーなど、錚々たる面子による"踊ってみた動画"がアップされていました。
●「西原理恵子が踊ってみた」
●三代目パークマンサー、蛭子能収、ぱいぱいでか美らが出演するバージョン
「西原さんは高知県出身ですし、『ダーリンは70歳』という作品も発表されました。"枯れ専"という意味でもご協力していただきたいので、お声がけさせていただきました」(澤田さん)
世界的音楽シーンの"王道"に挑みたい
そんな同グループの、今後の展開は?
「今検討しているのは"健康"を切り口とした産品紹介です。高齢化率2位ということは、高知は"健康的な県"と言い換えることもできます」(澤田さん)
また高知は南国なのでポジティブな性格の人が多く、ラテンなノリなのだそう。それに加えて"発泡酒消費量日本一"であり、"お店で飲む飲酒代も全国一"という実績もある。家では安めにたくさん飲み、外ではとにかく楽しむという県民性なのです。
「"よく食べ、よく飲み、よく笑う"という方向性のグッズ展開を予定しています」(澤田さん)
それだけではない。
「メンバー全員が、ものすごく"紅白に出たい願望"が強いんですね。年齢的に早い方がいいと思うんですが、ひとまずは地道なダンスレッスンに取り組んでもらい、いずれライブを開催できればと考えています」(澤田さん)
いやはや、夢いっぱいじゃないですか。
「すでにいくつかの海外メディアにも取り上げていただきました。是非、海外展開したいですね。世界60カ国に発信できるUNIVERSAL MUSICと契約したのも、それが理由なんです」(澤田さん)
誤解してほしくないのは、同グループが目指すのはあくまで"王道"だということ。
「日本のミュージシャンは海外の音楽にやられっぱなしで、通用しているのはニッチな個性がある人ばかりです。高齢者ミュージシャンの市場は海外ではメジャーですが、"おじいちゃんEDM"は世界に未だなく、新しい王道を突いていきたいと考えています」(澤田さん)
改めて楽曲を聴くと、たしかに曲調はニッチじゃありません。
「わかりやすいEDMですが日本の古き良き歌謡曲テイストもあり、海外のEDMをそのまま拝借した曲調にならないよう気を付けました。サビにループするリフが鍵盤で乗ることが普通ですが、我々はそこに日本的なメロディを乗せています。音楽的にはマジメです」(澤田さん)
もちろん、映像もマジメ。PV撮影時、撮影スタッフには「皆さんが撮るのは、ワン・ダイレクションでありバックストリート・ボーイズです」とスイッチを換えるよう、澤田さんは促しました。
「『何言ってるんだ?』と思われたかもしれませんが、最終的にはスタッフにはそういうつもりで撮ってもらっています」(澤田さん)
こんな緻密な戦略を聞かされたら、期待は高まる一方。「日本発世界」どころか「高知発世界」として、5人のおじいちゃんが世界に羽ばたくか!?
(寺西ジャジューカ)