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林家小染 腕食い

2015年08月11日 | 落語・民話

 

腕  食  い

【主な登場人物】

 若旦那  別家の徳兵衛  養子先の嫁さんほか

 

 え~、林家小染でございまして、しばらくのあいだお付き合いの程お願い
申しあげます。

 ま~、夏の風物詩、段々この数が少けのぉなっていって物悲しぃ気がいた
しますが、まっ、我々の子どもの時分ですと、夏といぃますとお母ぁはんに
行水さしてもろぉて、ほいでまぁこの晩になったら「表で遊んでこんかいな」
ちゅうて、表へ放(ほ)り出されます。

 そぉしますと近所の小父さん、床机を引っ張り出してね、団扇片手にフン
ドシ一丁で恐ぁ~い話を聞かしてくれはったん、覚えてますけれども。まぁ、
そぉいぅ雰囲気のおうわさを一席おしゃべり申しあげまして、お暇を頂戴い
たしますが。


 この大阪の中船場で、相当商売をしておいでなさるお店の次男坊、まぁ、
この方がありとあらゆる極道の挙句に、店の売掛金をば自分勝手に集金して
きてドロン決め込みよる。

 もちろん、家のほぉは勘当でございまして、銭のあるあいだはあっちこっ
ちと遊び暮らしとるわけなんですが、とぉとぉ無一物(むいちぶつ)の乞食に
まで成り下がってしまいます。

 けどまぁ、この人間ちゅなもんはおかしなもんで、たとえ自分が乞食の身
の上でありましても、生まれ故郷といぅのは懐かしぃもん。そこでこの、三
年ぶりに大阪の土を踏みましたんやが、もとより親の住んでる家に帰るわけ
にいけしません。

 そこでまぁ、長年自分の店で奉公をいたしておりまして、現在は別家いた
しております徳兵衛の店先に立ちよったんですが、もぉ身にはおんぼろさん
ぼろ、ワカメの行列みたいな着物に縄の帯、醤油で煮しめたよぉな手拭いで
頬かむり。

●お手元はご面倒さまにござります
■ま、お断りやの
●徳兵衛
■しばいたろかこの乞食アンダラ。うちゃおのれみたいな乞食知り合いないんじゃ、そっち行かんかい
●徳兵衛、わたいや
■え? あッ、あんた本家の若旦さんやおまへんかいな。何ちゅうかっこしてなはんねんそれ……

■お咲、本家の若旦さんやがな
▲んまぁ、若旦さんやおまへんかいな、そのお姿は……
■泣いてる場合やないわい、人たかったらみっともない、表閉めてこい……、若旦さんこっち入っといなはれ、そこへ座わんなはれ、どないしなはってん?

●ヘへヘッ、徳兵衛、面目次第もない話やないか。いや実は、わし三日前に大阪へ帰って来たんやけれど、まぁお前とこの敷居も高いさかいに、このわしにはとてもやないけど跨(また)げられん思てたんやが……、今跨いだら別に蹴躓(けつまず)かなんだわ。

■んなアホなこと言ぃなはんな若旦さん、そんな気楽なもの言ぃしてる場合やおまへんで。まぁ難儀してなはると思てましたけど、まさかそんな乞食にまでなってなはると思てぇしまへんがな。

■まぁしかし、それにしてもお体に別状なかって何よりだす。よぉわたしとこ顔見せてくれはりました、いやおおきに、喜んどりますねや。しかしまぁ、それにいたしましても、いつまでもそんなかっこしていただきますと困りますんで、着替えていただきまひょ……

■お咲、若旦さんにお着替えしていただくでな、着物こっち持っといなはれ。あ、フンドシを忘れたらいけまへんで……、おおきにご苦労ぉさん。へ、若旦さん、この着物えらい洗いざらしで悪おますねんけど、しばらくのあいだ手ぇ通しといとくなはれ。まぁ若旦さんには少しは地味かも分からしまへんが、少しのあいだどぉぞ手ぇ通しといとくなはれ。

●おおきに徳兵衛、結構な着物やなぁ。わたいなぁ、こんな結構な着物、長いこと着せてもろたことあらへんねやがな……、おありがとぉさんで
■んなおかしな節付けなはんなや、もぉかなんなぁ。

■で、若旦那の着てはった着物そっちやっとき
●いやかまへん徳兵衛、やらんかて、着物勝手に歩いて行きよるがな
■アホなこと言ぃなはんな、そんなもん、着物が勝手に歩いたりしまっかいな
●いや、虱(しらみ)が持って行くわ
■やらしぃ人やなぁこの人わ、風呂入ったことおまへんのか?

●いや、風呂みたいなもん入ってないねや、いつも川で行水しとぉる
■もぉ、カラスみたいなことしてなはんねやな。それやったら、お風呂へでも行ってこざっぱりしていただきまひょ。お咲、お咲、若旦さんにな、お風呂行っていただくで、洗面道具に剃刀、これへ持っといなはれ。

 しばらくいたしますと右の若旦那、

●徳兵衛、おおきありがとぉ、えぇお風呂やった。川より風呂のほぉが気持ちえぇなぁ……、ぎょ~さん垢出やがってな、漆喰場(しっくいば)垢だらけや。風呂に入る前に量った目方と、上がってから量ったら半分もあらへんねや。

■も~、半分以上垢でんねやそれやったら……、若旦さん、これでも食べて、どぉぞ体のほぉに精(せぇ)つけとくなはれ
●おおきに徳兵衛、結構なご馳走やなぁ、わたいなぁ、こんなご馳走見ただけでヨダレが出てくるわ……、おありがとぉさんで。

 「いちいちそんなこと言ぃなはんなや」と、徳兵衛はあきれております。
その晩は二階へ床をとってさっそくに休まします。そして、五日、十日、半月と遊ばしてございましたんやが、

■若旦那、若旦那、ちょっとすんまへん、ちょっとそれへ座ったっとぉくなはれ。今日は徳兵衛、改めまして若旦さんにお話がございます
●分かってる徳兵衛。すまなんだなぁ、お前に甘えてズルズルッと二十日ちこぉも居つい
てしもてからに。頼むわ徳兵衛、今晩だけ寝さして。わて、明日の朝早よぉに立つさかいに。

■アホなこと言ぃなはんなや若旦さん、そんな水臭い話すんのに座ってもろたん違いますがな、そんな話やおまへんねや。わたいとこでおましたら若旦さん、何年いててもぉたってこっから先の愚痴も申せしまへん。

■そんな話やおまへんねや。徳兵衛、失礼(しつれぇ)やとは思いながら、このたびの若旦さん、陰ながらじっと観察さしていただいとりましたんでやす、確かにご改心あそばされたよぉに思われますなぁ。

■でまぁ、ここで若旦さんがご本家へ頭下げて帰って帰れんことおまへんねけど、ここでやすがな。そぉ、先日お話申しあげました、今このご本家のほぉはお兄さんが跡を取っておいでになりますんで、まぁ若旦さんが恥ずかしぃ目ぇしてお家(うち)へお帰りになられても、どこぞへご養子においでにならなければならん、これがものの筋でおまっしゃろ。

■それやったら若旦さん、どんなもんでやっしゃろなぁ、いっそのこと、この徳兵衛のところからご養子においでになりましたら?
●うん、そらわたいはかめへんけど。徳兵衛、どっかあるんか?
■一軒だけございます。

■お家は上町でおましてね、失礼(ひつれぇ)ながら財産のこと話さしていただきますと、ご本家よりまだ上でおまっしゃろ。でまぁ、うるさい小姑がおるわけでなし、娘はんとお母はんの二人暮し。娘さん今年十八で、今小町と言われるぐらいの別嬪(べっぴん)さんでおますが、どぉです若旦さん、おいでになる気おまへんか?

●行く、俺、今晩から行くわ
■アホなこと言ぃなはんな若旦さん。なんぼ急な話いぅたところで今晩は無理でおますけれども、しかしまぁ、若旦さんにそのお気持ちがございますねんやったら、徳兵衛、少しだけお断りがございます。

●何やな? かめへん言ぅて
■へぇ、と申されましても、これはちょっと言ぃにくおますねんけども……、実を申しますと、この娘さん、ご養子が初めてやございません
●かなんなぁ、徳兵衛。二人目かいな?

■フッフッフッ……
●三人目か?
■え~、徳兵衛の知ってますだけで十五、六人●ちょっと待ちぃな徳兵衛、勘定合わんやないかい。せやないかい、娘の歳いくつやな? 十八やろ。そんな若い娘が男が十六人から替わってるて、算盤が合わんがな。

■いや、それだすねん若旦さん。そのご養子ちぃますのがこれ、三日と言ぃとまんねけど、一晩続きまへんねや
●何でやおい?
■ちょっと、傷がございま
●いや分かった、みなまで言わんでえぇ。わいこない見えても勘のえぇほぉや、その娘の傷ちゅうのはなんやろ、首がグ~ッと伸びて、行灯(あんどん)の油ねぶんねやろ。

■化けもんやがな、それやったら、そんな傷やおまへんがな。いや、その娘
はんの傷でおまっけど……
●知ってるがな、言わんといて、勘のえぇほぉやさかい、ピ~ンと走って来よるがな。娘の傷てなんやろ、寝てたらこぉ体がガ~ッと倍ほどに太る「寝太り」っちゅうやっちゃろ?

■んなおかしなことばっかり考えなはんなや、そんな傷やおまへんねやがな。いや、こらちょっと徳兵衛の口からは言ぃにくおますねんけど、実はその娘はんの傷でおまっけど……
●知ってるがな、わい勘はえぇっちゅうのに、ピンと来るがな。その娘はんの傷てなんやろ、夜中にヘソから煙出んねやろ?

■どっからそんなおかしぃこと考え付きまんねん、そんな傷やおまへんねや。まぁ若旦さん、昼間見はりますと分かりまへんねけどね、昼間見ると別に何の変わったこともない、ごく普通な平凡な上品なお嬢さんでおますねん。

■けど、これがまぁどぉいぅものの加減かは知りまへんねんけど、世間がシ~ンと寝静まりますと、このお家の裏っかわが常念寺ちゅうお寺の墓場になってまして、でまぁ、その娘さんがその常念寺の墓場へ入って行かはって、石碑と石碑のあいだから、バリバリッ、バリバリッ……、と音が聴こえるらしぃんだ。

■まぁ、その音を聴くとどのご養子もビックリして逃げて帰る、と。これだけの話だ、フッフッフッ……
●やめとくわ、そんなん。もぉバリバリ付きちゅなやめ、ほかへ回したげて、やめとこ。

■さよか……、悪い話やないと思いまんねんけどなぁ、嫌だっか……。財産はねぇ若旦さん、本家より上でおまっせ。それでも嫌……? 別段うるさい人間がおるわけでなし、お母はんと二人暮し。若旦さんがしばらく辛抱してくれなはって、あとやりたいよぉにしなはったらよろしぃねやがな……

■それでも嫌……? 娘はんはねぇ、今年十八。今小町と言われるぐらい別嬪さん。それでも嫌? 若旦さん、もぉあんたあっさり人間やめ
●アホなこと言ぅな
■当たり前やないかい、あんたは今まで何をしてきなはったんや?おのれのやりたい放題、好き放題して終いに乞食までなったお方でっせ。あんた、世の中の裏表、酸いも甘いも噛み分けたお方がでっせ、たかが女のバリバリが恐いぐらいなことであんた……

●ちょっと待たんかい徳兵衛、誰が「恐い」ちゅうたんや?
■今、あんた言ぃなはったやないか
●アホなこと言ぃないな、わい「恐い」ちゅなこと言わへんがな、気持ちが悪いねや
■一緒やないかい。あんたが腹括ってそこへ養子に行てみなはれ、それ相当の金があんた一人の自由になりまんのでっせ。よろしぃか若旦さん、男てな度胸が肝心でっせ、度胸定めて……

●わ、分かった徳兵衛、きつぅ言わんといて、わい、よぉ分かったぁんねん。よし、ほなわたいなぁ、腹括ってそこへ養子に行くさかい、お前この話あんじょ~進めてくれるか。

 「それやったら、任しといとくなはれ」徳兵衛が先方へ行て話を進めます
「まぁ、そんな大家の若旦那で、そこまで苦労したお方なら是非ともいただきまひょ」
話がトントン拍子に進みまして、黄道吉日(こぉどぉきちじつ)を選びます。

 月日の経つのは早いもんで、結婚初夜の晩でございます。花嫁と花婿、二つ枕で三つ布団、上になったり下になったり。まぁ万事取引済んだんやどや知りまへんけど、若旦那、昼間の気疲れからかぐっすりと寝込んでしまいます。

 やがて、夜が次第しだいに更けてまいりまして、どこで撞くのか遠寺の鐘が、陰に響ぃてものすごぉ……(ゴ~ン)

 すると今まで寝ていた花嫁が、ムクムクッと起き上がって、寝てる若旦那の寝息をうかがいながら「もし、若旦那……、もし、あなた……」足音をば忍ばして縁側へ出て、雨戸をば音のせんよぉにス~ッ。

 飛び石伝いに築山に上がりますと、慣れた足取りで石灯篭を足場に、片方(かたえ)の松の木の枝を掴んだかと思うと、身軽に高塀へヒョイッ、裏が常念寺の墓場でございます。

 一番高い石碑に片足掛けて、庭へさしてヒョイッと飛び降ります。月明かりを頼りに出てまいりましたのが、これ新仏の墓の前、青竹の太ぉ~いのがこぉ四隅に植えてございます。

 それにさして寝巻きの袖をキリキリッと巻きつけグッと引き抜く。まだ土が柔らこぉございます。これでこの柔らかい土をば掘り起こして取り出したのが小さな棺桶。縄を歯でプツッと噛んで、ズルズルッと引っ張り出したのが、なんと生まれて三月ぐらいの疱瘡で死んだ醜い赤子の死体。

 これの首筋のところと足のほぉへさして、こぉ手を掛けたかと思うと、さも嬉しそぉににんまりと笑ぉて、腕の付け根のところをバリバリッ……、バリバリッ……、チュ~、チュ~、チュ~と血を吸いながら……♪

★あぁ~、わたしほど因果なものが世にあろぉか。どぉした因縁、因果やら、人間の死に血を吸いたいがわたしの病気。こんな浅ましぃ姿をご覧になれば、どんなお方でも愛想を尽かしておしまいになるは無理もない。せめて今宵は慎もぉ、慎もぉと思えども慎めぬが身の因果(バリバリッ、バリバリッ……、チュ~、チュ~、チュ~)

 一方、こちらは若旦那、

●う~ッ、ふぁ~ッ、よぉ寝た……、あれ? 嫁はんおれへん?

 「ひょっとしたら?」と縁側へ出て耳を澄ましてみよると、常念寺の墓場のほぉからバリバリッ、バリバリッ……、

●始めてるがなこれ……、こんなもん初日からある思てへんがな、気持ちの悪い音。せや、こんなもん恐いと思うさかい恐なんねや、わいかて男じゃ度胸決めてこましたるわい。こんなもん恐いことあるかい……

 「思たら段々恐なってきたがな」と思たが恐いもん見たさ、おんなし段取りで築山に上がります。石灯籠足場に片方の松の枝を掴んでグッと背伸びをいたします。このときに月が晴れて互いに見合す顔面(かおおもて)。

★あれぇ~ッ
●いや、わしや……、そこで何してなはんねん? 何をしてなはんねんッ?
★お願いでございます。ご慈悲でございます。こんな浅ましぃ姿をご覧になりまして、定めし愛想が尽きましょ~。どぉぞ不憫な者と思し召して、末一時添い遂げてくださりませ。お願いでございます。ご慈悲でございます。

●いぃやいな、そこで何をバリバリいわしとんねや? その齧(かじ)っとる正体さえ分かったらよろしぃねや。それを見してみなはれ……、何かて分かったらな、あと何ぼでも買ぉといたげるさかい。それをこっち見してみっちゅうのに。

★これでございます……
●何じゃそら? 赤子の腕(かいな)やがな。えらいもん齧んねやなぁ、あんたせやけど……。けどなぁ、赤子の腕齧るぐらい何ともないわい。わい、長いこと……


【さげ】

●親の脛齧ったわ。


【プロパティ】
 四代目林家小染=1947年6月11日~1984年1月31日。本名・山田昇。大阪
   府出身。酔って店を飛び出し、車にひかれて死亡。
 中船場=船場は本町通を境に北組と南組に分かれていたことから北船場、
   南船場との呼び名が起こった。しかし、中船場は確たる地域特定がな
   されていない。本町通近傍の町々が、船場の中心であるとの意識を込
   めて自称したのであろう。
 船場、島之内、道頓堀=東西の横堀川、北は土佐堀川、南を長堀川に囲ま
   れた地域を船場と呼ぶ。同じく長堀川と道頓堀川で囲まれた地域が島
   之内。道頓堀は道頓堀川を渡って南側の芝居町周辺。
 別家=商家の番頭が妻帯して家を持たせてもらい、通い番頭となり、なお
   続いて勤め上げると暖簾分けとて資本も与えられ、主家(おもや)と同
   じ屋号で独立営業を許された。暖簾(のぉれん)分け。
 おんぼろさんぼろ=「おんぼろ」は衣類などのボロボロのものをいう「さ
   んぼろ」は散ボロか? 髪の振り乱れたさまを「散バラ」ということ
   から。ボロボロに乱れている衣類?
 お手元はご面倒さまにござります=意訳すれば「懐にあるわずかの小銭で
   結構です、お恵みください」
 シバク=紐やむちなど細いもので打つ。また「しばいたろか」なら、なぐ
   るの意。
 アンダラ=「アホんだら」の約まったもの。タラはグウタラなどの軽蔑の
   意を込めた接尾語。アホタレのタレも同じ。馬鹿野郎の意味ではある
   が、どこまでも柔らかく間が抜けている。
 たかる=群がる。集まり寄る。
 かなん=困惑する。適わない→適わん→かなん。
 かまへん=かまわない・ゆるす。カメヘンとも。丁寧にいうとカメシメヘ
   ン・カマシマヘン。
 漆喰場(しっくいば)=台所の流し場。もとはたいてい漆喰の三和土(たたき)
   になっていたことによる。シックイは石灰の唐音。また、転じて風呂
   屋の流し場にも用いる。
 別嬪(べっぴん)=嬪は嫁。夫に連れ添う女。奥御殿で、天子のそば近くに
   仕える女官。別嬪:嬪の中でも選ばれた嬪。美人。
 あんじょう=うまい具合に。味よく→アジヨォ→アンジョ~。
 黄道吉日(こうどうきちじつ)=陰陽道(おんようどう)で、何事を行うにも
   吉とする日。
 二つ枕で三つ布団、上になったり下になったり=甚句の一節。相模地方の
   甚句に「惚れた病を治すには、六畳一間の真中に、六枚屏風を立て並
   べ、二つ枕に三つ布団、スイッと入れたるその時にゃ、貴方上から下
   がり富士、私ゃ谷間の百合の花、足は絡ませ藤の蔓、お手々しっかり
   抱き茗荷、口は水仙よ玉椿、エッサホイサの掛け声で、一汗かかねば
   治りゃせぬ」また、会津若松地方の蕎麦口上に「花むこさんや花嫁さ
   ん、二つ枕で三つ布団、腹にポテリンポテリンと、たまりの下地でゆ
   るりゆっくりと、この場を歌でも歌ってにぎやかに、おあがり下さる
   ことおん願い申し上げまする」などが見られる。
 三つ布団=敷き布団を三枚重ねたもの。江戸時代、遊郭で最上位の遊女の
   用いた夜具。
 こます=~する。物にするなどの意にいう下品な語。イテコマス:やって
   しまう。暴力で抑えつけてしまう。強姦する。
 末一時=末は「この先」一時は「少しの時間」。今一度。
 別演題:脛かじり

 

 

     

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