『デラックスな金庫』
新潮文庫、番号19、『ボッコちゃん』収録。
ページ数がまた少ない。全3ページ。
この作品は、
「趣味となると人は盲目的に金を使い、後悔しない。」
という作中の言葉が全てだ。
趣味というのは本質として、自分の心だけを満たす非生産的かつ非効率的な物なのだ。
その最もたる例の一つが、同じく星氏による『月の光』の“ペット”だろう。
無論、人によっては、生活で有用な物を作ったり、他者を感動させる物を創ったりする。
だが、そういう建設的かつ発展的な物は、趣味であると共に実益を伴う「仕事」や「役割」と言った方がいいのではと私は思う。
さて、この話の語り手が愛してやまないのはタイトル通り、金庫である。
前半は、その金庫の魅力について大いに描写されている。
転じて後半では、その金庫独自の能力が明かされる。
タイトルの「デラックス(高級)」は、前半は「豪華」という字義通りで、後半は「ハイレベル」という意味合いに感じられる。
ただ、こうやって悪人を呼び寄せる、この語り手の生活はいつか破綻しそうに思う。
金庫の中身は後で開けるからと問答無用で殺されるリスクは否めない。
あるいは、金庫自体をそのまま盗まれたり壊されたりしたら……。
語り手にとっては、そんな事態の方が、自分が殺されるより辛いかもしれない。
それでは。また次回。