老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

真藤順丈 「宝島」

2019-12-21 16:54:22 | 沖縄
私が今年読んだ本の中で一番に押したいのは、真藤順丈作「宝島」である。

今年の直木賞を受賞したこの作品は、ノミネートされていた時から大変な話題を呼び、不覚にも気付かなかった私は図書館で予約番号200番台という後れを取ってしまった。面白そうな本を探してネット、新聞の書評、書店の店頭をさ迷い気を付けているのに、何故か宝島だけは引っかからなかった。

さて「宝島」。

戦果アギャーと呼ばれ、米軍基地に忍び込み、様々な物資、価値ある物を強奪していた彼等。その中でも豪胆で賢く強かで、誰よりも優しく、貧しい島の農民達に戦果を分け与えていた英雄がいた。オンちゃんと呼ばれた彼は米軍基地に忍び込み突如失踪した。

共に行動していたオンちゃんの弟レイ、親友のグスク、恋人のヤマコ達は、オンちゃんは生きていると信じてその行方を必死に探し回るが時は空しく過ぎ、やがて彼等はテロリスト、警察官、教師となり戦後の沖縄の社会を生きていく。

これは三人の若者の青春グラフィティを横糸に、米軍機小学校墜落事件、米軍人の女児レイプ殺害事件、コザの島民轢殺事件とそれに触発された暴動という、沖縄の戦後史と社会に刻み付けられた事件を縦糸に、怒りと涙と汗で紡がれた戦後沖縄の一大叙事詩である。

英雄は既にこの世には居ない。しかしその最期に思わぬ戦果を生み、オンちゃんが助けた基地の子ウタの物語へと繋がって行く。

一つだけ疑問が残るのは、オンちゃんが命をかけて守ったウタが何故物語の終盤で命を落とす事になったのか?それが分からないのは、私がこの壮大な叙事詩を未だ読み解いていないからなのか。

作者の真藤氏は7年の歳月をかけて沖縄に取材しこの作品を書き上げたという。

未だこの叙事詩は終わってはいない。沖縄の基地とそれと闘う人々の戦後史は今も未だ続いているのだ。

作者は語り部となってバイオレンスに満ちた世界を、踊るように唄うように軽快にリズミカルに描いている。12月という慌ただしい季節に読んだ540ページという大作ではあったが、期待に違わぬ作品でさすが直木賞!と思わされた。

ぜひ、来年も「宝島」を一人でも多くの人に読んで頂き、なぜこの物語のタイトルが「宝島」なのか、答えを見付けて欲しい。

「護憲+BBS」「明日へのビタミン!ちょっといい映画・本・音楽・美術」より
パンドラ

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