老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

養老孟司氏の想いの記事を読み、フト感じたこと

2023-05-02 11:03:51 | 暮らし
養老氏の想いがPresident Online記事(みんな、体の声が聞こえなくなっている)に紹介されている。普段から興味が有り調べながら取り上げている話題に繋がる部分や、参考になる部分も多々あり、氏の言葉を中心に、私見を交えた形で氏の想いを紹介します。

資本主義はマクロに見ると終わろうとしており、そのトップを切って、脱成長期に入っているのが我が国だ、と養老氏はいう。経済学者の水野和夫氏や佐伯啓思氏らも同じ認識を主張している。

その上で、次に望まれる社会として、例えば江戸時代の庶民のコミュニティに既に存在していた、小規模なコミュニティが無数にあり、それぞれが自立していくような社会を挙げている。そしてそれぞれの小規模なコミュニティが自立していくには、エネルギーの自給自足を追求することが大切な一つの手段だとし、岡山県真庭市のバイオマス発電に触れている。

また養老氏は、手入れがなされ生かされている里山の自然と、その中で自然と共生する社会の姿にもスポットライトをあてている。氏の考える手入れをして生かしていく里山の自然のなかには森も含まれ、それぞれの小規模なコミュニティが自立して行く上で、いくつかの方向性を提示している。

一つはエネルギーの自給自足策としてのバイオマス発電。
木の伐採の際、その約半分は森に残されることが多く、その後の製材場においても更に持ちこんだ50%分の半分の25%分は商品価値なしと見なされ、伐採木の合計75%は利用されていないのが現在の林業の実態である。
バイオマス発電は利用していない部分の活用という森林利用の拡大策の一つであり、そこで生まれる雇用機会をも考えると小規模なコミュニティの自立手段の一つになるだろう。
またエネルギーの自給自足策としては、太陽光もあり、また小水力や小規模な風力、さらに地域によっては地熱や潮力利用策もあるだろう。

【今すでに眼前にある日の光・風や川の流れ等のエネルギー資源を、小規模なコミュニティが自給自足策として利用していくには眼前のエネルギー資源を現地で実際に利用可能にする技術開発を手掛ける小規模事業体の存在が求められると予想する。市場サイズから大企業が参入し、取り組むには無理があろう。これらの小規模エネルギー資源の利用・活用分野も小規模なコミュニティが自立して行く上での望まれる活動の一つであり、森林内での伐採や製材場までの移送、および必要な路網作り等の林業活動にかかわる自動化・機械化・効率化のための技術開発も、小規模なコミュニティにかかわる小規模技術開発事業体の存在と活動が求められる、と考える。そして必然的に安定した職も発生するだろう】

二つ目は、事業としての林業の再認識。
戦後の一時期価格が高くなり(1960年代国産材は国際価格の3倍だったという)林業が上手くいくと思われたが、1970年にアメリカの圧力で関税が撤廃されて、3分の1の価格の外材が入って来るようになり、国産材の需要が激減。今は国産材を使った建築物に補助金が出る所もあるが、採算が取れる山林経営は大変なことになっている。

この認識のもと養老氏は、やはりビル建設等への木材利用を拡大していく方向性を確実にしていく努力が、小規模なコミュニティを自立に導いていく上での重要な要素とし、CLT (Cross Laminated Timber)のような合成材の紹介をしている。使い易い木は60~80年育ったものとされるが、ここの所CLT(Cross Laminated Timber)のような合成材技術が進み、40年程の木も使えるようになっている。
スウェーデンでは、この合成材で4階建てや5階建てのビルが建てられている。日本でも消防法が少しずつ変わり最近は木造のビルが建てられるようになってきている状況である。

森林を守り利活用していくには、森林の計画的・合理的な維持や管理が第一に大切。しかしそれだけでは充分でなく、木材を加工する技術の開発を進めるとともに、消防法を含む法律を木材の利用性拡大に繋がるように変えていく必要がある。そして最終的には国産材が選ばれ売れる環境作りまでを構想に入れている総合的なプロジェクトが求められる。

小規模なコミュニティが自立して行くには、コミュニティ内の智恵と努力とともに、大多数の都市の市民の理解と応援が大いに必要となるところです。

三つ目に、養老氏は現代人の都市観と自然観とを論じている。
現代人の都市観と、それに対峙するものとしての自然観を、養老氏は次のように表現している。「僕は都市化するということは、自然を排除することで、脳で考えたものを具体化したものが都市だと言ってきました。都市の反対側に位置するのが自然です。」

養老氏のこの考えを私流に言い換えると次のようになります。
「都市化を至上の目標とする人々が考える自然というものは、対峙すべきもの、排除すべきもの、支配し利用すべき対象であり、そして都市化を志向し、そこに邁進する人・組織の作りだす具体物としての都市というものは、彼らの脳が考えだしたものである」

養老氏は、人の脳が考えだし、作りだすものに対しては極めて懐疑的であり、否定的な姿勢をもっていることに特徴があるようで、上記の現代社会の都市観そしてそれに対する自然観には同意するところですが、例えば氏が記事の中で語る「終わってしまった資本主義の次の社会として、社会主義はうまくいかないであろう。それは脳が考えた社会体制であるから」、という部分には違和感があります。しかしこの部分だけを抜き出して氏の考えを評価するのは拙速とも思うので、この点は保留しておきます。

しかし養老氏がいう、「人が手を入れて生かしてきた里山の自然の中に、これからの社会のヒントがあるのではないか、そして子供も大人も、自然寄りに暮らしたほうがよい」としている主張には大いに首肯するものです。

小規模なコミュニティが無数にあり、それぞれが自立していくような社会をどのようにして形成していくか、そして応援していくかという考えと、そしてその中に、子供も大人も自然寄りに暮らすほうが良い、という思想をどう組み込んでいくかという過程が、望ましい社会の一つの形として養老氏は思い描いているのであろう。

その手段として、エネルギーの自給自足、木材利用の拡大に繋がる総合的なプロジェクトを主張しているのだろう。
そして子供も大人も自然寄りに暮らすことが可能な場所として、手入れが為され続ける里山や森林や田園に目を向けることの大切さを都市に暮らす人々に主張しているのだろう。
里山や森林や田園等の自然環境には大きな教育力や情緒に繋がる生命力があることは、養老氏だけでなく、おコメと農業にこだわりを持っていた井上ひさし氏も説くところである。

そのような里山や森林や田園等の自然を背景に持つ、無数の小規模なコミュニティを育てていく手段としては、エネルギーの自給自足と木材利用総合プロジェクトに加えて、食と住の分野は省けるとして、医療と教育の都市部との格差問題、そして里山や森林や田園地域での安定した職の創造と提供が、極めて重要な問題点となるであろうと考える。

私案になるが、安定した職の創造として2つ程あげてみたい。

一つは、バケーションの実態。特に欧州に見られる1-2週間をかけて家族皆で都会を離れて休暇を楽しむのに対し、我が国はせいぜい2-3日の家族旅行。かけている費用はそれほどの違いは無さそうな実態。里山や森林や田園等、優秀な教育力と治癒力をもつ自然を背景に持つ無数の小規模なコミュニティは、そのコミュニティの育成・活性化の手段として、この観点での受け皿作りを考えてもよいと思うのだが。

もう一つは終の住まい方に関連するもの。都市部の高齢者は終の住まい方において、その人数の多さの故に、そして都市部では特に3世代をまたぐような大家族制が困難になり、小家族が当たり前になって久しい。従って老老介護の問題や誰もが利用可能な受け入れ施設不足が問題となっている。
終の住まい方についての思いは人それぞれに違いはあるだろうが、選択肢の一つとして、終の住み家を、里山や森林や田園等優秀な教育力と治癒力をもつ自然を背景に持つ小規模なコミュニティ内に設ける運動というものも、非常に魅力あるものと思うのだが。

小規模なコミュニティが無数にあり、それぞれが自立していくような社会を育んで行く上で、都市部に住まいする人の考え方が非常に大きな重みをもっていると言えます。

前に紹介したハーバード大のセミナーの中で、Kuo氏は「全面ガラス高層ビル等の現代建築物が西洋の経済発展のイメージに直結したもの、進歩と力を象徴するものと捉えている世の風潮がある」と主張している。我が国においてもこの風潮があるのは事実であろう。

森林を守り利活用していくこと、それを通じて無数の小規模なコミュニティの自立化を図って行くこと、そして子供も大人も、自然寄りに暮らしていける場所を作って行くという総合的なプロジェクトの進展には、この風潮のみが大勢を占める状況は改善の余地のある世の中だと言える。Kuo氏は、従来とは異なる進歩と力を象徴する別の形式が創造される必要を問うている。

養老氏の想いは、その別の形式の価値観の創造に役立つものだと思う。

「護憲+BBS」「 新聞記事などの紹介」より
yo-chan

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