カーサ某のセッションで久しぶりにヴァイオリンを弾いた。もちろん「下手の言い訳」をしたうえで、である。そう、居並ぶ達人の前でずうずうしく弾くためのとっておきの言い訳があるのである(「下手な言い訳」は言い訳が下手なことであり、「下手の言い訳」は下手である理由である。今、話しているのは後者である)。すなわち「私のヴァイオリンは、弓とケース込みで2万円」と言うのである。これはなかなかの威力があり、達人たちはそんな楽器はあり得ないと信じてるから、音が出るだけで「おおー」となるのである。人々をうならせた2万円がコレである。
商品名としてイタリア人のような名前が付いているが、イタリア製であるわけがない。だが、この言い訳が通用するのは、達人たちがブルジョワジーに属しているからである。私と同様のプロレタリアート階級だったら「あっ、私のもそのくらい」と言われるかもしれないし、ことによると、「2万円もするの?私のはもっと安いよ」という超人がいるかもしれない(私の楽器と同じものを中古で買えばありうる話である)。
故意ではないのだが、つまり忘れていたのだが、実は「全部ひっくるめて2万円」は正確ではない。いや、当初はそうだった。だが、弓にもお金を出した方がいいと聞いて、弓を別途調達したのだった。そのお値段が1万円だから合計3万円が正しい(達人たちからは「お金を出したことにならない」という声が聞こえてきそうである)。
この楽器を買ったのは数年前である。その前に持っていたのは子供の頃買ったヤツでコレである。
たしか、7千円くらいだったと思う(まさに2万円以下である。時代と物価水準が違うけれど)。子供貯金をおろして買ったのだった。この7000円楽器が数年前に壊れてしまった。それで2万円楽器に交代したわけである。壊れたとしても想い出がたくさんつまっているから、今は押入の奥で静かな余生を過ごしてもらっている。
因みになぜ子供貯金をおろして買ったかというと、私の親が、常々子供に楽器を買ってやるようなお金はないと言っていて、親に出してもらうのが絶望的だったからである。そんな折り、ふと子供貯金のことを思い出して、それでヴァイオリンを手に入れることができたわけだ。こういうことをときどきブログに書いてるのに「黒式部さんはいいところの子供に違いない。楽器をいろいろやってるから」と言う人が後を絶たなくて、「ほんとにブログを読んでくれてるの?」と思うこともあるが、そんなものである。人は他人のことなど興味がないのである。
なお、高校で吹奏楽部に入ったとき親がクラリネットを買ってくれたことは親の名誉のために書いておかねばならないだろう。半世紀前で16万円だったからかなりの逸品である。絶対ムリだと思いつつおそるおそる頼んでみたらOKという返事が返ってきたとき奇跡が起きたと思ったものである。
(追記)一番書きたいことを書きそびれていたので追記する。その2万円ヴァイオリンを、セッションの帰りに電車の網棚に置き忘れたワタクシである。駅から出て歩き始めて10分経って気がついて、駅に戻ったらすぐに出てきて事なきを得た。2万円だから置き忘れたんだろうって?ナイン!親が唯一私のために大金を払って買ってくれたクラリネットですら電車の網棚に置き忘れたことがある。そのとき(やはり半世紀前)、すぐに気がついて駅員に言うと、所在場所がすぐに判明し、それは小田原駅であった。小田原までとりに言ったのだった。受け渡しのとき、駅員さんから「これは骨董品?」と聞かれたことを覚えている。私の愛器はキーのメッキのせいでくすんで見えるためである。
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