ふとニュース番組を見ていたら、石巻にあった岡田劇場が震災で崩壊し復興を断念したという内容が目に入った。岡田劇場は幕末から明治、大正、昭和、そして平成と150年の歴史を誇った有名な劇場で、歌や芝居、映画といった娯楽と文化を提供してきたのである。これまで美空ひばり、長谷川一夫、三波春夫、北島三郎、ザ・ピーナッツ、ザ・タイガース、ドリフターズ、コント55号、五木ひろし、千昌夫、松田聖子、石川さゆり、藤あや子、坂本冬美といった数えきれないそうそうたるメンバーの興行や全日本プロレス、FMWなどのプロレスも手掛けてきたという。
私がなぜ、岡田劇場を知っているかといえば、70年代後半から80年代にかけて全女の東北巡業を一手に引き受けていたからである。社長の菅原宏さんが時折、上京し必ず事務所に顔を出していたため、いつの間にか顔見知りになった次第だ。岡田劇場の全女興行はいつも、自前のポスターを作成していた。当時の全女は興行を買ってくれるプロモーターに対し、ポスター1枚につき100円を請求していたため、自前で作った方が安いと判断したのがその理由。だから全女の本社が作ったポスター(私がデザインを担当していた)とはひと味違った雰囲気だった。声のトーンが渋い菅原さんはダンディな東北紳士。営業本部長だった高橋さんとは昵懇の仲であった。全女は創成期から高橋さんが巡業のコースを仕切っていて、各地にプロモーターがいた。北海道は堀さん、東北は岡田劇場、四国は小松さん(元・日本プロレスのリングアナ)、九州は大石さん、阿部四郎は関東地区という具合に地域制を取っていたのだ。そういえば、IWAジャパンの浅野社長も岡田劇場出身だったと思う。現在の代表である菅原聖さんはハッキリと「復興は無理…」と語っていた。石巻の文化の拠点が失われたのは誠に寂しい話なのだ。