雑賀孫市(まごーん)の中の人ブログ

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1個の印鑑と1枚の写真─富山県における婦人史への寄与

2018年08月11日 13時53分48秒 | 収集品
はじめに
手元に、1個の木彫りの印鑑と、1枚の写真(撮影年は不明)があります、これは富山県にあった国防婦人会福野支会のものです。

この福野支会について、『福野町史』では一言も触れておりません。福野町には同地の寺院が中心となってできた仏教婦人会について、そして愛国婦人会と国防婦人会と大日本連合婦人会(1931年創設)が合併してできた大日本婦人会についてが、触れられているのみです(668-669頁)。
『福野町史 写真編』(以下、『写真編』)では「社会教育の普及」の中で国防婦人会の写真が4枚掲載されており、西野尻婦人会の総会や慰問袋や救急法、金物回収の様子が伺えます(200-201頁)。

今回はコレを元手にちょっと富山県の町における婦人会の歴史を覗いてみましょう。


福野町と国防婦人会の概要
まず、福野についてですが、元々は福野村でしたが、1889(明治22)年に東砺波郡の福野町として誕生しました。1941(昭和16)年には富山県初の町村合併により新・福野町となり、2004(平成16)年に南砺市へ合併され現在に至ります。

つぎに国防婦人会です。国防婦人会は1932(昭和7)年に大阪で発足した大阪国防婦人会からはじまり、1934(昭和9)年に総本部設置により全国組織化され、最終的には1000万人の会員を持つ大規模なものになりました。

国防婦人会福野支会とは
国防婦人会の組織図において、その序列は総本部-地方本部-支部-分会-班 となっています。
印章にある「支会」は存在しないようです。

もしかしたら地域によって違う可能性があります。
しかし南砺市のお隣、砺波市の教育委員会が運営する「砺波正倉(となみしょうそう)」というサイトに同市の国防婦人会の写真が展示されています(http://1073shoso.jp/www/photo/detail.jsp?id=11830)。この写真は現在の砺波市庄川にあった種田村分会の写真と説明されています(種田村は1952年に合併し庄川町となり、2004年に砺波市へ吸収されて現在に至ります)。
種田村は隣の市で、合併も行われた福野町と比べて規模が小さいと思われますが、富山県内において国防婦人会の組織が規定通りのものであると考えられます。

そもそも、福野の国防婦人会はいつ発足したのでしょうか。『富山県史 通史編Ⅵ 近代 下』では1933(昭和8)年ころより「大日本国防婦人会支部も漸次各市町村に結成され」、日中戦争期に各地の婦女会が国防婦人会に切り替えたところもあったと記述しています(1040頁)。
福野町では『写真編』に1935(昭和10)年ごろと説明があり、その頃にはすでに発足していたことがわかります。この頃はまだ国防婦人会も150万人に満たない頃で、国防婦人会内としては早い段階で参加していたようです(藤井95頁)。『福野町史』には具体的な記述は見受けられません。なお、福野の北に位置する高岡市も昭和10年ごろに国防婦人会が活動していた写真が存在しますので西富山では同年代で発足していたと見ることができます(高岡市立博物館「戦時下の暮らし」ポスターよりhttp://www.e-tmm.info/senjika2.pdf)。

藤井氏の研究によれば、既成の婦人団体を母体にして結成される方式が多く、「同一事務所に形式的に看板が並ぶケースがほとんど」であったと言いますから(139頁)、福野の国防婦人会も、仏教婦人会を母体にして発足した可能性があります。

おわりに
婦人会という組織は現在も存在するもので、本稿で取り上げた富山県における国防婦人会も愛国婦人会、大日本連合婦人会とともに最終的には大日本婦人会へ集束し、国民義勇隊女子挺身隊に変貌しますが、戦争が終わると、大元の組織は全国地域婦人団体連絡協議会と、富山県では富山県婦人会へと、福野町では現在は南砺市連合婦人会へと、趣旨を時代に合わせて変えていき、継続していきます。

婦人会という存在は暮らしと密着するものであります。そして組織である以上、組織図があり、それがどのような構造を持っていたか検討することは大事です。さらに印鑑というのは言ってみればその押印をもって組織の命令たる権威を付与をする道具ですから、とても大事な史料でしょう。
今回は福野の歴史にあまり残されていない国防婦人会を印鑑と写真から触れてみました。

参考文献
特にない限りサイトなどの閲覧日は2018年8月4日。
富山県編『富山県史 通史Ⅵ 近代 下』(1984年)。
福野町史編纂委員会編『福野町史 通史編』(1991年)。
同前『福野町史 写真・統計編』(1991年)。
藤井忠俊『国防婦人会』(岩波新書、1985年)。
全国地域婦人団体連絡協議会編『全地婦連50年のあゆみ』(2003年)。
高岡市立博物館「戦時下の暮らし」(2016年)。
砺波市教育委員会「砺波正倉」(URLは本文参照)。
『大日本国防婦人会十年史』
大日本国防婦人会総本部編『大日本国防婦人会記念写真帖』(1942年)。

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