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第279回 スタンド・バーという存在

2018-08-03 | エッセイ

 以前にも書きましたけど、私が10年以上も通い続けているのは、神保町の「しゃれこうべ」というお店です。カウンターが10席くらいで、奥にちょっとしたテーブル席がある小じんまりしたつくりです。ちょっとガンコだけど愉快なマスターが切り盛りしていて、時々、手伝いの女性がカウンターに入ります。スタンド・バーという業態になるでしょうか。こんなお店です。



 通い出した頃は、働いていて、ほかに行く店もありましたから、時々、顔を出す程度でした。でも、5年ほど前からリタイヤ生活に入って以来、自宅からは、1時間ほどかかるんですが、(ほぼ)この店一本です。
 スタンド・バーというのが、リタイヤ生活にはつくづく合うし、ありがたい存在だなあ、と感じます。

 なにより、「ひとりで」気軽に行けるというのが魅力です。

 仕事していた頃は、仲間内でワイワイ、ガヤガヤ飲むだけですから、安ければ、どんな店でも、基本オッケーで、こだわりもありませんでした。
 でも、リタイヤすると、ある程度、予想していたとはいえ、昔の仲間に声をかけるのは、けっこう面倒です。わざわざ連絡取り合ってなどと考え出すと「まっ、いいか」となってしまいます。

 かと言って、大衆酒場みたいなところで、ひとり黙然と酒を飲む、というのも、私にはできません。私の場合は、酒をほどほどに楽しみながら、適度に会話も楽しみたいクチですので。

 その点、スタンド.バーなら、たまたま知ったお客さんがいなくても、接客の合間などに、マスターとのちょっとした会話を楽しむができます。

 また、こういうお店は、ひとりで来られるお客さんが多いです。「ひとりで気軽に来られる」という思いを、皆さん方、お持ちだからじゃないでしょうか。ひとり同士という気楽さもあって、声がかけやすいです。「以前、ご一緒しましたっけ?」 「どんなきっかけで、このお店に?」などと。

 マスターから紹介されたり、マスターを挟んで共通の話題で盛り上ったり・・・そんなことも多々あります。小じんまりした作りですから、混み合ってくれば、知らない人と隣り合わせになる機会が多い、というのも、友だち作りのためには、ありがたい点です。

 それやこれやで、今の店でのお知り合いは、随分増え、マスターのおかげもあって、私にとっては快適至極な空間なのですが、経営はなかなか厳しいようです。

 常連の方々の高齢化で足が遠のきがち、ということもありますが、新規のお客さんの開拓がままならない、というのもあるようです。確かに、こういうお店の場合、ひとりで、いきなり店に飛び込むのには、気持ちの上での、ちょっとしたハードルがあるのは事実。

 結構盛り上がってたりしていて、いい雰囲気そうなんだけど、常連さん同士で出来上がった世界に割り込むみたいで、ちょっと気後れする・・・・・確かに新しい店に飛び込むのって、ちょっとした勇気が要ります。

 実は、最近、(今の店のマスターには内緒なんですけど)自宅の近くに、スタンド・バーを「開拓」しました。先々のことを考えて「いずれは」とマークしていた店です。ネットで調べると、マスターは、この道59年の大ベテラン(なんと81歳)で、女性とふたりで切り盛りしているようです。「取って喰われるわけでもなかろう」と「勇気を奮って」ドアを押しました。

 按ずるより産むが易し。「いらっしゃい!」とマスターから明るく、元気に迎えられて、無事にデビューを果たしました。カウンターの中の女性も、ハキハキして、きっぷがいい。
 「徹夜の仕事明けで飲んだら、利いちゃってさあ」と彼女。
 「えっ、徹夜で飲んだの?」と思わず聞き返したら、
 「違うよ~、母親の仕事を手伝ってたら徹夜になって、その後、飲んだんだよ」
 さっそく、そんな軽口が飛び交って、フレンドリーな雰囲気です。2~3人のお客さんとも親しくなれました。「しゃれこうべ」での「学習効果」でしょうか。最寄り駅まで帰りついて、「余力」があれば、ちょっと立ち寄る・・・そんな使い方を考えています。

 さて、肝心の「しゃれこうべ」のほうですが、いい変化の兆しも見えています。マスター自身や、危機感を共有した常連さんなどの営業努力もあって、若い人を中心に新規のお客さん来店の話題が、「マスターの日報」を賑わすことが増えたように思います。
 若い人たちが引っ張るかたちで、楽しく飲めるお店であり続けてほしいと心から願っています。 
 私みたいなオジさんも体力の続く限り通うするつもりですので・・・

 いかがでしたか?次回をお楽しみに。

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