信仰の世の中を嘆いてこう言っ
ている。
「今の人は、科学が発達して、昔
の技術なんて古くさいと言って相
手にしないが、それは間違ってい
る。
ついこの間まで、学者たちは古い
建築物の再建に鉄を使って長持ち
させろと言ってきたが、
鉄はせいぜい三百年も持てばいい
という代物だ。法隆寺の檜の建物
は千三百年も持っている。
千年をすぎた木がまだ生きていて、
塔の瓦をはずして下の土を除くと
次第に屋根の反りが戻ってくる。
鉋(かんな)をかければ今でも品
のいい檜の香りがする。
みんな新しいことが正しいことだ
と信じているが、古いことでもい
いものはいい。
経験を信じず、学問を尊重するよう
になったのは明治以来だ。しかし、
いくら科学が進歩してきても、
千三百年前に法隆寺を建てた飛鳥
の工人の技術に私らは追いつけな
い。飛鳥の人たちはよく考え、木
を生かして使っているからだ」
まず現実があって、それを体系化
して確率的に普遍化したものが
学問なのに、
月日とともに現実から逃避し始め、
現実が間違っていると言い出すか
ら変になる。
企業でも、スタッフが陥りやすい
落とし穴だ。現場、現実を絶えず
尊重することを忘れてはいけませ
ん。