って、歩いてゆく。扉の向
こうに、闇がある。
闇のなかに、人生がある。
なぜ泣くの?なぜ泣くの?
生きているからよ。生きて
いくからよ。
「泣かないで」と私に声を
かけながら。「いい子だから、
もう泣かないで」と。
ピンチになると、手紙を
書く。
これが私の昔からの習慣
である。
LINEでは希薄なのだ。
考えてみると、たとえ喧嘩を
していなくても、恋はピンチ
の連続である。
相手の心が読めずに不安に
なったり、恋しい思いで息が
つまりそうになったり、
相手との一体感でほとんど
叫びたくなるときも多い。
まるで非常時のような毎日だ。
「いったい、私は、なにやって
んだろう。どうかしているわ」
恋をしている時の私はしばしば
そう呟いたものだ。
恋はピンチの連続である。
甘い思いや微笑みより、疑い
や涙の方がはるかに多い
のではないだろうか。
こうしたピンチを乗り切る
のは難しい。
けれども、やってやれない
はずがない。
初めてのキス、初めての
デート、 シャボン玉の
ようにふわふわ 飛んで、
空中でぱちんと弾ける、
そんな片思いの恋をいく
つか経 たあと、わたし
はまるで巻き込 まれる
ように、苦しい恋に落ちた。
これは、手探りで進むし
かない 真っ暗な闇の谷
底に真っ逆さま に落ち
てゆくような恋だった。
どしようもなかった。
好きで好きでたまらな
くて、 四六時中会い
たくて、いつも一緒
にいたいと追い求めた。
彼のそばにいない時の
自分は、 まるで不完全
な人間のような気 がし
ていた。息もできないくら
いに、身動きもできない
くらい に、焦がれていた。
こんなに好きなのに、
こんなに 愛しているの
に、こんなにも
不安なのは、なぜ?
こころの平穏を保ちたかった
グルグル気持ちが かき回されて
チビ黒サンボの ホットケーキ
になっちゃうのは
ゴメンだと思った。
だから いろんなことをした
サクサクと
やらなきゃいけない 日常的な
ことを
サクサクとやった
心にすき間風が ふいてるの
かんじないように
英語の先生が教えてくれたこと。
Loveとlikeの違い。
数学の先生が教えてくれたこと。
解がない人生の問題。
国語の先生が教えてくれたこと。
絵文字による感情の伝え方。
理科の先生が教えてくれたこと。
どこよりもきれいに星が見える場所。
社会の先生が教えてくれたこと。
戦争が終わって平和が生まれたこと。
美術の先生が教えてくれたこと。わたしの才能。
人けのない秋の海に行ったのでも、
さびれた喫茶店に入ったのでもな
い。およそ別れの予感にふさわし
くない舞台、春に房総。たぶんそ
の一日は、穏やかな陽射しに包ま
れて、楽しく過ごしたのだ。
もし彼女が、もう少し疑い深く、
もう少し用心深かったら、なんら
かのサインはキャッチできたかも
しれない。が、一緒に行った彼の
ほうも、「これが最後」という思
いがあればあるほど、仲のいい
カップルを演じてしまう。
いずれにせよ、別れは、彼女に
とっては突然だった。
「つきとばされるやうに」という
悲しい比喩が、唐突さ、思いがけ
なさ、をあますところなく伝えて
いる。
この歌に出会った女(ひと)は、
ボーイフレンドに「房総、房総!」
と無邪気に言えない春を、迎える
ことになったかも知れない。