今回の金融緩和の継続決定と日銀による国債買入額の拡大は、安倍政権の経済政策の失敗をつくろい、政権支持率の低下を防ぐ手立てとして利用していることを示しています。失敗している経済政策にしがみつき、政策転換をするのではなく、さらに深みにはまることは泥沼に入ることを意味しています。株価が高騰することが日本経済の長期的な展望、構造転換を前進させることになるのかと言えば、全く関係がありません。さらに、このような麻薬を多用し、経済構造の陳腐化を押し隠すことで解決策はさらに遠のくことになります。
第二に、彼らの金融緩和継続と刺激策は、消費税率の再引き上げへの地ならしであり、増税決定への世論作りでもあります。彼らの短期的政権浮揚策に金融緩和、年金資金の株式運用への投機的な利用は、全く政権の私的利用と指弾される決定であり、許されるものではありません。巨額の年金資金を投機市場に投じ、損失のリスクを無視するような政治姿勢も許すことは出来ません。
<信濃毎日社説>年金運用 政権浮揚に使うのか
日銀の追加金融緩和と呼応するように年金積立金の運用でも大胆な見直しが決まった。
国債を中心とした運用から、株式の割合を倍以上に増やす積極姿勢に転換する。見返りが大きくなる分、損をする危険が高まる。加入者から集めた厚生年金と国民年金の積立金は127兆円。現役世代が多いときに将来の年金支払いに備えたものだ。2004年の制度改革で、約100年かけて計画的に取り崩すとした大事な蓄えである。
重要なのは年金が安定して受け取れるという国民の安心感だ。安全、慎重な運用が強く求められるときに、今度の決定は説明が足りない。拙速すぎる。
積立金運用は厚生労働相が年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に委託する。厚労省は6月、前倒しして見直すようGPIFに要請し、安倍政権の新たな成長戦略にも盛り込まれた。
1%で1兆円超の資金が動くだけに、運用配分の変更は市場に大きな影響を与える。積極的な運用を主張する塩崎恭久厚労相の就任などGPIFをめぐる思惑に株価はたびたび反応し、追加金融緩和と重なった10月31日の見直し決定では大幅な株高になった。
見過ごせないのは、安倍政権の意向を受けた方針転換が明らかなことだ。将来にわたる積立金を、ときの政権が目先の市場対策に使うとなれば言語道断である。かつて公的資金による政府の株価維持策は、市場の機能をゆがめると批判を受けた。効果も続かなかった。今度もその轍(てつ)を踏んでいるとしか思えない。
確かに大半を国債で運用してきた従来の配分が安心とは言い難い。国債には巨額の財政赤字や金利上昇による暴落の危険がつきまとう。リスク分散は必要だろう。
だからといって、ここで国内外の株式比率をそれぞれ12%から25%に増やすことが妥当なのか。ほころびが目立つアベノミクスをてこ入れするため株価を上げたいのが本音ではないか。運用失敗の責任を誰が取るのかも曖昧だ。
世界最大規模の機関投資家、GPIFの体制にも問題がある。権限と責任は理事長1人に集中する。運用方法がどう決まるのか、積立金の持ち主である国民の意思を反映させる仕組みがなく、説明が足りない。今回は政権からの独立性、中立性でも問題を残した。
GPIFは運用見直しに合わせて体制を強化し職員の行動規範をつくるという。政権と距離を保ち透明性を高める改革こそ必要だ。
<毎日新聞社説>年金運用見直し 独立性の確保が前提だ
「GPIF」という組織をご存じだろうか。私たち国民の年金を運用する専門組織、年金積立金管理運用独立行政法人の略称だ。約130兆円もの積立金を債券や株式で運用し、安定的に増やしていく役割を担う。そのGPIFが先月末、運用配分を大幅に見直すと発表した。
これまで全資産の6割と定めていた国内債券の比重を35%まで下げ、逆に国内外の株式の比重を合計で全体の半分(50%)まで引き上げるのが柱だ。
数兆円規模の資金流入を見込んだ株式市場は大いに沸いた。
だが市場の熱狂とは裏腹に、公的年金制度への信頼を揺るがしかねない問題をはらんだ見直しとなった。
まず、株価浮揚策として利用された印象を与えたことだ。積立金をリスクの度合いが異なる対象にどう配分するかは、GPIFの最重要決定事項といえる。運用のプロたちが、年金の将来のためだけを考え、政治の介入を受けることなく判断を下さねばならない。そうでないと私たちは信頼して任せることができない。
ところが、政府の有識者会議の座長が早々に具体的な国内債運用比率を公言。安倍政権が成長戦略に盛り込んだり、厚生労働相が、国債中心の運用を前倒しで変更するよう指示したりするなど、市場注視の中、国債比重引き下げ、株式引き上げの方向性が固まっていった。その過程で株価は上昇し、GPIFは皮肉にも、自ら高値で買わざるを得ない事態を招いた恐れがある。
何より、私たちの財産を左右するこれほど大事な問題が、ほとんど国民的議論のないまま、大きな変更にさらされることになった。ここが一番の問題だろう。
日銀との「連係プレー」にも注目が集まった。単に追加緩和の決定と発表が重なっただけではない。国債価格の急落(長期金利の急騰)が心配なGPIFによる国債の大量売却だが、日銀が追加緩和で買い増してくれれば、そうした不安も和らぐ。
政府、日銀、GPIFは「偶然」を強調する。だが市場では一体的なものと受け止める見方が多く、有識者会議の座長を務めた伊藤隆敏・政策研究大学院大学教授も「美しき調和」(ブルームバーグ・ニュース)と絶賛した。
政府は4日、GPIFの組織改革を議論する作業班の初会合を開いた。政治からの独立性確保やリスク管理の強化などが焦点だが、大幅な運用配分見直しは、本来、そうした体制を整備してから検討すべきだった。
積立金の持ち主である国民の信頼を得られる体制作りに拙速は禁物である。投資先の選別に政治が介入できる余地を残すようなことは、絶対にあってはならない。