序破急

片足棺桶に突っ込みながら劇団芝居屋を主宰している爺です。
主に芝居、時々暮らしの中の出来事を書きます。

第25回公演「六丁目金山ビル・おみまめ」物語14

2013-06-26 22:19:31 | ブログ

第六場 その2

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権藤と五郎の再会の騒ぎが一段落すると、一同に緊張感が張り詰める。

 

美樹 「・・・本日はお忙しい中、父の事をお知らせ下さる為に遠路お越しくださいまして誠に有難うございました。わたし達姉弟は母から父は子供の頃に亡くなったと聞かされてきましたので、初めてお会いした時には驚きの余り失礼な事を言ってしまいました。どうも申し訳ございませんでした」<o:p></o:p>

 権藤 「いやいや、こちらこそ突然押しかけて申し訳なかったと反省しております」<o:p></o:p>

 美樹 「あれから純子ママから大よその話を聞きまして、改めて兄弟そろって父の話をお聞きしょうとお願いした次第です。よろしくお願いいたします」<o:p></o:p>

 権藤 「まあ、男と女の間の話ですからいろいろあったと思いますが、お母上とお父上の間の事は省かせて頂きます。私は、お二人のお別れになった後のお父上のその後というものを、今日はお二人にお知らせしたく参上いたした次第です」<o:p></o:p>

 美樹 「ハイ、よろしくお願いいたします」

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権藤は冷静さを保ちながらいきさつを語り出す。

権藤 「あのう、これは見た話ではありませんので、その辺はご容赦下さい」<o:p></o:p>

美樹 「はい、お願いします」<o:p></o:p>

権藤 「・・・私どもに連絡があったのは八日程前に、マンションの管理会社からでした。マスターが部屋で死体で発見されたというんです。・・こんな事言っていいのか・・」<o:p></o:p>

隆文 「言って下さい。お願いします」<o:p></o:p>

権藤 「ハイ。・・・それで隣の人の苦情で発見されたんです、臭うって苦情で」<o:p></o:p>

  息を呑む一同。ハンカチで洟をかむ権藤。

美樹 「そんな・・・」<o:p></o:p>

権藤 「・・・心筋梗塞だったそうです。事件性がないので警察からすぐに引き取る事ができました。その時にお知らせしたかったのですが、生憎御二人の居所を記したものを見つける事が出来ませんでしたので、通夜と葬式はこちらでやらせて頂きました」

栄治「それはご苦労様でした」

 権藤 「いえいえ、とんでもない」<o:p></o:p>

 栄治 「それで、お父さんは二人の事をどう思っていたんでしょうか」<o:p></o:p>

 権藤 「あのう、失礼ですが」<o:p></o:p>

 栄治 「はい、何でしょう」<o:p></o:p>

 権藤 「先日からお見受けしていますが、あなたお二人とどんなご関係なんでしょう?」<o:p></o:p>

 栄治 「それは、あのう・・」<o:p></o:p>

 美樹 「婚約者です。わたしの婚約者です」<o:p></o:p>

   驚き美樹に目をやる栄治。頷く美樹。<o:p></o:p>

 栄治 「そうです、わたしは美樹の婚約者です」<o:p></o:p>

 権藤 「ああ、それは・・おめでとうございます」<o:p></o:p>

 栄治 「ああ、いや、どうも・・」<o:p></o:p>

   頭を下げる美樹と栄治。<o:p></o:p>

 権藤 「この事を聞いたらマスターもどれほど喜んだ事か・・・ごめんなさい、何だか最近涙もろくなっちゃって」<o:p></o:p>

 五郎 「ボウヤも歳だな」<o:p></o:p>

 権藤 「もう、ジョーさんたら意地悪ね」<o:p></o:p>

 栄治 「すいませんが、話の続きを・・」<o:p></o:p>

 権藤 「アッ、ごめんなさいね。そう、お話ね。・・・今からそうですね、二十数年前にわたし大町の虎の穴にお世話になったんです。ちょうどその頃、マスターが離婚して・・・とにかくひどく落ち込んでいました、離婚は自業自得だから仕方がないけど子供達に会えなくなるのがつらいって。お二人のちさい頃の写真を出して、それを見てはよく泣いていました」

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 栄治 「あの・・話の腰を折ってすいません」<o:p></o:p>

 権藤 「はい、何んしょう」<o:p></o:p>

 栄治 「オーナー、この話、美樹に話した例の大町のマスターの話しとえらく似通ってませんか」<o:p></o:p>

 五郎 「そう、そうなんだよ、まさにあの大町のマスターの話しなんだよ」<o:p></o:p>

 栄治 「じゃ、オーナーの話と美樹のお父さんは同一人物ってことだ」<o:p></o:p>

 隆文 「そうだったんだ」<o:p></o:p>

    その偶然に驚く一同。<o:p></o:p>

 権藤 「ジョーさん、マスターの話をしててくれたんですか」<o:p></o:p>

 五郎 「ああ、偶然そんな事になってたね」<o:p></o:p>

 権藤 「じゃ、話は早いですね。とにかくお二人の事をとても心配していたんです。でもマスター約束しちゃったんですよ、お二人の前には二度と顔を出さないって。自分の所為で子供達を不幸にしてしまったんだから歯を食い縛っても約束は守るって頑張ってました。わたし達ってこう見えても人との約束は大事にするんですよ。でもあなた達の事はいつも気にしてて、何時だったかお母さんが経済的にすごく困った時に援助させてくれって申し出をしたんです。そうしたら・・・」<o:p></o:p>

 栄治 「どうしたんですか」<o:p></o:p>

 権藤 「にべもなかったんですって、貴方の様な不潔な人に助けて貰おうなんて思いませんって。その時つくづく自分が深い差別の対象者なんだって思い知ったそうです。・・・ねえ、あなた」

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美樹の父の無念さを思う時、権藤の中に燻っていた、被害妄想に火が付き、栄治にその矛先が向くのだった。

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<o:p></o:p> 栄治 「ハッ、俺ですか」<o:p></o:p>

 権藤 「あなたもそうですよね、わたしみたいな人間はいなけりゃいいと思っているでしょう」<o:p></o:p>

 栄治 「いや、そんな事はありませんよ」<o:p></o:p>

 

権藤 「とぼけても判るんですよ。あなたみたいなホモ・フォビアの人の視線にはわたし達敏感なの」<o:p></o:p>

 栄治 「ホモ・フオ・・」<o:p></o:p>

 権藤 「ホモ・フォビア。わたし達に病的な嫌悪感を持っている人たちの事。どんな事があったか知らないけど、その体験だけでわたし達を決め付けないでね。変なのはわたし達の世界にもあなた達にもいるのよ。わたし達とあなたの違いは好きになる対象の違いだけなの」<o:p></o:p>

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突然の権藤の怒りにただ狼狽える栄治達であった。

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第六場 その3最終章へと

続く。

 

 

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