第2次環境基本計画(2000年)では、環境問題との関わりと他主体の役割の観点から、国民、事業者、民間団体、国、地方自治体の役割を記述した。このうち、地方自治体は、自らが「事業者」、「消費者」として環境保全行動を率先して実施する主体であるとともに、地域の住民、事業者、あるいはNPOと関わりながら、それらの環境保全行動の支援や調整を行う「推進者」、「調整者」である。
また、同計画では、他主体との関係において、国は、各主体の参加を促進する枠組みを構築し、各主体間の対話の促進、取組み相互のネットワーク化、パートナーシップの構築を重視する主体であることを強調している。同様の「調整者」の役割は、地方自治体においても求められるが、地方自治体の方が国よりも、地域での環境保全行動を主導して、他主体を先導する「推進者」の役割が期待されているといえる。
これは、小さな主体(市町村)ができることにより大きな主体(国)は介入しない、市町村ができることは市町村が行い、そうでないものを県が、県ができないことを国が行うべきとする「補完性の原理」の考え方である。同じ原理は、欧州統合において、共同体と加盟国の関係を規律する原則として用いられた(マーストリヒト条約、1992年)が、日本の国と地方自治体(県、市町村)の場合にも同じ原理が適用されているのである。
さらに、京都議定書目標達成計画(2008年3月)では、地方自治体の役割を具体的に記している。同計画では、「地方公共団体は、その区域の自然的社会的条件に応じた総合的かつ計画的な施策を策定し、実施する」、「事業者や住民に身近な公的セクターとして,地域住民への教育・普及啓発、民間団体の活動の支援など地域に密着した施策を進める」という地球温暖化防止対策の「推進者」としての役割を記している。
加えて、「各地方公共団体の自主性の尊重を基本としつつ、本計画の国の施策との連携も図り、事業者の全国規模での効果的なエネルギー効率の向上等に配慮しながら、全国規模での温室効果ガスの排出の削減に貢献することが期待される。」とあるが、これは国の施策への「協力者」との役割を期待するものである。地球温暖化問題は、国全体の温室効果ガスの排出削減目標を国際間の調整者である国が定め、これまでの環境問題に比べて、トップダウン的な性質が強いことが関連する。
しかしながら一方で、「他の地域の模範となるような先進的なモデル地域づくりが各地の創意工夫で進められ、それが他の地域に波及することが期待される」という記述もある。これは、民生(家庭部門)の温室効果ガス削減や都市計画等によるコンパクトシティ化など、国では主導することができない施策を行う先進地域の登場とその波及というボトムアップの展開を期待するものである。この役割を新たな環境政策の「革新者」としての役割と呼ぶことにする。
以上のように、環境配慮の率先行動をとる「事業者」・「消費者」、地域に密着して総合的・計画に環境配慮を進める「推進者」・「調整者」、全国に先駆けて環境政策を創造する「革新者」としての役割が地方自治体に期待される。