長野県飯田市におけるスタディを、2009年からの実施させていただいている。研究論文にしたら、6本分になる。整理すると、それらは当初、企図したものではないが、一連の流れになってる。
ここでは、6年間の研究結果をもとに、環境施策と「地域環境力」との関係、気候変動をテーマとする「地域環境力」の再構築について、飯田市の現状を整理するとともに、他地域への示唆について考察する。
なお、「地域環境力」は、環境白書等で用いられた概念である。ここでは、「地域における主体の個の力(主体性)と主体間の関係の力(関係性)」と定義する。
① 飯田市における環境配慮行動の普及要因としての「地域環境力」
2009年に実施した住民アンケートを分析すると、飯田市住民は他地域以上に高年齢層の環境配慮行動の実施度が高い傾向にあることが確認できる。この理由は、飯田市の高年齢層は飯田市で実施されてきた環境施策等の影響をより強く受けているとともに、結合型社会関係資資本に強く接続しているためである。
そして、公民館活動を調査すると、地区公民館活動において、環境をテーマにした活動はそれほど活発ではないことがわかった(調査時点)。結合型社会関係資本への接続度の高さが環境配慮度を規定する理由は、地区公民館活動等で環境をテーマにした地区レベルでの直接的な学習機会が多く、そこに結合型社会関係資本への接続が強い層が参加しているためではなく、結合型社会関係資本への接続による行政からの環境情報に接触する機会の多さ、結合型社会関係資本に強く接続する主体の社会的責任意識の高さ等に規定されている可能性が示唆される。
つまり、飯田市住民における環境配慮行動全般は、「地域環境力」のうちの関係性(結合型社会関係資本)が規定要因となっていることが確認できた。ただし、環境をテーマとしなく関係性であっても、環境配慮行動を規定する要因となっている可能性がある。
関係性(結合型社会関係資本)は、伝統的に地域で形成され、飯田市のような地区活動を重視する地域で維持・強化されていた。現在も結合型社会関係資本が維持されている地域では、その活用と維持が期待される。結合型社会関係資本が弱体化している地域では、橋渡し型社会関係資本の形成を図り、それを環境配慮行動の実施に繋げていくことが期待される。
なお、環境配慮行動の規定因として、「地域環境力」のうちの関係性について記述したが、環境配慮行動を実施するうえでの環境配慮行動の必要性や実施可能性、費用対効果等に関する理解や実施意図の形成、すなわち主体性は不可欠である。
② 環境施策等による「地域環境力」の形成
2009年に実施した住民アンケートでは、飯田市民の4割強が、「市民共同発電(おひさま進歩)」、「地域ぐるみ環境ISO・南信州いいむす21」、「飯田市環境基本計画」のいずれかの影響を受けているという結果であった。これらの環境施策等の影響有無と環境配慮行動の実施度や住宅用太陽光発電の設置意向等との規定関係は、3つの環境施策等によって異なる。飯田市環境基本計画の影響を受けた市民は、特に環境配慮行動の実施度を高めている。地域ぐるみ環境ISO等は20歳代にも影響を与えていることが特徴である。市民共同発電事業は総じて多くの世代に影響を与え、特に住宅用太陽光発電の設置意向を高めている。
環境施策等の実施主体でみると、飯田市環境基本計画は行政主導で市民参加を促したものであり、地域ぐるみ環境ISO等は企業主導のネットワーク、おひさま進歩はNPOあるいはコミュニティ・ビジネスという形態での事業である。すなわち、飯田市では、特性の異なる環境施策等が、実施主体を変えて導入され、異なる対象に訴求し、各活動内容に応じて、環境配慮意識・行動の形成や意図に結びついている。
これから明らかになったように、訴求対象や活動内容を変えた環境施策等を地域で積み重ねることで、「地域環境力」の拡張や強化を図ることができる。そして、高まった「地域環境力」を基盤にして、さらに別の環境活動を進めることができる。こうした相互作用のダイナミズムを形成する長期的な地域づくりを意図的に展開する地域環境施策が必要である。
なお、環境施策は、それにより「地域環境力」のうちの主体性を高めるとともに、環境施策への参加等を通じて、関係性を高めるという効果も期待できる。
③ 気候変動をテーマとする「地域環境力」の再構築
同じく2009年の住民アンケートを分析すると、飯田市の市民共同発電事業(おひさま進歩エネルギー)は、20歳代を除き、男女を問わずに幅広い年代の世代に認知され、影響を与えていることがわかる。また、飯田市の市民共同発電事業は、温暖化防止行動の共演性(おもしろさや周囲の活発性)の認知を高め、また住宅用太陽光発電の評価に関する認知を高めている。
これは、同事業が飯田市内162ヶ所の公共施設等の屋根に市民出資により太陽光発電を設置し、それによるデモンストレーション効果を得ているとともに、太陽光発電を設置した保育園等での環境教育にも力を入れているためである。
しかし、おひさま進歩の活動では、エネルギー教育を実施し、その成果を得ているものの、地球温暖化に関する学習活動を行い、それによる地球温暖化をテーマにした主体性の形成を図ってきたわけではない(これまでは)。
今後は、公民館や地域の企業、市民活動団体等が連携し、地球温暖化等をテーマにした学習会やワークショップを実施することが考えられる。この際、重要な点は、地球温暖化というグローバルな問題への取組を導入するうえで、それと地域の従来の活動目的との整合性や両立性を高めるような方向性を住民に示すことである。環境をテーマにした地域活性化、環境ISO等により正当性を確保した市内2地区の市民共同発電への出資が、この点の重要性を示唆する。
さらに、2012年に実施した住民アンケートをもとに分析し、2014年に試行を行った結果から、気候変動の現在影響の実感を入口として、地球温暖化の問題の自分事化を進める学習プログラムを展開することも有効であるといえる。この学習プログラムは、3つの点で重要である。
第一に気候変動は将来世代が被害を受ける問題ではなく、既に気候変動の被害が地域で顕在化しており、現在世代が被害を受ける問題であることを、地域住民が自ら調べ、共有する学習プログラムである。第二に、気候変動への緩和策だけでなく、適応策について学ぶものであり、「顕在化している影響には適応が必要であるが、適応にも限界があり、緩和が必要である」というように、緩和策への理解を深めることにつながる学習プログラムである。第三に、気候変動への緩和は他者に配慮するという利他的なものであるが、適応は自らの安全・安心のための利己的な行動であり、利己的な行動に関する学習の方が動機づけになりやすい。
気候変動の問題が地域課題化されずに、地域住民の主体的な取組みが不十分な状況は、環境先進都市である飯田市においてすら、そうなのであり、他地域ではさらに深刻な状況であると考えられる。しかし、「気候変動の地元学」と名付けた学習プログラムは、気候変動の影響が顕在化している他地域でも有効である。
以上