1)地域とは
地理学における地域概念として、等質地域と結節地域といったものがある。等質地域は性質が共通する空間の範囲であり、方言や文化等を同じくする範囲としての地域がこれに相当する。結節地域としては商圏や通勤・通学圏、あるいは流域圏等が相当し、人や資源等のやりとりにおいて異なる性質を持つ空間が結びついたものを指す。
この他、地域の捉え方は社会学や経済学によっても様々であり、分野共通の固定化された定義はないと考えられる。一般的にいえば、地域として捉える範囲の広がりも様々であり、アジア地域というように国境を越えた範囲を地域と呼ぶ場合もあれば、集落単位を指して地域と呼ぶ場合もある。
「新環境基本計画中間取りまとめ」で参照された「循環と共生を基調とする持続可能な地域のあり方検討会」(佐竹五六座長)の報告書(2000年)では、「持続可能性を基本とした地域づくりを行う上で、取組みに適した地域的なまとまりの考え方が不明確であることから、そうした地域づくりに適した基本的な単位となる範囲の考え方を、地域特性も踏まえつつ整理する必要がある。」として、「こうした地域的まとまりとしては、地域づくりの主体が自らの地域としてイメージできる範囲として、ある程度の生活経済圏、流域圏などのまとまりをもとに地域圏を設定することが考えられる。こうした地域圏は環境問題の構造ともかなり適合していると考えられ、環境問題を構造的に解決する上でも適していると考えられる。」と整理している。
この検討会では、主体の認知の側から地域を定義するとして明確な線引きを避けているものの、それが指している地域は都市と農山村を含む結節地域としてのまとまりである。
2)コミュニティについて
コミュニティの定義は地域以上に多彩であるが、山崎丈夫(2003)は、コミュニティの共通要素として「①地域性、②共同性(相互作用)、③社会的資源、生活環境施設の体系、④共通の行動を生み出す意識体系(程度)」を指摘している。そして、コミュニティは地域問題の解決を、安定や秩序の維持、知識・観念・信念等の伝達、ルールや規範の作成と施行、相互作用の機会提供等の役割を果たしており、「地域問題の解決機能を高めるためには、住民のつながりの強化による共同性をどれだけ取り戻せるかにかかっており、コミュニティ形成の現代的意義もそこにある」と指摘している。
コミュニティを理想として掲げる立場での定義としては、国民生活審議会調査部会報告(1969)がわかりやすい。同報告では、コミュニティを「生活の場において、市民としての自主性と自覚した個人及び家庭を構成主体として、地域性と各種の共通目標をもった、開放的でしかも構成員相互に信頼感のある集団」と定義した。同報告は、自治体や町内会の旧来の自治組織の課題を解消し、「市民としての自主性と責任を自覚した個人」を重視する未来志向の理想概念としてコミュニティを提示した。
その後、コミュニティという理想は、新たな組織形態として具現化されたのではなく、「自治会や各種の地縁的団体等が活動している現実実態」(金子、2008)に即して、旧来の地域活動等の実践課題として吸収されてきた。しかし、コミュニティの希薄化が進展している今日、理想が十分に実現しているとはいい難く、コミュニティは、社会が成熟してきた現在においても、地域活動が求めるべき目標となっている。
3)地域とコミュニティの関係
先に示した「循環と共生を基調とする持続可能な地域のあり方検討会」では、循環と共生という観点から地域を捉えようとしたが、それは主体のつながりやまとまりの範囲である「コミュニティ」と必ずしも一致しない。「あり方検討会」における地域は環境問題を解決するうえでの機能的な空間定義であり、コミュニティは人と人のつながりの範囲である。
本来まとまりとなるべき地域において、人と人のつながりが希薄になっている場合が多くなっている。つまり、持続可能な社会を築くうえで一体となった取組みを進めるべき、あるべき範囲である地域が、人と人のつながりであるコミュニティでなくなっているのである。
人と人のつながりの実態から地域を捉えるのではなく、そして、あるべき空間のまとまりを地域とした場合、その地域はコミュニティとなることが理想である。つまり、あるべき地域という空間範囲において、人と人のつながりが形成され、「市民としての自主性と自覚した個人及び家庭を構成主体として、地域性と各種の共通目標をもった、開放的でしかも構成員相互に信頼感のある集団」を形成することが望まれる。
つまり、地域とは持続可能な社会を築くうえで、まとまって取り組むべき空間の範囲であり、コミュニティとは地域における理想である。
3)持続可能な社会における地域の役割
持続可能な社会の原則を実現するうえで、地域からのボトムアップが必要である。これまでの国家主導のこれまでの対策に限界がある。地域というまとまりにおける取組みの重要性を、持続可能な社会の原則の実現という観点から整理してみる。
まず、「1.他者への配慮(時間軸、空間軸で継続・維持可能であること)」においては、地域資源の活用による資源・エネルギーの循環的活用が不可欠であり、バイオマスという再生可能資源の生産・消費を行う循環圏としての地域の形成が必要となる。もちろん、あらゆる資源・エネルギーを地域で賄うことは困難であり、地域間の融通は必要となるが、見えなくなりがちな外部に依存する前に、見えやすい地域内での融通を優先すべきである。
次に、「2・柔軟な適応の備え(多様なリスクに柔軟に対応できること、自然と折り合う備えがあること)」においても地域の自立が不可欠である。地域外への過剰な依存は、自然災害の発生時において、外部からの供給が断たれたときに、脆弱さを露呈することになる。
「3.主体の活力(人や組織が意識と意志を持ち、主体間の関係性を高めていること)」とは、まさに地域におけるコミュニティという理想の実現を意味する。マッキーバーは初期の著作「コミュニティ」において、コミュニティは「主体が地域に参加し、社会化を進め、学習し、成長する」場であると記した。主体の成長による自助力の向上、あるいは参加によって形成される関係性(互助)の形成が、持続可能性の基盤となる。
そして、持続可能な地域が各地で形成され、それらがネットワーク化され、連携し、地域間で波及していくことが、国や世界において持続可能な社会を実現するシナリオとなる。
参考文献:
国民生活審議会調査部会コミュニティ問題小委員会, (1969)
内閣府(2008)「平成19年版国民生活白書」第2章
山崎丈夫(2006)地域コミュニティ論―地域文献への協働の構図.自治体研社,283pp.
「コミュニティ-生活の場における人間性の回復」