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普及理論 ~普及の社会過程

2008年07月10日 | 環境イノベーションとその普及
 普及の時系列的な過程を研究する研究の対象は、大きく、次のように分類される。

(1)普及の社会過程(集団間過程)
(2)普及の個人間過程、個人過程
(3)普及の供給側の過程

 ここでは、(1)について、基本的な理論を説明する。


①ロジャースの普及理論

 エベレット・ロジャーズは、トウモロコシの新種等の普及過程を分析し、1962年に「イノベーションの普及学」という本を著した。

 ロジャーズは、新しいモノやコトを採用する時期の速さから、人々を、革新者(イノベータ)、初期採用者(アーリー・アダプター)、前期多数採用者(アーリー・マジョリティ)、後期多数採用者(レート・マジョリティ)、遅延者(ラガード)に分けている。

 革新者は、いわゆる“新しいもの好き”“目立ちたがり”で、冒険者である。その革新者の様子を見て、新しいモノやコトの良さを考えた上で、新しいモノやコトを採用するのが、初期採用者である。

 初期採用者は、新しい情報を常に入手している一方、社会的常識を持っている、尊敬される人々とされる。初期採用者が採用すると、周りの多くの人々も追随する。

 革新者は2~3%、初期採用者は10%強とされ、多数採用者は70%弱、遅延者は15%とされる。

 イノベーションは、革新者、初期採用者、多数採用者、遅延者といった社会を構成する人々のタイプの順に採用されること、また各々のタイプの比率はおおよそ決まっていることから、普及人数の推移はS字型の曲線になると説明される。

 また、ロジャースは、イノベーションの普及速度を、5つのイノベーション属性(相対的有利性、両立性、複雑性、試行可能性、観察可能性)によって説明している。

 つまり、イノベーション自体が普及条件を見たす場合に、普及速度は早く、満たさない場合に、普及速度は遅くなる。


②トリクル・ダウン・セオリー

 人間には同質化・差別化両方の欲求がある。上流階級が取り入れた誇示的消費が徐々に下流階級の同質化の願望により模倣され、それとは差別化を図りたい上流階級が新たなファッションを築き、それがまた模倣される、という情報の伝播形式が考えられた。

 これが、ドイツの社会学者G.ジンメル(1858-1918)が示したトリクル・ダウン・セオリー(trickle down: したたり落ちる)という、普及過程の古典的モデルである。

 宇野善康「普及学講義」によれば、日本の高度経済成長期において、高価な商品であった自動車、テレビ、クーラー等の普及には、トリクル・ダウン現象がみられたとされる。

 例えば、1950年代半ばからの「家庭電化ブーム」では、アメリカ的な生活の象徴としての電化製品が宣伝されていた。  

 現在では少なくなってきているが、ブランド物の流行や、芸能人のファッション等で、このタイプの情報伝達と流行が見られる。


③キャズム理論

 ジェフリー・ムーアが、ロジャーズの定理を進化させた理論がキャズム理論である。

 この理論では顧客グループの間にはクラック(隙間)があり、隣り合う顧客グループの間には不連続な関係があるという。

 つまり、ある顧客グループに対して、ベルカーブ上でその左に位置する顧客グループに対するのと同じ方法で製品が提示された場合には全く効果を発揮しない。それは、顧客グループによって製品を購入する目的が異なるからである。

 ジェフリー・ムーアは、「はじめに山ありき、やがて山はなく、そして山ありき。」と表現している。

 はじめの山は革新者と初期採用者が形成する初期市場があり、壮大な戦略的目標を達成するために多額の資金が投入されている。しかし、次第に山がなくなる。これがキャズムである。なぜならこの時期、有望なプロジェクトが初期市場で受け入れられるが、メインストリーム市場の顧客はその効用を見極めようとして動かないからである。

 初期市場での効用が認められれば、企業は無事にキャズムを超え、前期多数採用者と後期多数採用者によって形成されるメインストリーム市場が出現される。つまり、製品の市場が一般の顧客に開かれるのは、このキャズムを超えた後からということになる。

 この理論に基づけば、環境イノベーションについても、一般に普及させるためには、顧客グループ毎に販売戦略を変える必要がある。つまり、売り出し方、情報チャネル、そして、製品の使いやすさや信用度に関しても変えていく必要があるといえる。


参考文献)

E.M.ロジャース「イノベーション普及学」(1990)、産能大学
宇野善康「普及学講義」(1990)、有斐閣選書
Mieneke.W.H.Weeling「The Strength of Weak and Strong Communication Ties in a Community Information Program」(1993)、Journal of Applied Social Psychology
広瀬幸雄「環境と消費の社会心理学」(1995)、名古屋大学出版会
杉本徹雄「消費者理解のための心理学」(1997)、福村出版
中島純一「メディアと流行の心理」(1998)、金子書房
東京都「環境に配慮した商品等の製造・流通・消費に関する実態調査」(2001)
ジェフリームーア「キャズム」(2002)、翔泳社
伊藤修一郎「自治体政策過程の動態 政策イノベーションと波及」(2002)、慶応義塾大学出版会
杉浦淳吉「環境配慮の社会心理学」(2003)、ナカンシヤ出版
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