サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

トランジションタウンの活動から、環境政策が学ぶこと

2015年10月11日 | 環境イノベーションとその普及

1.トランジションタウンとは。

 トランジションタウンの運動は、2006年に、イギリスのトットネスで、ロブ・ホプキンスらにより、始められた。ロブ・ホプキンス(2013)が記し、長坂(2014)が指摘しているように、トランジションタウンの活動理念としては、1) 双子の危機(気候変動とピークオイル)、2) レジリエンス、3) リエコノミーとリローカリゼーションの3点が重要である。

 1つめの双子の危機は、活動を正当化する問題意識である。エネルギーの大量消費と枯渇性資源への過剰依存を根本とする点で、気候変動とピークオイルの問題を双子の危機と捉えている。

 2つめのレジリエンスについては、学術的には様々な定義がなされているが、ロブ・ホプキンス(2013)は、「ひとつのシステム-個人から経済全体までが持つシステム-が、変化や外部からの衝撃を受けたときに起こす機能を結合し維持する能力」と定義している。エネルギーの外部からの供給停止に対する対応力等がこれに相当する。

 3つめに、大量消費や枯渇性資源に依存する経済の再構成(リエコノミー)とそれを実現するための地域回帰(リローカリゼーション)を重視している。これらの理念は、第一次環境基本計画が記した「経済社会システムの在り方や生活様式を見直し」を、より変革的に(あるいは、従来の様式に対して、より代替的に)実施する方向を示している。

 また、問題認識やレジリエンスの概念が現在的であるが、エコノミーやリローカリゼーション等の概念は、1970年代以降に提唱されてきた適正技術や地域主義、内発的発展論等に通じるものである。新しいようでいて、歴史的な議論を踏まえている点(すなわち、これまでの理論が活かされている点)が、トランジションタウンの理念の特徴である。

 

2.日本国内のトランジションタウン

(1)活動の契機

 日本に、トランジションタウンの活動を持ち込んだ中心人物の一人が、榎本英剛氏である。同氏は、ロブ・ホプキンスのワークショップに参加して、仲間とともに、トランジションタウンを日本の地域で立ち上げることを目的に、2008年6月に、「トランジション・ジャパン」を発足させた。

 2008年に説明会を開始し、「ワールド・カフェ」や「オープンスペース・テクノロジー」という多くの人に発言機会を広げるワークショップ手法を用いて、東京中心そして全国に活動を広げていった。

 (2)活動地域

 トランジション・ジャパンの資料によれば、「2009年初めに、藤野、葉山、小金井の3地域から立ち上がり始め、トランジション・ジャパン発足から2年を経た2010年7月、日本でのトランジションタウン数は15」になったとされる。

 2015年8月現在、WEB、ブログ、fbの検索から、トランジションタウンと名がつく各地域の団体を数えると、全国で45団体にのぼる。東日本大震災以降、原発事故や停電等に対する意識の高まり、活動が広がったと考えられる。

 (3)活動内容

 各地域では、ワークショップを行い、その結果、あるテーマに対して興味のある人がある程度の数になったら、ワーキンググループ(以下、WG)を設置し、活動を始めるというスタイルをとっている。このため、活動は固定化されずに、常に変化している状態にあるが、調査時点で把握された活動を表1にまとめた。

  a.  食関連(持ち寄りごはん、発酵、パンづくり、畑、コンポスト、有機農業、養鶏)

  b.  エネルギー(非電化、自然エネルギー)

  c.  住まい(ガーデニング、リフォーム、竹小屋づくり)

  d.  森林整備(間伐)

  e.  教育(子育てサークル)

  f.  安全(防犯パトロール)

  g.  経済(地域通貨、コミュニティビジネス、マーケット、エコカフェ、エコツアー)

  h.  まちづくり(地域の基本構想提案、まちあるき)

  i.  健康・医療(セルフケア、アロマ&ハーブ、健康講座、整体ワークショップ)

  j.  心・精神(上映会、お話し会、講演会)

  k.  広報(インターネットラジオ)

 

3.トランジションタウンの活動から環境政策が学ぶこと

 トランジションタウンの活動は、ライフスタイル変革を創造し、環境配慮の普及の膠着を打開する可能性がある。

 特に、トランジションタウンから学ぶべきとして、1) 地域住民の主体性を重視すること、2) 高度技術ではなく、ソフトウエアやヒューマンウエアを重視すること、3) 脱依存という構造的な変革志向をもつこと、4) 先行する取組みの専門性を踏まえた創造性があること、5) 無理せずに楽しさを重視すること、6) コーディネイトのスキルが導入されていること、等があげられる。

 今後は、行政施策がトランジションタウンの活動から学ぶこと、連携による施策展開を検討することが期待される。この際、トランジションタウンの活動が本質的に持つ社会変革の志向性をどこまで、行政施策としてどのように受け止め、位置づけていくかが課題となる。この課題を解消することができるかどうかは地域の議論と選択に委ねることになるが、産業や生活のあり方の見直しの必要性に目を背けることなく、地域主体が将来の持続可能性を見据えた、しっかりとした議論を進める必要がある。

参考文献

ロブ・ホプキンス(2013)「トランジション・ハンドブック」城川桂子訳、第三書館

長坂寿久「リローカリゼーション(地域回帰)の時代へ(10)NGO のリローカル化運動(1):トランジションタウンの展開」、国際貿易と投資Spring 2014/No.95

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