サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

大きな林業と小さな林業を重ねる

2012年03月10日 | 環境と森林・林業

日本の林業の持続可能な発展のためには、スケールやスピードの異なる木材循環を重ねあわすことが必要だと考えている。重層を構成するいくつかのタイプの循環を紹介する。

(1)大きな森林循環(新生産システム)

 地球温暖化防止を追い風とする日本の林業であるが、戦後の住宅建設ブームのときに一斉に植林をされた森林が伐採適期を迎えている。このため、間伐をしれ、大きな木を育てたり、広葉樹等も含めた多様な森づくりが進められている。

 一方で、最も重要なことは、適期を迎えた森林を伐採し、住宅建材等の用途で利用することである-この建材用途の木材伐採を進めるうえで、課題となるが、木材の需要先の確保である。大手ハウスビルダーは量と質の安定供給を求めるが、日本の従来の林業ではそれができなかった。そのため、地域の林業を集約し、受発注を一元化して、大手ハウスビルダー向けの木材供給を進めようと始めたのが、2006年度からスタートした林野庁「新生産システム」である。この「新生産システム」は、林業、木材加工、木材流通、ハウスビルダー等の事業者を地域で束ねるものであり、地域コーディネイターの役割が需要となる。

 さて、「新生産システム」は、「大きな林業」を志向するものである。近代化が遅れた林業分野にとっては、必要な取組である。しかしながら、「新生産システム」にも課題がある。小規模な林業地ではどうしたらいいのか、それを切り捨てることにならないのか。また、木材を量や建材としての質だけで管理しようとすると、森林の持つ多面的な価値がなおざりにならないだろうか。森林を大切に思う消費者を育てるような取り組みを軽視していいのだろうか

(2) 小さな森林循環

 農業分野では市場を介さない産直が定着しているが、林業分野での「産直住宅」がある。「顔の見える木材の家づくり」とも言われ、林業家、木材加工、住宅建設、住宅設計等の関係者が小規模なグループをつくり、地域の木材を使って、地域の家をつくることにこだわった活動を、全国各地で行っている。年間に数棟、多いグループでも数百棟ぐらいの住宅供給を行うもので、「新生産システム」の大きな循環に対して、小さな循環を志向するものである。

 産直住宅の活動の特色はグループによって異なる面もあるが、今日する特徴は「顔の見える関係」を重視することである。家を建てたい施主には、森づくりの現場や製材工場、あるいは建築現場を見てもらうのである。かかわる人や実際の森林や木材が見える化され、信頼関係や親近感を持てること、それが産直住宅の付加価値となる。

 (3)山村コミュニティビジネス

 木材循環の方法は、産直住宅以外にもさらに多様に存在する。例えば、林野庁「山村再生総合対策事業」では、木材や森林、山村の価値を高め、活かすような地域での取組みの計画づくりや実践を支援してきた。

 この一環で、「軽トラックと地域通貨による林業」の導入事業が支援された。間伐材を1.5m程度に切り、人の手と簡易なキットで搬出し、軽トラックで運び、チップにして、エネルギー利用するというシステムを導入していた。木材を伐採し、搬出するのは地域の小規模林家で、ストックヤードまで、軽トラックで木材を運ぶと、「モリ券」がもらえ、その券は地域内の商店で利用することができるのである。こうした試みは、「コミュニティ林業」と言ってもよいだろう。

 また、「山村再生総合対策事業」では、木材を使った家具づくりやカバン、うちわづくり等も支援対象となった。また、森林のもつ癒し機能を最大限に活かして、森林の散策や山村の雰囲気を楽しんでもらう森林セラピー事業も支援対象とした。こうした事業もまた、森林資源のもつ多面的な働きを活かすうえで、山村住民同士、あるいが山村と都市の人のつながりを高めることを重視しており、「山村コミュニティ・ビジネス」ともいえる試みである。

 先に示した「大きな森林循環」は、木材の量をまわすうえで必要な取組みである。しかし、「大きな森林循環」だけでは、日本各地の森林や山村が活かされるものではない。「コミュニティ林業」や「山村コミュニティ・ビジネス」がさらに全国各地で数多く展開され、大中小と様々な木材循環を形成することが目指すべき方向である。「小さな森林循環」を「大きな森林循環」を補完する仕組みとして位置づけ、全国各地に普及させることが期待される。また、地域づくりという観点からいえば、「小さな森林循環」は、「大きな循環」の代替や補完に位置づけられるものではなく、むしろ王道をいく方法であり、「大きな森林循環」はそれに学ぶことが必要である。

 なお、林野庁「山村再生総合対策事業」は事業仕分けにより、2010年度に終了している。「小さな森林循環」や山村文化が持つ意味を再考し、山村再生をテーマとする施策を再構築することが必要ではないだろうか。

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