サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

企業CSRと環境教育

2008年01月14日 | 環境と教育・人づくり
はじめに

 CSRの一環として、企業における環境教育活動がある。自社の事業活動及び消費(使用)・廃棄過程に伴う環境負荷の削減を図るために、従業員あるいは様々なステイクホルダーの環境に関する意識の向上、あるいは広範かつ専門的な知識の習得、行動の実践を組織的に行うものである。加えて、NPO活動の支援など、いわゆる社会貢献活動として、企業が関与する環境学習もある。
 地球温暖化、廃棄物問題等といった今日的な環境問題の解決のためには、国民一人ひとりの参加が不可欠となっている。それゆえに、企業がステイクホルダーと連携して、多様な環境教育を展開することは意義深い。


1.企業の環境学習活動の意義

1)環境教育推進法

 2003年7月には、「環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律」が制定された。事業者に係る記載は第十条(職場における環境保全の意欲の増進及び環境教育)にあり、従業員の環境教育を努力義務としている。この法律は
環境教育と企業の関わりについて、極めて限定的な側面を記している。

【「環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律」】

第十条 事業者及び国民の組織する民間の団体(次項及び第二十三条第一項において「民間団体」という。)、事業者、国並びに地方公共団体は、その雇用する者に対し、環境の保全に関する知識及び技能を向上させるために必要な環境保全の意欲の増進又は環境教育を行うよう努めるものとする。


2)わが国における「国連持続可能な開発のための教育の10年」実施計画

 2002年12月の国連総会において、2005年から2014年までの10年間を「国連持続可能な開発のための教育の10年」とすることが決議された。これを受けて日本政府は 2006年3月にその国内実施計画を策定した。その中で、事業者に期待される取組・役割を次のように記述している。

・環境、経済、社会の三つの要素を基盤として、国内外において持続可能な開発に合致し、さらには、それを強化する形や内容の事業活動を行う。

・企業内教育に「持続可能な開発のための教育」を取り入れる。

・事業者が持つ様々なネットワークを通じて、ノウハウの拡大を図る。

・学校、社会教育施設、NPO、地方公共団体など多様な主体と連携し、地域活動等に協力する。

・専門性をいかして、学校教育、社会教育、地域活動等へ人材を提供する。また、教育現場で活用できる「持続可能な開発のための教育」に関する開発を行う。さらに、土地や施設を提供し、活用する。


2.企業の環境教育において注目すべき事例

 注目すべき具体的な環境教育事業を紹介する。

1)あらゆる従業員の環境配慮を促す
 
■事例 家族ぐるみの従業員教育

 荏原製作所では、従業員が家族とともに「家庭版14001」を実践する「荏原エコファミリー制度」を実施している。家族を巻き込む方法は、会社を通じて従業員家族にも環境学習を広げるという点、またとかく座学になりがちな教育を、生活実践的なものとしている点で注目される。
 
2)パートナー(NPO)と連携により、効果的に事業を行うこと

■事例 パートナーシィップによる本格的な展開

 トヨタ自動車が社会貢献活動として実施してきた「トヨタの森」プロジェクトでも、様々な主体との連携が図られている。例えば、1998年~2004年までに実施された一般向けの環境教育プログラム「エコのもりセミナー」は、日本環境教育フォーラムとの共催で開催されていた。 

3)経営資源を上手く活用する
  
■事例 小売業の店舗見学

 小売業で店舗見学では、ファミリーマートの報告が注目される。同社では、仙台市内の店舗において、山形県の小学生の受け入れを行った。この際、社内環境推進部で作成した「こども環境報告書2004」をテキストして、同社の環境活動を紹介したという。
 
4)商品・サービスを通じた環境教育

■事例 グリーンコンシューマ運動への企業の参加

 ジェーシービーが中部リサイクルとの協働により「E'sカード」を実施している。これはグリーン・コンシューマーとグリーン・カンパニーを支援することを目的とする。カードで買い物した金額の0.3%がグリーンコンシューマーの活動支援や名古屋市のごみ減量基金として活用される。また、カードの利用金額に応じてポイントがもらえ、環境に配慮した店として登録されたところで買い物に利用できる。
 
■事例 本業そのものに環境教育事業の組み込み

 鉄道会社等の多くがエコツアーを実施している。京急行電鉄株式会社、東日本旅客鉄道など、エコツアーを興行する企業は多いが、しっかりとした環境教育の哲学をもち、成果目標をきちんと定めた企画・運営が期待される。エコツアーは鉄道会社の商品であり、鉄道会社自体が環境教育をビジネスにしているのである。


3.企業と環境教育の課題と展望

・行政やNPOが主導する環境教育では、とかく経済事業に踏み込みにくく、建前ごとにもなりやすい。その意味でも、経済社会と環境との調和に配慮する企業が参加すれば、より実践的、体験的な環境教育事業の展開が可能となる。

・企業は「社会貢献活動の一部として環境教育事業も実施している」というのではなく、本業の持続可能性を高める生命線として、環境教育に本腰を入れることが望まれる。地球温暖化や資源・エネルギーの枯渇問題への対応をリードする人づくり無くして、企業経営の長期的な存続は困難である。

・従業員の環境教育にせよ、環境教育に係る社会貢献活動にせよ、大企業が先行している状況ではある。しかし、地域での清掃活動やコミュニティでのイベント等に対して、積極的に関与している中小企業は多い。こうした中小企業が、コミュニティでの活動を通じて、人づくりを展開していくことも期待される。


[参考文献]

サステイナビリティ・コミュニケーション・ネットワーク「CSRの本質と現状」(2004年10月)
社団法人日本経済団体連合会「2005年度社会貢献活動実績調査結果」(2006年12月)
社団法人経済同友会「日本企業のCSR:進捗と展望」(2006年5月)
社団法人経済同友会「「市場の進化」と社会的責任経営」(2003年3月)
環境省「環境にやさしい企業行動調査」
東京都「東京都環境学習マニュアル(事業者編)」(1995年)


(東海大学藤田盛吉教授との共著にて、ビオシティに掲載した原稿を一部修正)
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