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「外からの危機」と「内からの危機」
産業革命による機械の利用や石油燃料の利用等により、世界経済は成長を続けてきた。その恩恵で、私達の暮らしは便利で、快適で、豊かなものになってきた。しかし、その一方で、今日の暮らしを損なう恐れのある大きな危機に直面している。
私達の暮らしを取り巻く危機には、2つの側面がある。1つは、人類に襲いかかる「外からの危機」の増大である。温室効果ガスの増加による地球温暖化、石油等の化石燃料の価格高騰と枯渇、さらには食糧不足や水や希少金属といった資源の不足等である。これらの問題は、将来のことではなく、既に進行している問題である。地球温暖化については、IPCCの第5次報告書(2013年9月末)では、1980年以降の年平均気温が過去に比べて、明らかに高温であることを示している。つまり、温室効果ガスによる地球上での気温上昇は既に始まっている。
もう1つは、外からの危機に対抗する「内なる危機」である。自らの食糧やエネルギーを生産・調達していた時代と比べると、私たちの暮らしはあまりに多くを外部に依存している。このため、外からの水やエネルギー、食糧等の供給がストップすると、暮らしの維持が直ぐに困難になってしまうだろう。東日本大震災やその後の原子力事故、近年の増発している洪水、あるいは今後も可能性がないとは言えない産油国の政情不安による石油供給の停止等を考えると、私の暮らしはあまりに脆い状態にある。少子高齢化や過疎化、あるいは近所づきあいの低下等により、地域で支え合う力が低下していることも、「内なる危機」である。
危機が増幅する現代社会
私達の暮らしを取り巻く「外からの危機」には様々なものがある。危機をもたらす出来事を災害ということができるが、災害には、地震や感染症、台風や竜巻、熱波等のようないわゆる自然災害と言われるものと、環境汚染や交通事故、停電等のように人為災害とよばれるものがある。
地球温暖化やエネルギー需給のひっ迫、戦争、貧困等は相互に関連し、様々な被害をもたらす可能性があるため、複合的な災害ということができる。地球温暖化は、台風や竜巻による洪水、土砂崩れ、猛暑による熱中症など、従来からある災害ではあるが、それらの被害を増幅させる。つまり、「外からの危機」の自然災害のうち、地震や火山噴火等は人間活動によってその危機が増大することはないが、自然災害であっても、気象災害や土砂災害は、人間活動による温室効果ガスの増加、すなわち地球温暖化により、ますます狂暴なものとなる可能性がある。
人為災害については、様々な対策が進められており、甚大な健康被害をもたらす環境汚染の改善や自動車事故死亡者数の減少等、今後もそれらの危険は小さくなるようにもみえる。しかし、中国における産業活動の活発化、石炭利用や環境対策の遅れにより、PM2・5等の大気汚染物質が日本に飛来する。資源・エネルギーの枯渇や価格高騰等も、日本における努力だけで解決できるわけではなく、開発途上国の成長により、ますます需要が増大し、供給が追い付かなくなる可能性がある。1970年代に経験したように、いつまた石油危機が起こるとは限らない。
そして、「内なる危機」は、今後もますます増幅する可能性がある。省エネ家電やLED照明等のエネルギー消費量の少ない製品が利用されるようになってきているもの、家の中の家電製品の数はますます増え、エネルギーを大量に使う便利で快適な暮らしにどっぷりと浸かっている。
都市部では、近隣であいさつをしない関係が当たり前になり、自治会や町内会への加入率も低下し、近所関係はますます希薄化している。都市部であっても、高齢化が進み、近隣での互助関係がないなかで、単独あるいは夫婦二人で暮らす高齢者世帯が増えている。地方では、人口流出が進み、残された高齢者たちが頑張っているが、マンパワーの弱体化は否めない。
今後の私達の暮らしを考えたとき、「外からの危機」と「内なる危機」のどちらも進行していく恐れがある。私たちは、こうした危機だからの暮らしの中で、如何に危機を減らしていくか、そして避けられない危機に如何に備えていくか、そのために何をすべきかが問われている。
危機に対処し、危機を回避する再生可能エネルギーへの期待
近年、再生可能エネルギーが注目されてきた背景には、①地球温暖化対策の進展、②エネルギー危機への対応、③地域や暮らしの活性化への期待がある。
再生可能エネルギーは、温室効果ガスを排出する化石燃料を発生しないため、地球温暖化防止に貢献する。
石炭、石油、天然ガス等の日本国内の外部から調達する枯渇の恐れにある化石資源に依存していると、産出国からの供給が停まった時に産業や暮らしに大きな支障が生じ、それへの備えとして、エネルギー構成を多様化する必要があり、その一つとして再生可能エネルギーが求められる。また、外部からのエネルギー供給が停止したとき、自前のエネルギーとして、再生可能エネルギーが必要となる。資源貧国とみなされがちな日本だが、太陽光・熱や水の流れ、木質バイオマス資源は国内にある貴重なエネルギー資源である。個人の暮らしでいえば、停電等の非常時でも使える防災対応のエネルギーとして、再生可能エネルギーがある。
地域や暮らしの活性化という観点での再生可能エネルギーへの期待の高まりも見逃せない。地域にあるエネルギーを利用した発電を行うことで、地域経済の活性化や雇用創出が期待される。また、自分たちのエネルギーを自分たちでつくり、自分たちで利用することによる、地域内でのコミュニティの活性化やひとりひとりの心の活性化もある。
「外からの危機」と「内なる危機」の観点からいうと、①地球温暖化対策の進展は「外からの危機」の回避、②エネルギー危機への対応は「外からの危機」への対処、③地域活性化への期待は「内なる危機」の改善として捉えることができる。
再生可能エネルギーの普及により化石燃料の使用量を減らし、温室効果ガスの排出を減らすことで、地球温暖化という「外からの危機」を回避することが期待される。
そして、再生可能エネルギーという国内資源を使うことでエネルギー調達先を多様化させ、国レベルのエネルギー・セキュリティを高め、「外からの危機」に対処することができる。また、地域や個人で再生可能エネルギーによる自給を進めることで、地域や個人が、災害時のエネルギー停止という「外からの危機」に対処する。
再生可能エネルギーによる地域や暮らしの活性化とは、まさしく地域における住民の意識や住民同士のつながりを高めることであり、そのことは「内なる危機」を改善することに他ならない。再生可能エネルギーの普及において、大企業が大規模なメガソーラー等を設置するだけでは、この「内なる危機」の改善をすることができない。再生可能エネルギーに様々な方法で、住民が関わることにより、この「内なる危機」を改善することができる