未来において都市に人が住みづけるとは限らない。戦後の高度経済成長期に、農山村から都市へ多くの人が移住したのは、教育や職場を求めたためだが、情報通信技術の進歩により空間制約が解消されることで、都市でなくも高等教育や仕事をすることが可能となる。
自然との距離が近く、自給自足も可能で生活コストが安い地方で、都市と同様あるいはそれ以上の仕事ができるならば、地方に移住する人も増えることと考えられる。それに対して、都市の側面は流出者を抑える如何なる魅力が発揮できるかが問われることになる。
マルチハビテーションの多様なタイプ
都市と地方のどちらに人が住むのか、その決着がどのようにつくかは別にして、居住の選択肢が増えることは確かなことだ。その場合、居住場所は一つとは限らない。活動シーンや時間によって、複数の居住地を利用することが考えられる。ここで住み分けを行う時間のスケールの取り方には幅がある。人生のライフステージによる住み分け、平日と週末・休日での住み分け、あるいは季節での住み分け等が考えられる。
人生のライフステージにおける住み分けでは、老後における地方あるいは海外への移住等がある。平日の週末・休日の住み分けでは、平日は都市に暮らし、休日は自然の中のセカンドハウスで暮らすというパターンがある。しかし、費用負担を考えると都市と地方の2つの居住拠点を所有できる人が限られる。そこで、どちらかの居住拠点を集住型にすることも考えられる。
マルチハビテーション者専用の都心の賃貸住宅、あるいは地方の賃貸セカンドハウス等の供給が考えられる。また、都市と地方の居住拠点をセットにして分譲・供給するような事業もあるだろう。既に、独立行政法人都市再生機構(旧都市整備公団)では、「マルチハビテーション制度」として、都市部の賃貸マンションをより効率的に運用するために、居住者が別な場所に自分の家を持っていても利用でき、いわゆる「セカンドハウス」として借りることができるようにしている。
「夏山冬都市」・季節による住み分け
季節によって住む場所を変えるスタイルとして、「夏山冬里」と呼ばれるスタイルがあるす。夏は涼しい山に暮らし、冬は豪雪等の厳しさをさけて里に暮らすという高齢化が進んだ山間集落等の二拠点居住である。
都市の側から見た場合、ヒートアイランド及び地球温暖化による気温上昇やゲリラ豪雨の増加がますます懸念される。そうした夏の猛暑を避け、涼しい土地に居住したり、あるいはそこで仕事をするスタイルがますます増加する可能性がある。つまり、「夏山冬都市」である。通年で居住しないことを前提とした都市づくり、ライフスタイルも非現実的なことではないように思う。