自民党が、昨年作成していた国土強靱化基本法案を見てみた。
次の3つの基本方針が示されて、それに対応して基本施策が列挙されている。
1.経済等における過度の効率性の追求の結果としての一極集中、国土の脆弱性の是正
2.地域間交流・連携の促進、特性を生かした地域振興、地域社会の活性化、定住の促進
3.大規模災害の未然防止、発生時の被害拡大の防止、国家社会機能の代替性の確保
1と2の施策は、なつかしく、どこかで見たような内容である。そう、第四次国土総合開発計画である。それに防災や減災のための国土基盤整備を付け足している。
これを見てわかることは、大震災復興を付加することで、かつてやっていた全国総合開発計画が国土開発を主導する時代、日本列島を改造することで景気が活性化する時代を、復活させるようという想いが込められてるということだ。
あまり情報がないので、ここでは詳しく論じる材料はないが、直感的に思うこととして、4点ほど、論点を提示しておきたい。
1つは、災害に強い国土というが、どのような災害(リスク)を想定するのかという点である。地震、津波や原発事故といった目の当りにある問題だけに囚われすぎていないだろうか。国土をとりまくリスクは、エネルギーセキュリティ、温暖化に起因する気候変動(高温化、豪雨、異常気象)等も課題であるし、リスクの範囲を広げ、その根本にある要因を明らかにしていく作業が必要である。
2つめは、どのように強靭にするかという点である。全国総合開発計画(第三次計画を除く)と合体することで行われる強靭な国土づくりは、どうしてもハードウエアを優先するものであった。言葉としては人づくりとか書かれていたと思うが、ソフトウエア(制度)やヒューマンウエア(主体の意識や関係性)の重要性をきちんと理解して、強靭という目的に見合う必要な手段を選択できるようにしてほしい。ハードウエアを整備することを前提にして、強靭を実現することを考えてはいけない。その結果、巨大は防波堤ばかりになり、その維持管理費がかさむ、強靭を維持するために景気対策を打ちづけなければならない、強靭どころか逆に脆く、危なっかしい社会になってしまうのではないか。
3つめ。そもそも、「強靭」という言葉がよくない。強靭というのは、どんな強い外力があってもそれを跳ね返すというイメージが強い。あらゆる自然外力を跳ね返せると思うことは思い上がりで、防ぎきれないレベルがあることを前提にしなければならない。減災という視点がまさにそうである。そのような視点があるのであれば、「強靭」ではなく、「柔軟」や「順応」、「適応」等といった言葉がキーワードとなるはずである。なんでもかんでも跳ね返すことでなく、しなやかたに、多様な選択肢を合理的に用意しておくことが必要だろう。
4つめ。中央や政治、経済(大企業)の主導で国土開発をしてきたことが、国土さらにはそれと密接な関係にある社会経済システムを脆くさせているのではなかったか。筆者は、スマートシティや環境未来都市づくりも住民不在のところで実験的に進めることに問題や限界があると指摘しているが、国土強靭の視点も住民不在を感じる。もっと国民と同じ土俵で議論することが必要である。そうするために、国土開発計画は第5次で終了したのであるし、その時にまた戻ることは、明らかに時計の逆回しになる。
まとめると、災害対策を国土構造を根本から変える方向で行うことは望まれる、しかし、「国土強靭化」でなく、「柔軟な国土リスク管理」の思想をきちんと持たないと、目先の景気対策としてはよくとも、その先には持続可能でない国土が待っているだけのように思われる。被災地の復興は急ぐ必要があるが、国土づくりについては、もっとじっくりと国民的議論を行うプロセスが大事である。そうしたプロセスを丁寧に行うことで、国民意識におけるレジリエンスが高まるのである。