阪神大震災、中越大地震、そして東日本大震災といった自然災害の経験を経て、環境政策は自然災害リスクへの対応と.の統合という側面にも踏み出してきている。
環境問題における発生源の不特定多数化、グローバル化が進行してきている今日、環境配慮は自分以外の他者(将来世代、他地域、他生物等)へのつけ回しを改善する利他的な側面が強くなっている。一方、自然災害や原発事故による放射能汚染等のリスク問題は、他者配慮どころか、自らが甚大な被害をもたらす、利己的な側面が強い問題である。このように、環境問題とリスク問題は本来、異なる性質を持つが、これらの統合の動きは4つの側面に要約できよう。
1つは、環境リスクとして環境政策で扱う範囲の拡張である。化学物質のリスクは、食品公害のように食品を介する場合は食品行政の対象となるが、一度、環境中に排出されたのち、環境を媒介として人体に影響を与える場合は環境政策の対象である。この意味で、典型7公害、化学物質といった環境リスクは、もともと環境政策の領域にあった。その環境リスクが原子力発電の事故による放射能汚染、放射性廃棄物等の問題に拡張されてきたのが近年の動きである。
2つめは、環境対策が自然災害リスクの影響を受ける場合である。地震災害時の廃棄物やし尿処理等の環境インフラの体制整備、被災後の回復を早めるための検討が課題となってきている。東日本大震災の際には、原子力発電所の事故やそれに伴う停電等の影響が広域的、複合的に発生した。放射性物質の下水処理場での濃縮、ごみ焼却場の焼却灰への濃縮等が課題になった。また、停電の影響から、ごみ焼却施設が稼働できかった地域もあり、環境インフラのリスク管理の必要性がクローズアップされた。
3つめは、エネルギー問題と環境問題の統合である。エネルギー政策は人間活動への入口問題としてエネルギーの枯渇やエネルギーセキュリティの確保といったリスク管理を課題してきたが、地球温暖化のクローズアップにより、石油や石炭等の化石燃料使用による二酸化炭素の排出が課題となり、出口問題ともなってきた。地域においても、電力の自由化の流れや地域資源を活用する再生可能エネルギー事業の活発化もあり、エネルギー政策を扱う地域が増えてきた。
4つめは、環境負荷の抑制という「緩和策」だけでは問題が回避できない影響があることが明確になってきたため、影響を受ける側で防御・軽減しようとする「適応策」が必要な問題が出てきた。地球温暖化による気候変動の問題がこれにあたる。猛暑日の増加、豪雨の頻繁化等のように、気候変動の影響が既に顕在化しつつあり、温室効果ガスの排出削減という「緩和策」の効果もすぐには期待できないことから、水災害、水質悪化、農業被害、自然生態系変化、健康被害に対する「適応策」の必要性が指摘されてきたのである。