サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

インフラストラクチャー(国土基盤)におけるリスク管理責任

2013年03月18日 | リスクマネジメント

 政策的な議論をする場合、インフラストラクチャーに相当する日本語は、国土基盤あるいは社会資本であろう。私の記憶によれば、国土基盤は旧国土庁の用語で、社会資本は旧経済企画庁の用語である。両方とも、道路・橋梁・空港・港湾等の交通基盤、公園・緑地、医療・福祉・教育施設、情報通信等を指すが、国土基盤の方が民間住宅を含める分だけ、社会資本より広い範囲を対象にしていたと思う。ここでは、用語の厳密な定義は別の機会に行うとして、インフラストラクチャーをインフラと表記し、国土基盤や社会資本と同義のものとして記述する。

 

 さて、(国土基盤や社会資本としての)インフラの社会的責任には様々な側面があるだろうが、3つの側面を確認しておく。1つは、それが提供するサービスを享受する主体が不特定多数で公益性が高く、サービスの提供主体の社会的責任が大きいことである。2つめに、その社会的責任の一環として、公平性を保証するため、サービスを受けにくい弱者への配慮を行う必要がある。3つめに、インフラは耐用年数が長いことが特徴であり、長期にわたって維持管理を行う必要がある。

 

 一方、インフラは公益性が高く、かつ排除不可能性が高い(利用者を限定し、料金徴収が困難)こと、また事業主体の競合性が低く、独占性が高いという傾向がある。このため、民間ではなく、公共が整備・運営をせざるを得ないとされてきたが、行財政の効率化が求められるなか、インフラであっても民営化を押し進められてきた。しかし、公益性が高い点において、民間事業者が供給主体となったとしても、公益性や長期の維持管理を担保するための責任があることに変わりはないだろう。

 

 前置きが長くなったが、言いたいことは、近年の傾向として、インフラストラクチャーが単なるハードウエア(施設や設備)として捉えられ、国土基盤あるいは社会資本としての役割を忘れつつあるように見えるということである。民営化とも相まって、不特定多数に対する社会的責任、弱者への配慮、長期的な維持管理等への配慮が、おざなりにされていることはないだろうか。民営化がなされたとしても、社会的責任の大きさに変わりはないはずである。

 

 以上のことを書いた理由は、高速道路のトンネルの天井落下事故があり、インフラの維持管理・更新問題が注目されたからである。この問題に新たに気づいたからではなく、この問題はかなり昔から指摘されてきたのに、それでも事故が起きてしまったからである。例えば、旧国土庁は何度かにわたり、インフラの維持管理や更新の需要の将来予測を行い、国土の荒廃を危惧するメッセージを発信していた。問題をわかっていながら、国土基盤・社会資本であることの責任を果たしていなかったように思える。

 

 今後は、一時期に集中的に整備されたインフラの更新需要の発生、人口減少や低成長時代における行財政予算の制約、インフラの利用者の減少による収入低下、あるいは気候変動の進展やエネルギーの価格高騰や枯渇などが予測される。これらの予測の確実性は高い。目先のことが優先であるということでは済まされない。予測された未来は確実に現実のこととなってくる。こうした長期リスクへの備えを、インフラを担う民間事業者は怠ってはならないはずだ。インフラとは、単なるハードウエアではなく、国土基盤あるいは社会資本であるのだから。

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