ウルリヒ・ベッグは、「危険社会」(1986)において、「社会がリスクの根源を外部に求めることができなくなっており、自らの在り方と対峙せざるを得なくなっている」とし、「現代社会はリスクそのものである」と記述している。
直感的に同感する人は多いだろう。筆者もその一人であるが、このことの意味を再考してみよう。まず、現代社会が掲げているリスクにはどのようなものがあるだろうか。ここでは、災害の潜在的な可能性をリスクと呼ぶ。
災害対策基本法では、第二条1項において、災害とは「暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、地震、津波、噴火、地滑りその他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害」と定義している。さらに、増野(2007)らの災害分類を踏まえ、私見を追加して、次のようなリスクの分類を提示することができる。
1)地域・自然災害リスク
- 水気象災害(台風や竜巻等の暴風雨・水災害、地滑り・土砂災害、渇水等の水資源災害、猛暑や豪雪・凍霜害の気象災害)
- 地学的災害(地震、津波、火山噴火)
- 生物災害(病原菌による感染症、鳥獣被害)
2)地域・人為災害リスク
- 公害(大気汚染や水質汚濁、地盤沈下、水質汚濁、騒音、振動等)
- 火災(住宅火災、大規模火災)
- 放射線災害(原子力発電事故、放射線障害等)
- 産業災害(工場爆発、職業病・労働災害)
- 交通災害(自動車、飛行機等の事故)
- 情報災害(情報漏えい、情報システムダウン)
3)グローバル・複合リスク
- 気候変動(温室効果ガスの増加に伴う気温上昇、降水分布の変化等)
- 資源・エネルギーの枯渇問題(食料の不足・高騰、エネルギーの不足・供給停止)
- 人口・貧困問題(開発途上国の人口爆発、先進国の人口減少)
- 戦争・紛争
- その他複合災害
以上は、災害の原因の人為性やその原因からみたリスクの分類である。さて、この分類をもとに、、「現代社会はリスクそのものである」ことを具体的に考えてみよう。
人為災害は、現代の生活や産業、社会経済システムの個別要素にリスクが潜んでいるから、現代社会そのものがリスクであるという言説は直接的に当てはまる。そして、人為的なリスク要因が増大しているというだけではない。リスク要因の規模が大きいいこと、リスク要因が複雑に絡み合っており連鎖的に被害が増幅すること、地域外に依存する地域が多く、地域内部だけなく、他地域のリスクの連鎖を受けやすいことなども、巨大化やグローバル化、外部依存化が進む現代社会ゆえにリスクが大きい側面である。
さらに、自然災害もまた、自然要因だけでなく、社会経済的な要因がリスクを増大させている。なぜなら、自然災害という外力による被害は、外力の大きさだけでなく、それに対する抵抗力(レジリエンス)といった人間側の要因で大きくもなり、小さくもなる。例えば、都市では、コミュニティにおける互助力の低下が被害を増大させるだろう。人や物の交流量が多くなることで感染症の伝搬範囲や速度が拡大したり、特定の換金作物に依存する画一的な農業は気候被害が壊滅的な現象となるだろう。また、自然災害についても、社会経済的システムの連鎖による二次的災害の可能性がある。
このように、人為的災害のみならず、自然災害も含めて、現代社会の根幹的なところがリスクを顕在化する大きな要因となっているのである。特に、地震や津波への防御的対策をもって、国土強靭化が進めらているところであるが、リスクは外から攻めてくるものではなく、内に改善すべき点があることを踏まえて、社会経済を変えていくような強靭化~社会経済強靭化、の視点をもっと強く意識した政策が必要なのだと思う。
最期に。
温室効果ガスに起因する気候変動(地球温暖化)のことを。気候変動は、先の分類でいえば、災害形態は自然災害であるが、原因は人為である。人為が自然システムを変えるほどに大きな要因となっているというものであり、これまでの災害分類に当てはまらないことになる。
また、災害は、被害・影響が発生するスピード・期間から、地震や竜巻等のように突発的な急性リスク、台風や火山噴火のように警報を出すことが可能な亜急性リスク、干ばつや飢饉などは被害の発生までの経過が長い慢性リスクに分類される。気候変動の影響は長期的に進行するものであるが、平均気温がゆるやかに上昇するというだけでなく、豪雨や猛暑等の極端現象の振れ幅や頻度が大きくなるという形でも進行する。この意味では、急性リスクや亜急性リスクの増大という側面を持つ。よく気候変動を慢性リスクに分類している場合があるが、そうした単純な分類で気候変動を捉えてはならない。
参考文献)増野園恵ら(2007)「編:災害看護学習テキスト 概論編」、日本看護協会出版会