サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

低炭素都市を目指すために、地域で共有すべきこと

2009年02月01日 | 気候変動緩和・低炭素社会
写真:ロウバイ


仙台市庁内の低炭素都市の勉強会に、関連調査の委託先として参加した。参加者は、関連部署の課長補佐、係長クラス、30名程度。私の役目は、低炭素都市(環境モデル)都市の動向と参考にすべき取組事例を紹介する講師だった。

まず、低炭素都市に係る業務の担当係長が、地球温暖化に関する現象、影響、対策等の知見等を説明した。聞いていて、地球温暖化に対する施策(行動)を促すための説明は難しいなと感じた。

私自身も、国分寺市の依頼で、市民向けに地球温暖化に関する講師を務めたことがあるが、地球温暖化に対する施策(行動)の必要性を本気で捉えていない人に、論理的な説明をするのは大変だと思ったことがある。仙台市においては、例えば、次のような点の説明が難しい。

1.問題の所在:地球温暖化は仙台市にどのような影響を与えるのか。

・東京等ではヒートアイランドと地球温暖化のダブルの影響で、猛暑が厳しいという実感を持ちやすい。しかし、比較的に夏すごしやすい仙台市では、むしろ冬に暖かくなるのは好ましいと受け取られることがあるだろう。

・仙台市内の地球温暖化防止指導員の方は、宮城のおいしいコメがとれなくなる等という説明をしているというが、温暖化に適応する品種への移行がなされるだろう。

・やはり、将来世代への影響、開発途上国等の脆弱な地域への影響を説明すべきであるが、現在世代、自分の住む地域、今の暮らしへの影響を問う世代には、影響の深刻さが十分に伝わらない。

・地域における地球温暖化防止対策を考える際、地球温暖化が地域にどのような影響を与えるのか、他地域への影響に対してどのような方針で臨むかという2点について、認識共有を深めることが必要である。


2.対策の有効性:仙台市での対策は本当に有効なのか・無駄にならないのか

・開発途上国からの二酸化炭素排出量は、現状でも半分程度であり、人口増加と経済成長を前提とすれば、先進国が対策を実施し、排出量の半減、あるいは7~8割削減を実現したとしても、地球全体の温暖化は止められない。このため、開発途上国の本格的な対策が望まれるが、本当にできるのかという懸念が生じる。「地域レベルで頑張っても、他の主体が頑張らないかぎり、無駄になるのではないか」というジレンマが、本気さを損なうこととなる。

・これに対して、かつて「後悔しない対策」という考え方が提示されたことがある。対策を実施しても、地球温暖化が進行することもあり得るが、その場合でも対策を実施したことを後悔しないように、地球温暖化防止以外にも意味がある対策を実施しようという考え方であった。地球においても、ずる賢さが必要である。

・もちろん、囚人のジレンマに陥らないような、情報共有が必要なことはいうまでもない。


3.対策の実施可能性:日本は既に対策を十分に実施しており、これ以上できないのでは。

・現在、ポスト京都議定書の議論が進められているが、日本の経済界は、どうしても実行可能な範囲の削減量を落とし所にしようとする。自己否定につながるような、二酸化炭素の排出量の抜本的な転換に、即時に合意することはできないだろう。

・また、日本の産業部門からの二酸化炭素排出量は削減あるいは横ばい傾向にある。民生部門からの二酸化炭素排出量が増大する傾向にあるのに対して、産業部門は自主的に対策に取り組んでいる。すでに「乾いた雑巾」であり、これ以上、絞っても水はでない。こうした産業界の主張もあるだろう。

・しかし、産業界が絞っても出ないといっている雑巾は、拭きやすいところを拭い
た雑巾であり、別のところを拭けば、雑巾はもっと濡れたものとなるだろう。ビジネスモデルの転換等も含めて、抜本的な対策が求められる。


3.対策の両立性:地球温暖化対策は、経済や快適性等とトレードオフになる場合が多いのではないか。

・地球温暖化対策は、経済面、社会面のメリットと両立する場合としない場合がある。両立する側面として、省エネ対策によるコスト削減、地球温暖化対策を市場とするビジネスチャンスの拡大等である。相反する場合としては、ビルの空調の温度設定を変えることによる利用者のアメニティの阻害等であろうか。

・しかし、経済面、社会面と両立する地球温暖化対策は多く、両立する点を優先して対策を実施すればよい。また、地球温暖化対策により多面的メリットを創出するような仕組みをつくればよい。例えば、ESCO事業は、省エネ化により削減した光熱費がビル所有者やESCO事業者に配分される。ビル所有者は、ボイラーの更新等の設備投資の資金調達をESCO事業者に委ねることもできる。

・環境省が実施しているストップ温暖化大作戦というものがある。全国各地で実施されている地球温暖化防止に係る取組を発掘し、都道府県大会、全国大会を実施し、情報の発信と共有をしようという事業である。応募されている活動は、地域おこし事業となっているものが多く、地球温暖化対策を楽しみ、地域活性化につなげようという強かな熱気を感じるものばかりである。


追記:折しも、太陽光発電や電気自動車に代表されるような環境投資をすすめ、未曽有の経済不況を脱しようとするグリーン・ニューディールが注目されている。こうしたグリーン経済への移行を、地域から実現していくことが期待される。そうした地域経済のグリーン化が国を支える姿こそ、次世代の本流となるべきものだろう。

4.抜本的な対策の具体性:地球温暖化防止のために抜本的な対策が必要というが総論はわかるが各論がわからない。

・地球温暖化問題の根本には、化石燃料への依存や大量生産・大量消費・大量消費といった現代文明やそれを支えるライフスタイルの問題がある。こうした現代文明のひずみが、地球温暖化だけでなく、資源・エネルギーの枯渇、食糧問題等、人類の持続可能性に係る問題の根本にある。問題の根本を地域で共有し、代替的な豊かな暮らしの実現を、地域の共通目標としていく必要がある。

・しかし、一度なじんでしまった生活を、伝統的な様式に回帰することは難しい。革新技術の導入とスローライフ、グローバル経済と地産地消型経済のバランスをどのあたりに見出すのか。総論としては、2つの要素のバランスの必要性を理解する人は多いだろうが、ウエイトのかけ方は人様々であろう。

・低炭素で持続可能な地域を実現していくために、「どんな街にしたいか・どんな暮らしをしたいか」という議論を、地域内の関係主体で尽くしていくことが必要だろう。当面の実行可能な範囲の施策の合意に留まらず、価値規範のあり様にも踏み込んだ、地域での議論が必要である。


以上
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